第四十三話 しゅうかく
さて!そんな話は後にして収穫だ!収穫!
そう、今日は待ちに待った収穫日だ。朝から小難しい話をしていて良い日ではない。
一応、品種改良にも使っていた製造キットを使えば発芽した時点で野菜に変えることはできるが、それで作るとどんな野菜であっても1つしか手に入らない。1つの苗につき1つだ、めちゃくちゃコスパが悪いので改良具合の確認以外じゃもったいなくて使えないわけだ。
なので今日、思う存分収穫できる今日が本当の収穫日。苦労して品種改良し、虫や魔獣の侵入に目を光らせ、耐えに耐えて待ちに待った収穫日だ。
といっても、大体が蒔いてから1か月程度で収穫可能という超イージーな環境なのであんまり威張れるようなものではないのだが。
「じゃあ、ルーちゃんみててごらん」
ジャモを両手でつかみ、一気に引き上げる。さほど力を入れずに抜けるためこれならルーちゃんでも大丈夫。
「わあ!凄いね、たくさんついてるよ!」
握りこぶしくらいのジャモが5~6個ついている。これだけ実れば大成功だな。
「じゃあ、ルーちゃんもやってみて」
おっかなびっくり行くかと思いきや、ギュッと握るや一気に引っ張った!
「わあ!」
思いのほかすっぽり抜けちゃったもんだから、勢いそのまま後ろにゴロンゴロン転がった。
「わあ!ルーちゃん大丈夫!?」
思わずパンも駆け寄るが、ルーちゃんはニッコリ笑顔でジャモを掲げて見せた。
泥だらけのいい笑顔だな!
じゃあ、その調子で頑張ってねーと、パンとクロベエにもお願いし、俺は他の野菜を収穫する。
まずはキウンバだ。河童のおっさんたちがキウリと呼ぶどう見てもキュウリにしか見えん野菜だが、見た目通り味もキュウリだから面白い。ていうか、キウリって呼ばれてる時点で女神の手抜き感が感じられる。
キウンバは冷やして丸かじりしたり、サラダにしたりこれはこれで便利な野菜だ。
次にタマナを収穫する。これは俺の努力の結晶1号で、煮てよし炒めてよし生で良しのハイパー野菜キャベツさんを再現したものだ。
この世界にも似たような種はあったのだが、球にならない品種だったのでコツコツ弄って球になるようにした。味が似てても球じゃないとこう、寂しい!それだけで頑張った。
ジャモを取り終えたルーちゃんが次はなんだと駆け寄ってきたのでダイズの収穫を頼む。
これも俺がガッツリ品種改良して再現した結晶2号で、硬くて食いにくいマメ科の植物から再現した大豆だ。
そして収穫するのはまだ未熟な"枝豆”として食える状態のもの。
未熟な大豆を収穫したものがビールと相性抜群のにくいあいつ「枝豆」なので、理屈で言えば半分を枝豆として、残りは成熟するまで放置して後から大豆として収穫することは可能だ。
俺は面倒なのでどっちも無難な感じに使えるよう品種を調整したけど、普通はそれぞれ適した品種を作って別途作ってるようだ。
確かに近所の婆さんも枝豆のうちに全部収穫しちまって、たまにおすそ分けしてくれたりしていたな。だから枝豆が大豆だなんて夢にも思わなかった。
さて、このダイズは全部収穫してしまう。全部取ってしまっても製造キットのチートがあれば問題ない。枝豆として収穫したものを大豆に変換することができるのだ。
苗からクラフトするのとは違い、枝豆を素材にすればきちんと粒の数だけ大豆に変換されるのでコスパが悪いこともない。
パンちゃんと二人、カゴに枝豆を入れるルーちゃん。結構大変な作業だろうに飽きずに頑張ってくれている。
クロベエはというと、ジャモはもう無いというのに穴掘りに夢中になっている。
畑自体はどうせ開拓ツールで直すから構わないが、泥だらけなのはいただけない。後で洗ってやらないと家に入れられないな……。
ところで今回はアプリに頼らず自分たちで収穫している。
範囲指定してタップすればそのままアイテムボックスに入るため、楽っちゃ楽なのだが風情がない。というわけで、今回だけは汗水流して収穫の喜びを味わおうとみんなで泥だらけになっているのだが……。
「ミーン!おめえだけはだめだ!」
そう、問題はミーンであった。いわゆる麦に該当するこの穀物の収穫は腰を覿面に痛めつけてくる。
麦はいくつあっても困らねえだろと、欲張って結構な規模のミーン畑を作ってしまったため、黄金色の海で腰をさすりながら遭難しかけているわけだ。
収穫の喜びはほかの野菜で味わったからもういいだろ?いいよね?いいのだ!
問答無用でアプリを立ち上げ、かたっぱしからアイテムボックスに収納してやった!
一瞬で目の前から消え去った黄金の海。少しさみしい気もしたが、俺の腰には代えられん。
ずるをしたおかげであっという間に終わってしまったので、ルーちゃんたちのところに行って枝豆の収穫を手伝う。
これはこれで結構腰に来るが、楽しそうなルーちゃんを見ちゃうといまさらずるをすることはできないな……。
ちらりとパンを見ると目があった。
つらそうな顔で苦笑いをしているあたり奴も腰に来ているのだろうな……。女神の加護とやらで身体強化でもすれば良さそうなもんなのに律儀な奴だ。まあ、ポンコツだからその考えに至ってないのかもしれないが。
2時間ほど腰を痛めつけ、ようやく収穫が終わった。
ダイズもまた、色々使うってことでほかの野菜より多めに作ったため、そこで余計に時間がかかってしまった。次からは容赦なく全てアプリで収穫しようと思う。
問題は次も楽しみにしているルーちゃんだが、ルーちゃん用の畑を作って、ジャモや何かフルーツでも作って植えてやればいいだろう。
確かどこかでイチゴっぽい野草を見かけたから、今度採取して改良すればそれらしいのが作れると思うしな。
「みなさん、お疲れ様でした!おうちに入る前に靴とクロベエを洗ってから入ってね」
その言葉に「はーい」と元気よく返事をするルーちゃんと、絶望した顔でこちらを見るクロベエ。
ふっふっふ、俺が洗うとなればきっと暴れるだろうが、ルーちゃんとなれば怪我をさせるわけにもいかず黙って従うだろ?覚悟して洗われろ!
「じゃあ、パン。ルーちゃんと先にお風呂入ってくれ。俺は調理の用意をするからさ」
農園から家に向かう二人と1匹を見送り、ただ一人加工の用意を始めた。