第四話 充電器大事マジ大事
アラームの音で目が覚めた。
スマホを見ると時刻は朝7時。腹立たしいことに、いつもの習慣通り出勤時刻に合わせての目覚めだ。
今は何者にも縛られぬ自由な生活をしてもいいんだろ? そう思って、二度寝をしようとも思ったけど、早めに食料調達をしなければ飢える羽目になる。自分の行動を縛る他人はいないけれど、それと同時に頼りに出来る他人も居ない。自由の代償に自立がのしかかってくるとはなんてこったと毒づいて仕方なく起き上がった。
他人には頼れないけれど、女神様には頼れるんだよなと、ログボを貰うためパンちゃんが入れてくれたアプリを立ち上げる。
『今日のログインボーナスはこれ!<水 3日分>明日はこれが貰えるよ!<魔石1個>』
ドサドサっという音とともに2Lボトルに入ったミネラルウォーターが3本降ってきた。
1日2Lという計算なのだろうか?そもそも異世界にペットボトルとか何考えてんだ。
ていうかもう既に飲める水場を確保しているんだよなあ。正直ありがたみは無いがペットボトルだけは今後何かの役に立ちそうなのでありがたく受け取っておく。液体をこぼさず持ち運べる容器って作るの難しいだろうからな。
ログボを貰った後も手癖のようにアプリを弄っていると、なにやら「クラフト」という項目が増えていることに気付いた。なんじゃこりゃと開いてみると、どうやら便利な道具を作れるようだぞ。
<開拓キット> <建造キット> <製作キット>
なんだかとても大雑把な項目だが、道具をセットで入手できると言うことなのだろう。
何が必要になるのか分からないからこう言うのはありがたいが、相変わらず適当で雑な女神だな……。
家を建てるなら建造キットが必要だと思うけど、先に土地をある程度開拓してからなるべく平坦で安全な場所にしてから家を建てたい。
迷わず開拓キットをタップすると『クラフト中 残り時間 12時間』と表示された。
見ればじわじわと残り時間が減っていく。ソシャゲに良くある奴をまねたんだろうが、あれは長期に渡ってプレイヤーを離さないためのものだろ?このアプリにそんなもんいるんすかね?っていうか初めから解放でよくね?
とはいえ、これはこれで楽しみが出来たと思えるので、実はそこまで悪いと思っていない。
ゲーム感覚で開拓を楽しめっていうんだろ?いいじゃん。やってやろうじゃん!
となれば、先に地図見てみないといけないな。うろついたから結構範囲が広がっているはず……、とスマホに視線を移したとき電池残量が目に入った。
何かの間違いでは無いかと思ったが、何度確認をしても減っている。これまで何をしても減ることが無かった電池残量が「25%」を示していた。
「おいおいおい!電力消費をしなかったんじゃないのか!?ありがちな無限電池じゃないの?」
間もなくメールが入る。
『電力消費はしない、しないがバッテリーの残量が減らないとは言っていない』
「どこのくそじじいだよ!一体どういうことなの?」
『この世界には電力という概念がありません。そこで魔力を消費する仕様に変更しました。最初はサービスでこちらから魔力を送信していたため残量が変わらなかったと思いますが、自立して貰うため充電器からはずs・・・供給を絶ったのです。クラフト機能の解放はそれを実感して貰うためでしたが、どうですか?使ったため一気に魔力を消費してしまったでしょう うふふ』
「なるほどなー 意地悪だなーって充電・・・充魔?いや、面倒だから充電でいいや、充電はどうすれば良いんだい?」
『簡単ですよ魔石を用意してその上にスマホを乗せるだけです。ほら、Qiとかあるでしょう?ああいう感じですよ』
「ははあ・・・ それで明日のログボに魔石があるわけかー」
『ですね。ちなみにログボ石では10%程度の充電が可能です』
「げえ、たった10%!? てか、クラフトした結果残量が25%になったけど他の機能もそんなに使うの? 今後何かしようと思っても、残量不足でーってことにならなく無いっすかね」
『うーん・・・そうですね、コストによりますが他のも結構使いますよ。例えば各種クラフトだとログボ石だと9個分でおつりが来るくらいですね。 あはは』
「あははじゃねえ!」
『でもポンポン石やら回復林檎やら配ってパワープレイされたらアプリ飽きられるの速くなるじゃないですか……』
「ソシャゲ開発みたいなこと言ってんじゃ無いよ!こっちは生活がかかってるの!リアルなの!リアル!」
『それもそうでした。うーん……魔石は魔物のコアとなる物質ですので、魔物を倒せば手に入りますよ。魔獣ならそこらにポコポコ居ますので、頑張って倒しましょうか』
「気軽に言ってくれるなあ……」
『まあ、最初のキットに入っていたナイフとクロベエちゃんの力があれば、この辺りの魔獣程度さっくりと狩れるんじゃ無いでしょうか? うん、きっと大丈夫よ』
時々言葉遣いがいい加減な女神である。きっとちょいちょい素がでちゃうんだろうなあ。
ともあれ魔石は必要だ。パンちゃんとのメールを打ちきると手早く食事をとり、クロベエと森に向った。
「クロベエ、適当に索敵して獲物を探してくれ」
「え、さくてき? 何言ってんの?猫だよ おれ」
「なんかスキルとか芽生えてないの?魔獣的なさ」
「無茶ぶりしてくれるなあ……うーん、言われて見ればあっちの方からイライラする感じがする…」
「やればできるじゃん!行ってみよう!」
クロベエがイライラすると言う方向に行ってみると、中型犬のような何かが数匹ノシノシと森の中を歩いていた。ぱっと見は普通の犬のような姿だが、三ツ目で角が生えている犬を俺は知らない。うん、これは魔獣だな。
「いけ!クロベエ!体当たりだ!」
魔獣が魔石にしか見えなくなっている俺は、さっさと片付けようと命令をするが、クロベエはじっとしていて魔獣に向かって飛び出す様子が無い。
何やってんだこいつと、隣のクロベエを見れば泣きそうな顔をして固まっている。
ああ、これ、散歩中に野良猫と遭遇したときの顔だ。口元をフコフコと膨らまして、耳をぺたんと寝かせ、尻尾は太く膨らませ、何時でも逃げられるように腰を引かせている。
「えぇ……」
「だ……だだ……だって犬だよ?こここ……怖いじゃん?」
猫には2種類居る。犬を見るとすっかりビビって逃げるものと、小馬鹿にして近づいたり飛びかかったりするもの。クロベエは余裕で前者であった。
「いいかい、狸のおじさんよくお聞き?おまえは今、身体がとっても大きくなっているんだ。見ろよあいつら、子猫と大して変わらないじゃないか? 子猫にびびったことはあるか?あんまり無いだろう?やれるな?やれるさ!よし!やろう!」
諭すように語りかけると単純なクロベエはスッと憑きものが落ちたような顔になった。
「そうだ!今のおれは強い!やれる!うおおおおおおお!」
図体だけ大きくて攻撃力は……なんて想像もしたが、やるものだ。
猫じゃらしで鍛えた猫パンチは魔獣達をあっという間に無力化し、ネズミを狩るかのように勝負はついた。正直ちょっと怖かった!
野性味溢れすぎる光景に自分でやれと言った物の、若干引いていると……聞いても居ないのにメールが入った。
『あ、そいつらお肉は臭いので魔石だけとるといいですよ』
う……そうですよね、解体作業ってのがあるんですよねえ。解体……いいよね……よくねえよ! 俺は普通の日本人だぞ! 狩猟免許を持っているわけじゃねえし、田舎のじいちゃんがマタギだということもない!解体なんて……解体なんて……!
……魔石の位置を聞いてそこだけ切り開き回収した。
おなかにね、ナイフを入れるとね、ゾワッとしたのね。ああ、これが命を奪うって事なんだあって思ったの。既にお亡くなりになってたけどね。
でも凄いよね。1匹頑張って解体したら不思議と慣れちゃったんだよ。魔石がね、魔石が悪いの。頑張って取り出した魔石をね、じっと見つめているとね……。
(こいつが俺の生命線……スマホを充電出来る魔石……これが無ければあのノベルやあの漫画の最新話を読むことが出来なくなる……あれ……こいつらが動く魔石ケースに見えてきたぞい)
こんな具合になれてきちゃってね……うん、これでなんとかやっていけそうだよ。我ながらちょっと危ない感じはするけどね!
なお、女神から届いた若干引き気味のメールによれば、魔石を抜いた魔物は数日で消滅するとのことだった。
俺達のために犠牲になってくれたのだからと、それでも墓代わりにクロベエに穴を掘らせて墓を作り、再び狩りに向かった。
◇
そして、紆余曲折を得て昼過ぎまで頑張った結果、狩った魔獣の数は俺が3体、クロベエが12体と結構なもんになった。
正直、狩りは犬に刃物を振りかざしてるようで気分は良くなかったけれど「異世界異世界……魔獣魔獣…ファンタジーファンタジー魔石袋……魔石袋……」と自己暗示をかけることにより、狩りにも慣れることに成功したぜ。
狩りも終わったので、さっそく充電タイムだと、魔石にスマホを乗せてみると1つにつき20%ほど回復した。ログボ石とは……なんだかしょっぱいイクラをログボで配っていた某ソシャゲを思い出してしまったわ。
『20%ですか、まあ雑魚なのでそんなもんですね』
とのことだったが、5匹で100%だぞ。15体も稼いだんだ、今日で3日分稼げたことになる。
魔物はちょいちょいリスポーンするから尽きることはない、とのことだったので何かあって狩りが出来ない日のことも考え、日に10体は狩ることにした。
パンちゃんの言いぶりだと食料に出来る魔物も居るのだろう。魔石狩りで慣れた今の俺にはそれすらも容易い……!
というわけで午後からは食料調達に出かけることにする。