第三十九話 おひっこし その3
ルーちゃんの説明会が始まった。わが娘ながら堂々とした姿に見惚れてしまう。
「よく聞いてね、ここのルールをいいます!まず、ここから出て元の湿地に遊びに行きたいって時は私にお願いすること!勝手に外に出ちゃだーめ!ルーちゃんがみんなを守れなくなります!あとはねー えっとえっと…」
言葉に詰まり、ごそごそ始める。あっカンペ取り出した。立派な演説してると思ったがこりゃパンの仕込みだな。
「えっとね、私とけいやくしたみんなはー、ここではしな?死なないんだって-?チメイショウをうけたら消えるけど、なおれば復活するんだって。
そのかんけいでやられちゃった瞬間、いちじてきに消えてほごされるから、けいやくした他の魔物を狩ってご飯にはできないんだって」
「おい!女神!なんかすげえこと言ってるぞ!説明してくれ!」
「ああ、端的に言うとコアと契約したモノはダンジョンのシステムに登録されるの。そしてこのダンジョン内に居る限り普通の理から外れる、つまり生死の仕様が変わるわけ。」
「仕様が変わるって、どういうこったね?」
「当たり前だけど普通は死んだらそれまででしょ?遺された肉体は他のものの糧となったり、腐敗したりしてやがて世界に還る。でもダンジョン内ではそこから外れダンジョンのルールに則った仕様に変更される。」
「今日は結構難しい話をされて頭がパンパンだ、俺に優しい説明を求む!」
「うーん、わかりやすく?じゃあ、ゲームっぽく言うわよ?えっと、HPが0になる瞬間、又は復帰不能状態になった時ダンジョンの回復ルームに飛ばされるのよ。
そして必要であれば欠損個所は復元され、一定のクールタイムを作る都合上しばらく眠らされるの。直ぐリスポーンしたらリスキルされるかもしれないでしょ?」
「ああ、ありがたい、非常にしっくりくる説明だよ。いくら死なないとはいえリスキルされるのは辛いもんな」
「そんな感じの仕様だから殺して捕食することも出来ないし、魔石を奪うことも出来ない」
「ふーん、普通には死ねなくなるってこったね。じゃあ寿命で死ぬことも無くなるの?」
「これはあくまでも身体を治す仕組みだから肉体は老いていくわよ。
だからちゃんと限界が来れば寿命が来ちゃうし、それはこの仕組みでは回復できない。
亡くなった瞬間、回収して世界に還すわ。寿命に干渉…、不老不死属性を付与出来ないわけでは無いけど、流石にそれまでやっちゃうと無限に増えて酷い事になるわよ」
「うっ…なるほど、確かにそうだ、このフロア全体にみっちり増えたカッパのオッサンとか辛いこと想像しちまった……。ふーん意外とちゃんとしてんだな」
「当たり前よ。魔物同士やり合うのは勝手だけど極端に減られるのも困るし、個体数周りはちゃんと手を回したわ。想定外に増えた場合はルーちゃんと相談してフロアの拡張で対応するつもりよ」
なるほどね。魔獣達は死んでもリスポーンポイントとして定められている場所でリスポーンするのがこの世界の仕様だが、それはあくまでも知識の一部を引き継いだ同族の別個体という話だった。
しかし、このルーちゃんダンジョンの特殊な仕様では「死ぬ直前に回収され保護される」という素敵仕様のため、見た目上は通常時と同様にリスポーンしているように見えるが、この場合は別個体では無く完全な同個体がフル回復して戻ってくると言う感じなのだな。
と、話し込んでて気づかなかったがルーちゃんの説明に妖怪達がざわついている。不安そうな声が飛び交っているのは今のところ飯の問題について解決策が明言されていないからだろう。
「しーーずーーかーーーに!!!!おはなしをーー!!!きいてっ!!!!」
>< こんな顔で両手をブンブンふって妖怪達の混沌に対抗するルーちゃん。使役には強制命令権限はないはずなので、ルーちゃんの魅力がそうさせるのだろう、妖怪達が一応静かになる。
「ふう。みんなが静かになるまで10びょうかかりました。
いい?ルーちゃんとけいやくしてない子たちはお外にいるのと同じです!
お魚や虫さん、葉っぱなどはちゃんと食べられるし、食べちゃったらもう生き返らないです!
でも、お外のよりふえやすくなっています!みんなのたいせつなご飯です!たべすぎないでね!ユウがおこるからね!」
「きいたか、魚やキウリ食い放題やって!」
「馬鹿野郎!外より増えやすいけど加減しろって言ってただろ!」
「馬鹿言うなや!アホが!」
「こらこら、喧嘩しちゃダメよ、ルー様に怒られるわ」
「うむ このだんじょん しょくぶつすら そとのよりうまかったぞ さかなもきっと うまくなる けんかせず くおう」
いちいちざわざわうるさい妖怪どもだ。
「説明はだいたい以上です!基本的にお外と同じ感じで暮らしていて下さい!困ったらルーちゃんになんでも言ってね!」
「かいさん!」の声と共にザワザワと妖怪達が散っていった。これからここに妖怪達の新たな生態系が産まれるのだろう。
しかし、死なない仕様とは面白い事聞いた。曰く、種の絶滅を防ぐ一種の保険みたいなもんだと言っていたが、これはちょっと改良して貰えば便利に使えそうだ。
それは取りあえずも少し後の予定と言うことで、今日の所は帰ることにした。ルーちゃんはもう少し見てから帰るとのことだったので、パンに任せクロベエと二人一足先に大転移門をくぐった。
「うーん、仕組みは理解したがやっぱちょっとゲートはおっかねえな」
「そうか? おれ よくわかんないや」
「お前が羨ましいよ…」
◇
自宅で一休みしながら予定を考える。
直ぐやりたいのは風呂の用意だ。
風呂に入るにはまずタオルと衣類をクラフトする必要がある。
ルーちゃんの服はパンが何着か用意してたので、衣類は俺のだけクラフトすればいいのだが、ルーちゃんの服を買ったと聞いたときはなぜ俺のも買ってくれないんだと腹が立ったものだ。
しかし後になって冷静に考えたらパンに下着を選ばれるっていうのはなんだかアレなので、強くおねだりしなくて本当に良かったと思う……。
よし、早速やろう!風呂のこと考えたら居ても立っても居られない!なーに、製造キットを使えばあっというまに作業は終わる!そしたら風呂だ!風呂!
ちゃちゃっとアプリを立ち上げタオルを選ぶ。素材が揃っている綿のタオルを選択し取りあえず10枚ほど作った。
タオルは染色材を手に入れれば様々な色のものが作れるようで、綿のタオルだけで1ページ埋まっていた。この様子だと他のページも綿のタオルで埋まってそうだし、普段使いで色にこだわるようなものでもないし、何色あるのか確認するのは日が暮れそうだしやめておいた。
タオルは1枚あたりのクラフトに2分程度かかるようだ。10枚で20分か……今後短くなったりすんのかな…ならないかな……。
次に服だが、これもまたそれぞれ様々な色があるようだった。シャツは白だけじゃなくほかの色も作れたら欲しかったので試しに数ページ眺めてみたのだが……
「くそが!!!パンが戻ったら改良させてやるぞ!種類の横にボタンつけてカラー選択出来るようにさせてやるんだ!絶対だ!こんなサイトデザイン最悪のネットモールみたいな仕様はだめだ!」
シャツを押せば綿のシャツ(白)綿のシャツ(茶)綿のシャツ(黄)綿のシャツ(青)…と並んでいるのだからほんと酷い。
同じデザインで色が違うだけの商品で水増しされてる商品ページを思い浮かべて貰えばピンと来るだろう。1ページに10件表示、4ページ目にもみっちり綿のシャツが並んでるのを見て嫌になってめくるのをやめた。
恐らくそれの後にもしばらく綿のシャツが数10ページ続き、その後ようやく絹のシャツ(白)絹のシャツ(茶)…と並んでいるのだろう。綿の素材を取ってきて本当によかった…絹のシャツを作ることになっていたら一体何ページめくる羽目になっていたことか…つうか色の種類がありすぎるんだよ!!!
綿のパンツにシンプルなジャケット、そしてズボンも作った。白のジャケットに白のズボンってのは嫌だったのでズボンだけは染色することにした。
幸い薬用に取っておいた植物が紺の染料になるようだったので、紺色に染めてやった。綿だけどジーンズ風にしたかったのだ。紺色に辿り着くまで5ページで済んだのが救いである。
うーん、となると白の下着もまたなんか嫌だな!染色に使う素材が勿体ないからシャツは諦めるが、パンツだけは紺色にした。純白のパンツを穿いた乙女はいいものだが、おっさんはだめだ!
クラフトに結構かかったのとクソUIのせいで気づけば結構いい時間を消費していた。そろそろルーちゃん達も帰ってくる頃だろう。風呂を沸かしておかないとな。