第二百九十二話 きみ の な は
エルフの里……もとい、精霊の里は絶対に保護をしていくべきだ!
私、『転生したらエルフちゃんと幸せに暮らしたいクラブ』会長のユウはここに高らかに宣言いたします。保護と言っても難しいことはありません。折角ヒゲミミの民から分かれて生まれたこの個性、それを未来永劫大切に維持すべく、いっそのこと里をあげて事業化してしまえば良いのです!
そんなわけで、私ユウは女神2柱を連れ、改めて精霊ちゃんのオウチに向かいました。
巨大な『精霊樹』の麓に建てられた立派な立派なお社。ただいまあと中に入れば、ナーちゃんと仲良くお話をする精霊ちゃん、そしてそれを尊そうに見守るウサレンジャーの姿がありました。
ああ、居たなあ、ウサレンジャー……女神達が来たから存在を忘れかけてたわ。
まあいいでしょう。ダンジョンの連中は俺の素性も知ってますし、なんかあったら巻き込んでこき使ってやれば良いのです。
というわけで、早速会議を……と思ったのですが。
「父上ー父上-」
ナーちゃんが珍しく甘えた声を出してきます。どうしたのでしょうか?可愛くて困るのですが。
「父上お願いです。このお姉ちゃんに名前をつけてあげて欲しいのです」
そうかそうだよな。『ふうん、精霊樹で生まれたんだ。じゃ、精霊ちゃんで!』みたいなノリで精霊ちゃんって呼んでたけど、いつまでもそれじゃあなんか可愛そうだよな。ブーちゃんに名乗るときも名乗れないのを申し訳なさそうにしていたし。
今もチラチラとこちらを伺い、俺やパンの事を見ているのはきっと名付けられてから改めて家族に鳴りたい、そんな感じなのではないでしょうか。
しかしどうしよう。絵に描いたようなエルフで、薄い本の精霊というか亜神で……オークが好きで……いやいや、その連想からは離れよう。ろくな名前にならない。
よしよし、ここは純粋に行こう。森から連想して『フォレスト』ロシア語で『リェース」リェースは非常に良い感じだが、馬鹿とあだ名がかぶりそうなので弄る……順序を入れ替えてエリ……と、どこぞの貧乳女神みたいになっちまうので、これはいけない。
であれば当初のフォレストを弄って…………フリーシア、うん『フリーシア』でいいんじゃないかな。
フリーシアはニセアカシアの改良品種の名前にもあるんだけど、この木は荒れ地を緑化するのに適した種で、綺麗な花が咲くのだけれども、その花にはミツバチが集まり、美味しい蜜を作ることでも有名だ。
冬の大地の寒気で荒れ果てていた森を美しい森に生まれ変わらせたこの精霊の名にふさわしいのでは無かろうか。うむ、ググったの色々見て決めた結果だけれども!
「というわけで、そこな精霊ちゃん、こちらに来なさい」
声をかけると、初めて会ったときと打って変わり、妙にもじもじと恥ずかしそうにしています。これはきっとこの後の流れ、家族に迎え入れられる流れを想像して照れてるのでしょう。フフ、見た目は俺のドストライクなエルフのお姉ちゃんだというのに、可愛いですね。
俺とパンの前に来ててれてれと、恥ずかしそうにしています。では改めてご挨拶をしましょう。
「今日までよく頑張ったね。今日からお前の名前はフリーシアだよ。よろしくな、フリーシア」
「……うう、ごめんね。その、今日まで気づけなくて…………よろしくね、フリーシアちゃん」
「はい……はい!お父様、お母様!私フリーシアは今とっても幸せですわ!」
ふわりふわりとしたエルフっぽいドレスを着た娘さんからそんな事を涙ながらに言われるとその……
「なんだか娘が嫁に行くシーンみたいね……」
「そう、それな!」
ただまあ、それもこう、言い得て妙というかなんというか。
姿的にも、性格的にもうちの姉妹では一番上のお姉ちゃんという事になるわけなんですが、この子は既にこの里においてかけがえのない存在になっています。今更『じゃ、おうちにかえろっか』というのはちょっと難しいでしょう。
なんつうんだこれ、娘が生まれたと思ったら既に嫁に行っていた……そんな訳がわからん感じ。
「フリーシアには引き続きこの里……面倒くさいからもう『精霊の里』って呼んじゃうけど、ここの守護者として見守っていて欲しい」
「ええ、お父様ならきっとそうおっしゃると思って居ましたわ。……でも、その、ようやくお父様お母様と出会えましたので……えっと、たまにはオウチに帰っても良いですか?他の姉妹達とも遊びたいですし……」
少々照れながらはにかんで言うフリーシア、すっげかわい!そらそうだ。俺が丹精込めて『俺が考えた最強に可愛いエルフ』がそのまんま……いや、ましてかわいらしくなってるんだ。当たり前である。
「ああ!もちろんだ。今日から暫くここで作業をするが、それが終わったらみんなを連れてくるさ。そしてその後は一度俺達の家に帰ろう!300年も働いたんだ、少しくらい休んだってバチは当たらないさ」
バチを当てるべき存在が一番バチ当たりな奴だしね。
そして俺は正式に家族となったフリーシア、それを喜ぶナーちゃん。尊いと何かを書き記しているウサレンジャー共を集め、改めて計画の話を始めた。




