第三十六話 沼地で得たもの
開発者とか言って威張っていた女神ですらこの状況は想定外のようだ。わかんないなら心当たりを調べてみるかってことで、ルーちゃんをチェックする。
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名前:ルト
職業:ダンジョンコア
LV:8
体力:6300
魔力:6800
スキル:人化 ダンジョン生成 勧誘 使役 召喚 自動翻訳
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「うわ、知らないうちにレベルが上がってるな…スキルも変わったり増えたりしてるぞ…」
「そうね……、上がるだろうなあと思ったけどびっくりしたわ。それでほら、さっき話そうとしたのがこの『召喚』でね、実はこの間ダンジョンを湿地化した際にレベルチェックしたら『魔獣召喚』スキルとして芽生えてたのよ。」
「湿地化は結構な経験値入りそうだもんな、そりゃ上がるか。しかしなんで召喚なんだ?」
「正しい理由はわからないけど、ダンジョンまでぴょこぴょこ着いてくるモルモルを気遣うような顔をして見てたのよね。もしかしたら移動の手間を省いてあげたいなって気持ちが召喚スキルになったのかもしれないわ」
「あー、なるほど。それを使って後からあっちで妖怪たちを呼び出すってわけね。魚系妖怪の心配もだけど、ゾロゾロ百鬼夜行せずに済むのはありがたいぜ」
「そうね、その際にはあんたにも立ち会ってもらうことになるけど、ダンジョンまだみてないわよね?ふふ、きっと驚くわよ」
「楽しみにしておくさーって、前まで勧誘や使役についてた"魔獣”が消えてるんだけどそれは?さっき”魔獣召喚”って言ってたあたりそれにもついてたんだろ?」
「恐らく、今ここでのやり取りで魔獣だけでは無く魔族とも契約する流れになったからでしょうね。
あのおっさん…いえ、タルットはあんななりでも高度な知性を持つ魔族よ。
なので魔獣勧誘では勧誘できないし、交渉だけの約束で連れて行っても使役出来ないから何かあったとき言うこと聞かせられなくて面倒なことになったはず。」
「あー、口約束だけじゃなくてちゃんとした専用の書面を交わすような感じか。より上位の契約というかなんというか……先を考えればそうじゃないと困るよね」
「ルーちゃんがそこまで考えたのかどうかは分からないけど、おっさんがノリノリで契約するぞってなった時、それに合わせて変化したんでしょうねー。
で、魔獣たちと会議をしてるうち、翻訳が大変だったから自然と芽生えたのが「自動翻訳」って事なのかしらね…」
「俺たちが不毛なやり取りしてる間そんなことが……」
「うん、そうみたい…。でね、スキルの範囲をちょっと調べてみたけど、どうやら何でも使役したり召喚できるようになったみたい…勿論あなたたち人間も…」
「うわなにそれルーちゃんやべえ」
「まあ、あの子にそんな気は無いだろうから、使役に関して言えば魔物全般に使える便利スキルって思っておけばいいわ。それに互いに満足しないと契約は結ばれないし、命令をされたからと言って強制的に従わなければないってこともないし」
「それを聞いて安心した」
「ただ単にダンジョンのルールを発動させるための契約でしかないからね。ダンジョンの住人としての機能を使うための住人登録ってとこかしら。だから別に人間が契約してもルーちゃんに服従して心を支配されるってこともないし、普段通りとなんも変わらないわ」
ダンジョンの住人としての機能……?気になることを言ってるが、今は話すつもりがないようだ。
「でね、聞いてる?うん、それでね、大事なことだけど召喚は別に使役されて無くてもその個体を知ってれば一方的に使用できるから……今後ルーちゃん置いて出かけたりしたら覚悟した方が良いわね……」
「ええ……。集落連れてったら面倒くさそうだからパンに任せようとおもったんですけど……召喚されちゃうかあ……」
スマホといい、ルーちゃんといい、俺以外のものがチートスキルに恵まれていくなあ……。
「で、その"自動翻訳"のおかげで発生してるのが今の状態か」
「そうね、これは…ルーちゃんを中心としてフィールドが形成され、その内部に居るものはそれぞれの言葉が翻訳され、互いにやり取りが出来るスキルね。
自我を持ち思考するものであれば声帯を持たないものにまで作用するため、長く生きて知性が芽生えた樹木なんかともお話できるかもしれないわね」
「ルーちゃんがどんどん大きくなっていく…既に俺よりハイスペックになってしまった……」
遠い目をしてルーちゃんを見てると、会議が終わったのかとてててーっと、走ってきた。
「ユウ、沢山のお友達できたよ!みんなすごいの!お話しできるようになったの!でね、契約したからあとでルーちゃんのダンジョンに呼ぶね!」
おう…成長して言語周りのスキル覚えたのが効いてんのか、さりげに言葉も若干達者になってらっしゃる…ほんと子供の成長ってやつぁ…ぐすっ
最も、ルーちゃんの見た目は6歳くらいだ。これくらい喋れた方が自然だから良いことだと思う。ただ、このまま知性がどんどん上がって賢者のような知性を感じる話し方になったら嫌だな……。
「あ、ああ!勿論だ!」
なんか動揺した感じで答えちゃったが、わざわざ俺の許しを聞きに来る辺りかわいらしい。返事を聞き、にっこり笑うと再び妖怪達の中心に走って行って声たかだかに宣言をはじめた。
「みんな!今日からルーちゃんのお友達ね!ダンジョンについたら呼ぶからきーてーね!」
「「「「はーーーい!!!」」」」
微笑ましいやり取りしやがって……妖怪がお友達とかダンジョンコアらしくてとても正しい感じがするから困る。
返事の後、解散の声を聞いてザブザブと妖怪達が巣に帰っていく。これから引っ越しの準備でもするのだろうか。そもそも持っていくものがあるのか、やつら愛用の道具とかあるのかわからんが……。
「よし、用も済んだし俺たちも帰ろうか。いつまでもこんな妖怪の巣にいられねえぜ!」
「あ!そうださっきから気になってたんだけど!あんた、カッパだの妖怪だの言ってるけどやめてよね!妖怪って言われると一気に世界観が台無しじゃ無いの!」
文句を言わないから気にしてないのかと思ったら面倒くさいから黙っていただけらしい。
何を言われようとカッパのおっさんやタニシの姉ちゃんが居る限り俺は沼の連中を妖怪呼ばわりしていくからな。蟹の妖怪なんて某妖怪アニメ(髪の毛針の方)の3期EDに居るヤツそのものだったしさあ。
蛙のようなゲッゲッゲという声を聞きながら沼地を後にしていると尚更上がる妖怪感。もうここの連中は妖怪で決まりだ。