第四十四話 食品加工のお時間です
きちんとした異世界転生者や転送者であれば、この後様々な苦労をして収穫した野菜の処理をするのだろうと思う。
それこそ、一緒に畑を作った農家の人たちなんかの度肝を抜きながら乾燥させたり脱穀させたりして技術を伝えるべく頑張るのだろう。
しかし今回は野菜を作ったのも食うのもチートの塊でしかない我々なので、今回は適当に製造キットで済ませてしまうのだ。真面目にやるのはいつかこの世界の人たちに教えるときでいい。
てなわけで、さっさと素材を作っていく。
ミーンからは小麦粉を、ダイズからは醤油と味噌にお豆腐をそれぞれクラフトする。脱穀どころかそれをすっ飛ばして直に加工してしまうというわけだ
大体の転生者が醤油と味噌に頭を悩ませてるのをラノベで読んで知っている。
書いてるのが大体日本人である都合上、転生者は日本人であることが多く、味噌や醤油を渇望する傾向がある。
しかし、あれは作り方を知っていても、技術的な知識があってもそう簡単に作ることができない憎い奴らだ。
そう、麹の入手がほぼ不可能な事が原因だ。
菌類が見えるチートスキルでもあれば適当に麹菌を捕まえて醸してもらえばいい話なのだが、そのスキル持ちは転生をせず地球で生活しているのを漫画で見たくらい。
俺が知ってる限りでは異世界で活躍してるような同スキル持ちを見たことが無い。
なので製造法は知っていてもそこで詰むことが出来るのだが、その辺製造キットはずるい。
例えば醤油であればダイズと塩と小麦を用意するだけで作れるようになっているのだ。狩りゲーでどう考えても用意した素材だけでは出来なそうな武具が作られるのと似た感じだな。
最悪、"女神様"をうまい事煽ててあっちから麹を買ってきてもらうことも考えていたので、なにかとガバガバな女神様に今はただただ感謝している。
そんなわけで味噌に醤油、豆腐に小麦粉をクラフトし、下準備が完了した。
ミーンを加工している時にビールも作れるのでは?と思ったが、クラフト画面を見ると水とミーンの他に香りづけのホップ的なものが必要だった。
もしかして拾ってないかなと思ったが、ボックスには入っていない。醤油の素材である小麦もそうだったが、変なところはガバガバじゃないのが腹立たしい。
ホップか……。それによく似たカラハナソウとかいう奴がうちの裏山(地球の)に生えているのを見たことがある。
まさかそんな身近な所でそんなものを見るとは思わずびっくりしたが、この世界でもきっとそんな感じで魔獣の森にでも生えてそうだ。後で探しにいってみなくっちゃ。
この世界産の地ビール飲みたくねえか?ってパンを誘惑すればホイホイ手伝ってくれるだろうしな。
◇
庭で当分食べる分の野菜と靴を軽く洗って家に入るとちょうどルーちゃんたちが風呂から出たところだった。
「あ、お疲れ様ー。あんたも早くお風呂入りなさいよ。ドロドロじゃないの」
一応気遣ってくれているのがありがたい、が、
「あー、おなかすいた。早く上がってご飯にしてね?ルーちゃんもおなかペコペコなんだからね?あ、お風呂前につまみになるもの置いてってよね、手だけ先に洗ってさ」
と、続くから油断も隙も無い。
まあいい。今日は奴も腰を痛めた同志だ。その働きに免じて出来立ての逸品を置いて行ってやろう。
「ほら……食いな…お豆腐だよ…」
小瓶に入った醤油も忘れずにおいてやる。
「冷奴なんて気が利いてるじゃないの!あ!ほらほら!はやく風呂に入った入った!」
餌をもらったらこのざまである。へいへいと従い風呂に向かった。
しっかりと身体を清め調理に取り掛かる。味噌と醤油に豆腐まで手に入った。そして小麦粉もある。今夜はうどんを作ることにした。
打ち方自体は知っているが、今日はもう面倒なことはしたくない。なので麺はクラフトに頼り、その分調理に手間をかける。
乾燥させたムックル(キノコ的な魔獣)とクロベエが取ってきたレッグコッカの残りで出汁を取る。醤油を入れ味を調えると優しい味のいいスープができた。
やはり醤油があると心が豊かになるな。
タマナとキウンバ、それにさいの目に切った豆腐で簡単なサラダを作り、シラウのペーストに少量の味噌を混ぜたドレッシングをかける。もったりとした食感で甘みの中に塩っ気を感じてなかなかうまい。マイルドな味噌ドレッシングだ。
もう一品、シンプルなふかしジャモだ。こいつは火を通すだけでそのままいける。バターがあれば鬼に金棒だが、なくてもかなりうまい。
今日はうちの収穫祭だ。育てた野菜を美味しくいただこうじゃないか!
「いただきまーす!」
パンもルーちゃんも夢中になってうどんをすすっている。クロベエはというと、野菜は嫌だというので出汁につかったレッグコッカと池に放そうといくつかキープしていた魚の魔獣を調理して食わせてやった。
まあ猫だしな。雑食っちゃ雑食だけども肉や魚の方がいいのはわかる。
「ユウ!ルーちゃんにうどんをください!」
「あ!私にはジャモちょうだいよ!」
給仕をするのに忙しくてろくに食えないが、喜んで食べてくれてるのだからあまり嫌ではない。
この暖かな雰囲気だけで満足してしまう。
◇
今日は疲れたのか早々とルーちゃんが寝た後、パンから貰ったビールを飲みつつ枝豆をつまむ。
しっとりとした大人の時間……になんてなるわけもなく、作業中思いついたことを話してみる。
「あ、そうだ。ビールと言えばさ、ミーンが沢山手に入っただろ?だからビールでも造ってみようと思ったんだが、あれってホップが要るじゃん?後で魔獣の森でも見に行こうと思うんだけどさ」
「鋭いわね、確かにあの森には近いものが自生しているのを見たわ。いいわね、今度取りに行きましょうよ」
「じゃああれだなあ、冷蔵庫も作らないと行けないね。冷えてないビールなんて日本人には酷だよ」
「そうねそうね!冷蔵庫を動かすには大型の魔石が要るけど、クロベエちゃんが獲ってきたレッグコッカのなら十分に使うことが出来るわ」
酒の話は盛り上がる。ついでに魔道具についてもう少し話を聞いてみよう。
今夜は閑話としてもう一話、投稿しました。よろしければご覧下さい。