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第三話 最初の拠点

 クロベエにまたがり辺りを散策する。生きるために何より必要な水の探索と、同じく無いと非常に困る火を熾すとっかかりを探すためだ。


 ログボの食糧セットに水も含まれていればこんな苦労もなかったのだが、全く気が利かない女神だ。そもそも、水や食料はログボじゃなくて『チュートリアル』をこなすと手に入るようにしてくれたら良かったんだよ。ファイアスターターとかさあ、ナイフとかさあ。サバイバルのお約束道具って有るじゃん?


 ログボは好きだしワクワクするけどさ、もっとこう、やりようが有ると思うんだよな。


 ぶつくさ言いながら暫く探索をすると、クロベエが「水場があるよ」と駆けだした。こいつ、実は結構有能なのでは無かろうか。


 クロベエの後を追うと、まもなく視界に入ったのは広くて綺麗な泉で、その中央にはこんこんと水が湧き出す岩場が確認出来、透明度が高さを見るにいかにも飲めそうな感じがする。


 近年、日本ではどんな山奥であっても、沢水の利用には注意が必要だ。


 いかにも飲めそうな綺麗な湧き水、というか、かつてコップが据え付けられ飲み場として賑わっていた場所ですら「大腸菌が検出されました。飲まないでください」等と書いた張り紙があるのだから。


 しかし、ここではそんな心配は無いだろう。何と言っても異世界だ。周りに人工物が有る様子は無いし、ファンタジー的なご都合主義で多少は気を利かせていると思いたいね。


 というわけで遠慮なく両手で掬い口に運ぶ。ヒンヤリとした水が喉を潤し気持ちが良い。


 俺の隣で水を飲んでいるクロベエも満足そうだ……こいつから変な菌が湧いて出て居たりはしないよな……。


 ……まあ、平気だろう。てなわけで、喉も潤ったので休憩がてら水辺に座りスマホを弄る。


 なんとはなしに、いつものくせで毎日見ている掲示板を開いてしまったが、普通にスレッドの最新リストが取得されてしまった。どういう原理か分からないけれどブラウジングができてしまう……うん、これならなんかあった時はググって解決できるな。難しいことは考えない!便利だからそれで良し!ヨシ!


 ただ、どうやらメールの送受信や通話はできないようで、試しに何か起きても問題にならなそうな年下の友人に送ったりかけたりしたが、圏外と同じ扱いにされてしまってメールは送信エラーが出るし、電話に至っては何の反応も起きない。ううむブラウジングができるのによくわからんな。


 じゃあ、マップはどうなっているのだろうとダメもとで開いてみれば、きちんとこちらの地図が表示されていた。


 人工衛星も無いだろうにどういう仕組みなのだろうと弄ってみたが、弄ったところで仕組みなどわかるわけがない。が、使い方というか、仕様はなんとなく理解が出来た。どうやら俺が行った場所がマッピングされ、空白の地図にどんどん地形が書き込まれていくようになっているようだ。


 ダンジョン系RPGなんかでよくあるオートマッピングってやつだな。みたいなもんか。


「パンちゃんめ、ここまでやるくらいなら地図データくらい全部入れてくれてもいいじゃないか」


 ぶつくさと文句を言っているとメール受信を知らせる『ポコーン』といった間抜けな音がスマホから鳴り響く。


「あれっ!?さっき送受信出来なかったのに一体何が起きてるんです?」


 びっくりしてメーラーをタップしてみると、メッセージはパンちゃんからのようだ・・・


『メールや電話はあっちとこっちで時間的な辻褄を合わせるのが面倒なので使えなくしています。ブラウジングもかなり面倒だけどそれは頑張りました。あと、地図の件は探索の楽しみが無くなると思った女神の思いやりです。感謝するように』


『何かうるさくぼやいてましたが、ログインボーナスの他に初心者ボーナスも付与されています。当たり前ですよね?トリセツを読まずにクレームを入れるモンスタークレーマーなのでしょうか?』


『クレームを入れる前にアプリをきちんと見るようにしましょうね』


 なんだこいつ、面倒くさいなと少し思ったけれど、物をくれる神は良い神だ。素直に感謝をしておくこととする。


 『さんきゅー』


 ……特に感謝の言葉が思い浮かばなかったので、シンプルに送った。決して面倒くさかったわけでは無い。シンプルいずベスト、そういう言葉もあるしね。シンプル大事さ。


 送信ボタンを押した後、早速アプリを開いて見ると「アイテムボックス」なる良く知っている単語が目に入る。


「ははあ、よく何も無い空間から出したり無限に入る鞄などあるがあれか!つってもスマホじゃそういう無限倉庫的な使い方は期待できないよね。スマホに肉とかくっつけたくないし…」


 ボックスを開くと中にはついさっきボヤいた通りの物が入っていた……。


【内容物】

『ナイフ』『ファイアスターター』『水筒』『コップ』『皿』


「異世界初心者キットじゃなくてキャンプキットだよね……つかさ、ぜってえ俺のぼやきを聞いて後から入れたよなこれ。ぜってーそうだって。ていうかさ、もっとこう異世界を無難に過ごせるような、活躍できるような何かが欲しかったよなあ」


 そう、思わずぼやくとメールである。


『そういうチートめいたのは後からあげるから……あと決して貴方の話を聞いてから足したわけではありません。食器以外にもちゃんと中に入れてありました。本当です。』


 後からって。っつうか、足したとか言ってんじゃん。これぜってえクロだわ。


 それはそれとして、なんだかチートを催促したようになってしまったが、暮らしが楽になるのは歓迎だ。勿体ぶって後からと言わずに今すぐにでも欲しいものだな。


 幸いなことにナイフはそこそこの大きさがあり鉈のように使えそうだった。さっそくその切れ味を試すべく、クロベエを連れ森に入り手頃な枝を切って見る。


 草刈り程度しかやったことは無かったが、思いのほかスパスパ切れて気持ちが良い。これはきっと後でスキルボードとか見たら斬撃スキルが高レベルで備わっていたり、ステータスを見れば総じて妙に強いとかそういう勇者的な補正が掛かっているに違いない。


 そういうゲーム的な仕組みがある世界なのかは知らないけれどね。


「ふう。なんだか気付けば結構な量の木材を入手できてしまったな。あと必要そうな素材は……」


 と探せば蔓が生えているのを見つけた。これこれ、こういうのが欲しかったんです。良いですよね、蔓。そのままでも使えるし、クラフト面でも様々な素材になるし。有って困るものでは無いので、拾えるだけ拾っておこう。


 そして、蔓集めに夢中になっていると、運が良いことに太めの枝が落ちているのを発見した。巨木から落ちたのであろう、長さ3m程度の頑丈そうで大きな枝は今から作る物に欠かせない物だった。


 ◇


 泉に戻りクロベエに穴を掘るようにお願いする。暫く無視をされていたが、根気よく頼み倒すと、ため息と共にのそりと立ち上がりこちらを見る。


「はぁ……あのさあ、おれ 犬じゃ無いんだけどなあ」


 なんて言いながら渋い顔をしているが、俺は知っている。こいつはトイレの時に必要以上に穴を掘るんだ。絶対穴掘りが好きなはず。妙なプライドなんて捨てちまえよ!YOU!掘っちゃいなYO!


 案の定、掘り始めるとだんだんと楽しくなってきたのか嬉しそうにどんどん掘る。もういいぞ、と止めるまで夢中で掘ってくれたんだからありがたい。つかやっぱ穴掘り好きなんじゃん。


 さて、今度は俺の仕事だ。穴の底を木で突いて固めていく。ある程度固まったら小石をざらざらと入れ、再度木で突いてそれらを締固める。


 ある程度締固まったらその上に木を立てて、周りに大きめの石を置いて固定し、土をかけて埋めていく。


 父親が庭に杭を立てているのを思い出しつつ、かなり適当にやったがなんとか頑丈な柱が出来たぞ。


 次に柱に枝を立てかけ蔓で縛り固定していく。1本ずつぐるりと柱を囲むように枝を配置した。これで骨組みが完成だ。あとはそれに重ねるようにアシのような植物をはめ、隙間を埋めていく。


 見た目は悪いがそれなりに雨風をしのげそうな小屋が出来た。どっかの国のサバイバル配信者さんサンキュー!まさかあの動画が役に立つ日が来るとは思わなかったぜ!


 幸いな事にあちらと違って暖かい季節のようなので暫くは何とかしのげるだろう。


 最も、さっさとまともな住処は欲しいけどね。寒さはなんとかなっても、嵐が来たら酷い事になるのは目に見えてるし。取りあえず暫くの間は嵐が来ぬよう祈るしか無いな。

 

 "小屋”に入り中央に石で簡単な竈を作った。ここで火を焚くことにより防虫効果も多少は期待できるのだ。無論、これも動画によって得た知識である。


 ファイアスターターというチートアイテムを貰ったので火起しには苦労しない。あの原始的な火を起こすテクニックあるだろ?あれはだめだ手が擦り剝けるだけで時間だけ経っていく。弓みたいな物?あれもだめだ。慣れていない限りは火がつくのが先か、日が沈むのが先かって感じだぞ。良いもの貰ったよほんと。


 暫くの間、ぼんやりと焚火を楽しもうと思ったが、クロベエが「はらへった」と言っていたのを思い出す。


 ログボの食糧セットを見てみるとカロリーを取れますよって感じのボソボソしたチーズ味とフルーツ味のアレが6箱、ドライフルーツがいくつか、そして何故か生肉を真空パックしたものが2枚だけ入っていた。


 いやいや途中まではなんとなく理解できますよ。サバイバルというか、山歩きの行動食として有能な携帯食料ですものね。ただ肉て。普通この組み合わせならフリーズドライのスープとかじゃないんですかね。


『初日の夜を肉無しで過ごすのはモチベーションの低下につながるかなあって。スープは正直失念してました。あースープなー、なるほどなーって思ってます。ごめんなさい』


 よくわからん内容の何かぶっちゃけてるメールが来たが、そういう事ならまあ従っておくか。俺も正直携帯食より肉のが嬉しいし。


 というわけで早速ですが肉を焼きます。


 肉に火が通り始めると、脂がしたたり、暴力的な香りが小屋の中に充満する。それを嗅ぎ、辛抱たまらなくなったクロベエがよだれをダラダラと垂らしながら尻尾をブンブンと振るのだが、このサイズだよ?風圧と尻尾によるダイレクトアタックで小屋が壊れそうになっている。


 ブンブン ブンブン


「おい!やめろ!」


「ほんのうには 逆らえないよ……」


 ブンブン ブンブンブン


「あーこら!分かった!ほら!焼けたから!食え!食ってそれを沈めろ!」


 嬉しそうに肉を食べるたび尻尾が左右に揺れ小屋の壁……草が少しずつ削れていく……。食わせたところで喜んで尻尾を振るのは変わらなかった……ッ!


「せめて柱には当てるなよ……」


 ふさふさとしているが当たったら結構なダメージが行きそうだ。つか、俺にも当てないで欲しい。


 肉を食べ、だらだらと焚火を眺めたり、スマホを弄ったりしているとやがて日が落ちてきた。


 スマホの時計を見ると19時、これもこちらに合わせているのだろう。小屋から顔だけ出してごろりと横になり見慣れぬ星座を眺めながら改めて考える。


 文化を発達させるためのてこ入れかあ……つうか、よその人に頼む事じゃ無いよねー。


 ましてや異世界の一般人の仕事じゃねーよねー攫うならもっと賢い指導者とかにしろよなー


 そもそもさあ、こう言うのって普通神がやるよねー。自分の世界に責任をもてよなあ。


「……もしかしてできねえのかな?流行のダ女神ってやつかな?」

 

 思わず口に出すとスマホが鳴る。


『だってあの子達、神託の適正が無いのか聞く気が無いのか私の声が届いた例しがないし……わたしダメじゃないし……がんばってるもん……』


「地獄耳め!声って念話みたいなやつ?つかさ、降臨してさあ、それっぽく後光発しながら肉声で喋るとか出来なかったの?」


 思わずそう訪ねると……


『あっ』


 それっきり返信は無かった。


 やっぱこいつダ女神だわ……。


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