第二百九十三話 里の運営計画
毎度お騒がせをしております!何処かに行くと子供が一人増える男、ユウ、ユウです!
っていうと、とってもアレな感じがしますが、実際の所は女神があちらこちらで仕込んだ子供を認知してるような感じだから困りますね!っていうとさらにアレだな……。
しかし、パンのやつ、どうも昔からチョイチョイと俺のスペースに来ては頒布品をお買い上げになってた様なのが気になる。『エルフさんはオークが嫌い』以外にもどーーーも、俺の本を持ってる気配がする……。
あいつにそういう趣味が有るのは別に構いやしませんがね、ダーツでたまたま当たった!とか言って、実際のところ俺をピンポイントでさらって来た疑惑がぷかりぷかりと最近はなまる急上昇ですよ。
……と、考えたけれどやめた。あいつに伏線めいた行動ができるとは思えん。てなわけで、里のアミューズメントパーク化について発表していこうじゃないか。
「皆のもの、お集まりいただき感謝するゾイ」
「何よその口調!気持ち悪いからやめなさいよねユウ!」
「ふふ、ユウくん。皆のものって言っても私とリーちゃん、なーちゃんにふぅちゃん、後は可愛いウサギさん達、さっきと何ら変わらないわよ」
「いやあ、あのネコエルフ共を呼ぶとややこしくなりそうだからね。取り敢えずフリーシアに話を聞いてもらって、納得してもらってから発表という感じにしたほうが良いじゃん?みたいな?」
「そうですわね。あの子達には私から報告したほうがよろしいかと思いますわ。それで、一体どんな案ですの?お父様!」
ふふ、お父様って言うのも悪くないな……。いやいやそうじゃない。ざっくりと語っていこうじゃないか。
「ああ、ダンジョンの仕様だが……」
バサリと大きな紙を広げ、そこにしゃっしゃか書き込みながら説明をしていきます。こうすれば聞き漏らしても目で補完できますからね。
まず、前提として、この里に入るには『入場料』が必要となる。出入口でお金を払うと『商人ギルドカード』又は『冒険者ギルドカード』どちらか持っている方に支払い情報が紐付けられます。
ギルドカードは身分証として最低でもどちらか片方は作ってもらうようにしているため、無いから入れないってことはあんましない……と思う。支払い情報をカードに紐付ける理由は里で悪さをしたり、仕組みを悪用されたりしないように個人を特定する目的があるから。
入場料はあくまでも入るために必要なお金ですので、入ってしまえば宿賃が許す限りずっと滞在することは可能です。後述する『精霊樹のダンジョン』は上手く付き合えばかなり美味しいダンジョンですので、ズルいやつは長期に渡って逗留し、無限に金を稼ごうと考えるかも知れません。
が、それは別にいいのです。里にダンジョン産の商品を齎し、それを外部の商人が仕入れ、それぞれの土地に流通させる。その枠組の中に冒険者を突っ込んでしまうわけですね。あくまでも入場料を取るのはアミューズメントパーク感を出すためと、その際提示させるカードでしっかりと入場者の情報を管理する目的があるからなのです。
まあ、これはいずれ大きく育った『街』に導入する仕組みの先行テストみたいなもんです。今の所は善人しか居ないこの世界ですが、発展していけば必ず変な子は現れ、増えていくはずですからね。犯罪者の抑制は早めに手を打っておく必要があるでしょう。
さて、ここで簡単に『精霊樹のダンジョン』の説明をしましょう。
月曜日 魔石ドロップ
火曜日 肉ドロップ
水曜日 果物ドロップ
木曜日 薬草ドロップ
金曜日 換金アイテムドロップ
土曜日 穀物ドロップ
日曜日 お休みの日
はい。ランダムドロップというのは変わりませんが、ジャンルが固定されます。他のダンジョンにおけるドロップ品は、一応空気を読んで討伐対象の見た目に準じた物が落ちるようになっていますが、人も魔物も戦闘で死なないようになっている仕様上、例えばタルットを倒したからと言ってその部位がそのままモゲて落ちる様な事はありません。
植物系モンスターを倒せば何らかの野菜や薬草が、獣系なら肉が、人型なら装備品が落ちるような感じなんですよ。で、魔石や鉱石は全種にドロップ判定が有る……みたいな感じで。
精霊樹のダンジョンではそれを曜日で固定してしまうわけです。
例えば月曜日はボーナス日。どの魔物を倒してもドロップテーブルは魔石に固定されています。魔石は需要があるため、そこそこ良い値で取引されますが、まあ、バランスを考えてそれなりにドロップは渋くするので、レベリングがてら挑むのが精神衛生用いいんじゃないでしょうか。
で、金曜日は換金アイテムドロップ―ということになってますが、装備品や鉱石の類が落ちる日だと思ってもらえればいいですね。
そして日曜日はお休み。そう、ダンジョンは閉まります。土曜日から日曜日に変わった瞬間、中で粘っていた冒険者達がいたとしても、お外に強制排出されるのでダンジョン内は完全に空っぽになります。
ダンジョン内の魔物たちがゆっくり休むという目的もありますが、ダンジョン運営に関わるスタッフたちの休養日も必要ですからね。交代で休む事は可能ですが、皆揃った休みの日というのも大事なのです。
このダンジョンの難易度としては、塩のダンジョンの2階層に到達出来た連中ならなんとか稼げるくらいがちょうど良さそうです。塩のダンジョン1階層をまるまる使ってチュートリアルを済ませ、2階層に到達し、その後の稼ぎの場はある程度選べるようになると言う感じで。
なので、ダンジョンヘ挑戦する際には、ウサ族の里にある商人ギルド支部に行って冒険者カードにはんこか何かを押してもらうのを条件とするというのも良いかも知れませんな。一度押してもらえば永続。
チュートリアルを終わらせた証的な。
「んん……?」
「はい、とぼけた顔のパンちゃんさん」
「いちいちうっさいわね!……あのさ、『余所者嫌い』というエルフ設定を律儀にもっている住人たちに考慮してあんまり人が来ないようにするための仕様ってことだけど、これじゃいずれ他の街と変わらないくらい人が来るんじゃないの?」
「左様」
「左様って……」
「いやなに、暫くの間はあんまり人は来ないさ。ただじわじわと人が増えていくに従って、エルフの連中もそれに慣れて文句を言わなくなるって寸法さ!」
「あー、エルフってやたらと『伝統が!余所者め!』って言う割には押しに弱かったり、流されるとコロっといったり、懐けばデレたりしがちだもんね」
「うむ。まあ、この森と一体化した街づくりというのはこの世界の重要文化財だから、ナベゾコ同様何らかの仕組みを作って保護をしていきたいけどね。そうだな……例えば、フリーシアを本当に精霊にしちゃうんだよ」
「私を精霊に……?」
「うむ、あくまでも形式だけね。精霊樹のダンジョンコアになってもらうけれど、それとは別に……そうだな、『大精霊 フリーシア』と言う肩書はどうだろう」
「んん……わかってきたわよ。成る程、村長なんかの代わりに大精霊が納める聖地的な感じにするのね」
「あら、リーちゃん今日は冴えてるわね。ナデナデしてあげるわよ」
「ブーちゃんはお姉ちゃんキャラ定着させようとしないで!」
「ホントはあんまり宗教的なのはやりたくないんだけど、女神信仰や自然信仰は元々あるみたいだからな。精霊信仰が増えたところで今更ってわけさ」
「むー、私とパイの取り合いをするってわけか……」
「私、お母様と競うのは嫌ですわ!」
「そこはまあ、ほら。女神リパンニェルの子、大精霊フリーシア!とか名乗ればいいのさ」
「それですわ!流石ですのお父様!」
「娘の人気が上がれば私の株も上がるってわけね!いいじゃんいいじゃん!」
……という具合に『里』の利用案はまとまっていくわけで。正直なところフワフワとしているところや、強引な部分、見切り発車的な雰囲気がすっごいすっごいするんだけど、これもまあいつものことです。
パンが馬鹿なのもまあ、普段どおり。
さって、後はゆっくりじっくりと手直ししながら稼働に向けて準備をしなくっちゃですな。




