第二百九十六話 報告
ユキウサ達にしばしの休暇を与えつつ、援軍要請を出しまして、俺は一路ヒゲミミ村役場へ。ダンジョンとはいえ、精霊樹のダンジョンには転送門を置くつもりはないので、ヒゲミミ村が交通の要になるわけで、新たに隣村が出来ますよ、という報告を兼ねてご挨拶にやってきたのだった。
てなわけでユウです。マルリさんの一声で建てた村役場(本人は一度も来ていない)に来ています。
2階に設けられた村長室に入りますと、中には村長代理のバーグ、その奥さんそして結局ヒゲミミ村の服村長として就任してしまったシズクの姿がありました。
本来であればとっくに任期を終えてキンタのもとで働いていたはずのシズクですが、ヒゲミミ村にすっかり情が湧いてしまったらしく、結果としてここの副村長として敏腕を奮っています。
まあ、あっちはあっちでマーサやリットちゃん、それにウサ族たちがビシバシとキンタを働かせていますので、良いことにしましょう。
「おや、ユウさんじゃないか。珍しいですな。今日は一体何の用で?」
「ああ、用ってもんじゃないけどね。ちょっと寄ったついでに隣村ができたよーって報告に来たんだ」
「かなり重要な用ですわよそれ!?」
シズクちゃんのツッコミはキレがいいなあ。
「いやあ、どれくらい前かは知らんけど、昔この洞窟から外に旅立った連中が集落を作っててさあ、新たに『精霊の里』って名前の村っつうか、里を作ることになったんだよ」
「ほんっとうに重要な案件ですわよ!?何涼しい顔で話してますの?あの、寒い寒いお外に集落?一体どういうことなんですの!?」
いやあ、シズクちゃんは本当に面白いなあ。バーグ夫妻は困った顔のまま固まってるだけだと言うのに、ほんとツッコミマシーンだわ、しずくちゃん。
「まあ、大したことじゃないんだよ。ここから旅立った連中がたどり着いた先にさ、たまたま大精霊が住む森があってね?その周辺は寒さが和らいで、まるで春の大地のような気候でさ……」
「だっだいっだいぃいい!?ユウッさん???」
声が裏返ったり下がったり忙しい子だな。やべーなシズクちゃん、リアクション芸人になれるわ。
「うん、そんでその里の人達はあまり他所と交流したがらない感じだったけど、そうは行かないからね。ゆっくり慣らすために里全体を観光地に設定して、ダンジョンを置こうかなって。んで、ここと里の定期バスを運行することにしたから。あ、これ資料いろいろね」
テーブルに置いた資料を震える手で取るバーグ、奪うように取るシズク。両極端の行動ですが、二人共同じことを考えているに違いありません。あ、合法ロリの奥さんはニャンニャカとお茶を入れに行きました。
「ひ、ひひ、日替わりダンジョンですの?月曜は魔石固定ドロップ!?」
「ユウさん、これはかなり人が行くんじゃあないですかい?」
「だろうな。みんなこの村を経由していくんだぞ。買い物をしたり温泉に入ったり泊まったりするんだ。忙しくなるぞお」
「それは我が村にとっても嬉しいことですけれども……しかし、バスと言っても、あの雪ですわよ?一度塩のダンジョンで乗せてもらいましたけれど、アレが雪の上を走れるとは……」
「ああ、事後承諾ですまんが既に村の出入り口にバスステーション作ったから。お前らに挨拶したら里に戻る予定だが、シズク、一緒に乗ってくか?」
「な、ななな?す、すす既にある?有る、ってことは走れますの!?」
「ああ、勿論だ。雪上用の特別性だぞ」
「……ユウさんは何でもやらかしますのね……」
「何でもじゃないよ。やらかすことだけ」
「それっぽく言ってるようで意味がわかりませんわ!?」
というわけで、温泉に寄ってユキウサ達に先に戻る事を告げ、俺はシズクを乗せて世界樹の里に向かいます。
「ふぁ……本当に何かできてますわ!?昨日までなにもありませんでしたのに……」
「ああ、今日来て即作った。バスは1台は乗ってきた奴で、もう一台は収納から出したやつだな」
「軽くおっしゃいますが……ほんと出鱈目ですわ……」
出鱈目……か。物を知らない連中だったから、何をやっても『そういうもんだ』と思われ続けていたけれど、最近メキメキと文化が進化して常識が芽生えるに連れ、漸く俺の異常さが理解できるようになってきたんだなあ。
俺やパン達の正体についてはフワフワとごまかし続けているが、この分だといずれバレちまいそうだね。まあ、この世界の住人達の能天気さを見れば、だからといってどうなるとは考えられないけれども。
しかし、とうとうこうやってリアクションが帰ってくるようになったか。全く感慨深いぜ。
「バスは雪ウサ共が使う予定だから、特別車両でエスコートしてやるよ」
「特別車両?」
ボックスから4人乗りの雪上車を取り出します。これはウサギンバレーで俺が遊ぶために作らせた特別仕様で、めちゃ速度が出る上にアクロバティックな走行が可能な逸品だ。
「本来5時間かかるところだが、既に時刻は16時。2時間で行くぞ、目を回すなよ」
「え?え?ええええええええええ!?」
「ひゃっはあああああ!!!雪上の貴公子とは俺のことだぜえええええ!!!」
「そんなのおおおおお誰も言ってませんわあああああああああああ!?」
……
…
そして2時間のハードドライビングを堪能した我々はなんとか18時ちょい過ぎに到着した。
最初はヒイヒイ騒いでいたシズクだったが、途中から慣れたのか静かになり少々寂しい思いをしたが、まあなんとか無事に着けて何よりだ。
「……か……帰りは……バスで……帰ります……わ……ううん……」




