第四十一話 品種改良
あれから2週間程様子を見ていたが、モルモル達はあれ以降極端な成長をすることは無かった。
ただ、ルーちゃんの影響下のみとは言え普通に喋るようになったのと、知能が上がったため余計に「モルモル」と一括りにして扱うと時々面倒な事になるため名前をつけることにした。
例えば…
「モルモル、明日ちょっと外の片付けするからゴミの回収手伝ってくれ」
なんてお願いしちゃうと大変だ。
「ふむ、主よ、その場合のモルモルとは我の事だろうか,それとも今地下で浄化している同胞の事だろうか?それとも二人ともと言うことだろうか?その場合、屋内の浄化作業は止まってしまうのだが」
と、こうだ。しまいには俺もなんだか良く分からなくなってどうでも良くなってしまうからたまらない。
「というわけで、なんだか微妙に理屈っぽいお前がモル助、今日地下に居るやや緩い方がモルゾウだ。これからはそう呼び分けるからな、いいね?」
「うむ、分かった。本来ならばルー様より名を拝命されたかったが、主でもかまわない」
「そうかい、まあ改めてよろしくな」
モルゾウには地下の水回りを、モル助には庭の掃除を頼み俺は先日からやっている作業に取りかかる。
それは作物の品種改良だ。といっても、難しいことをやっているわけではない。
野菜を素材として作った種子を畑に蒔いて発芽させる。普通なら時間がかかる発芽も加護を受けた水により数分で芽を出すから面白い。流石にそこから収穫までは一月ほどかかるとのことだが、それでも十分チートな畑だと思う。
発芽した芽を鑑定し、図鑑をチェックすると稀に変わった特性を持つ個体が芽生えることがあった。パンに聞いてみたら、その時点で素材に出来るとのことだったので素材としてキープし、他の個体とあわせて素材にし、一つの個体として種を作る。
いわば合成のような事をやってるんだけど、これがまた妙に面白くてここの所ずっとやっている。
今できているのはこんな感じだ。
====================
名前:キウンバ改
通常、キウンバは水分を豊富に含む以外目立った特徴が無いが、この品種はそのまま食べてもほのかに感じる塩味と、謎のうま味で食べ出したら止まらない逸品となっている。なお、タルット族のが言う「キウリー」とはこのキウンバの事を指す。
効果:脱水回復+2 熱病回復+3 美容+2
名前:ジャモ改
従来のジャモはお世辞にも旨いとは言えず、炭水化物を摂る野菜という印象が強かった。しかしこの品種は火を通すことによりホクホクとした食感と、ほのかな甘みがあり何個でも行けてしまう。栄養素も高いため、うっかり食べ過ぎると肥満に繋がる乙女の敵である。
効果:疲労回復+2 筋力強化+3(B)
名前:タマナ
ぶっちゃけキャベツである。この世界において存在しなかったキャベツを在来種であるタメニンを改良することにより再現させた新種。通常球にならないタメニンだが、改良されたこの品種はキャベツのように育ち、その味も生食に耐えられる素晴らしい出来となった。
効果:解毒+1
名前:ミーン改
パンの素材として使用されている穀物だが、在来種から生産されるパンはどう作ってもフカフカにならず、薄く切って食べるのが正しいとされていたが、それを打ち破るフカフカで美味しいパンが焼ける新たな品種である。この品種から作られたパンはフカフカで甘みがあり、それでいて栄養素も高く主食として十二分のスペックを持っている。
効果:HP回復+1 防御力強化+2(B)
名前;ダイズ
これまたぶっちゃけたところ大豆である。在来種であるズンマを改良し続けることにより誕生した根性の逸品。固くて炒って携行食にするしかなかった在来種からよくもここまで大豆に近いものを作ったものだと思わず感心してしまう。大豆同様栄養価が高く、普段の食事には勿論のこと、携行食としても優れている。
効果:HP回復+1 筋力強化+1(B) 素早さ強化+1(B)
====================
みたかこの努力の結晶!パンに見せたら感心しつつ呆れていた。テキストは味や栄養素、特殊効果が淡々と記載されたシンプルなものだったが、パンに見せた後ちゃんとしたものに変わった。自分で編集したんだろうなあ。
「味は兎も角、なによこの効果。普通野菜食っても効果がつくのは稀なのに固定させちゃったの?」
なんてパンは言っていたが、固定されちゃったものは仕方が無い。品種改良とはそういうものだ。
(B)ってのがどうにも気になったんで聞いてみたら、
「ああ、それは永続されない、限られた時間のみ効果を発揮するヤツね。ほら、あんたが好きなゲームでよくあるでしょ?一定時間攻撃力が上がるバフとか、そういうのよ」
なんて非常にわかりやすい説明をしてくれた。悔しいがこれ以上無い良い説明だった。
というわけで、今日は色々なスパイスでも作ろうと画策していたのだが、元々スパイスを使う程文化が発展していなかったようで、交換してきた野菜には良さそうなものが無かった。
「うーん、これは森をうろついて野生種を見つけないとならないかな」
とは言え、クロベエと二人で行くとなるといちいちスマホで鑑定する必要があり面倒だ。
今度ルーちゃんをだしにしてパンを連れ出し、適当に煽てて香辛料になる植物を教えて貰うことにしよう。
青々とした畑を見ると達成感が溢れてくる。
これで蒔いてから10日というのがちょっと恐ろしくなってくるが。