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第二百九十一話 里の成り立ちと新たなたくらみ

 3年前の夏……その時はまだ互いに意識すらすることがなかった二人……。


 あの日彼女は偶然にも俺の本を手にとって、ひとり静かに雪深い森の中、巨木のウロの中でこっそりひっそりしっぽりと読んだのだという……。


 しかし、彼女は不幸にも黒塗りの……もとい、何の不幸かそれを忘れていってしまう。


 帰宅後気づく『戦利品』のロスト。しかし、もう既に記憶は霞の向こう側。探すことは諦めて3年の月日が経過する……。


 その間、世界の時間は倍速で進み、あれからなんと300年。


 100年をかけじっくりと周囲の魔素を取り込んでしまった薄い本は、元々たっぷりと込められていた神気や加護と混ざり合い、本のヒロインであるエルフの姿で受肉し、亜神として顕現した。


 ダンジョンコアとならなかったのは、周囲の環境による影響があった。


 ルーちゃんは別格というか、また存在が特殊なので今回は置いといて、ダンジョンとは閉鎖空間に魔素が蓄積し、それを由来とするダンジョンコアが発生することで生まれる存在だ。


 それに女神の加護が混じるとややこしくなるのは先に記したとおり。


 そう、『閉鎖空間』を持たなかった、厳密には薄い本が置かれていた『木のウロ』がダンジョン化するにはまだ小さく、その条件に満たなかったのが原因でダンジョンコアとはならず、亜神として顕現してしまった。


 というわけで、このままだと何かあったときに『上の者』が出てくる騒ぎに発展しかねないので今のうちになんとかしましょーねーっていうのが今日の議題です。議長は私、ユウです。


「ここがあの精霊のハウスね」


「ああ、お前が俺の本を忘れていった木が今では精霊樹だ。おもしれえな!ハハッ!」


「……ごめんってば……。でもあの後、春のコムチアで買い直したんだから許してよ、ね?」


 ……こいつ2回も俺のスペースに来てたのか……ていうかそれ以外にも来てそうだな……。


 ブーちゃんと共にパンをエルフの里に連行してきました。精霊樹に向かうまでの間、パンから質問が飛んできます。いつもなら無視をするのですが、今日はこれから仕事をさせる必要があるため、ご機嫌取りと予備知識を付けさせるため丁寧に答えていきます。


「しかし、なんでまたここにこんな集落が生まれたのかしら?」


「俺としては今日までお前が気づかなかった理由が知りたいが……まあいい、答えてやる」


 亜神として目覚めた精霊ちゃんは、俺が書いた本のヒロインであるエルフのキャラ設定に引っ張られているらしくてな、見た目もそうだが、中身にもエルフ的な嗜好があるらしい。


 現在の精霊樹である木のウロから外に出た精霊ちゃんは驚き愕然とした。外は深い雪に覆われ、とてもじゃないけれど豊かな里を作れるような雰囲気ではなかったからだ。


 そして彼女はお前の加護や神気による影響を受けているため、この世界の常識をほんのりと理解しているため、気づいてしまうのだ。


『ああ、そうか。ここは永遠に冬が続く土地……』


 なぜ私はここに産まれてしまったのだろう、春とは言わないが、せめて夏や秋の大陸で産まれたかった……。可愛そうだよな。誰のせいかは知らんが、本当に可愛そうだ。


「うう……いいから続きを話しなさいよ」


 木のウロに戻り、ひとしきり悲しんだ精霊ちゃんだったが、しばらくして一つのことに気づく。『そう言えば、外に出てもさほど寒くはないぞ』と。


 精霊ちゃんの体はルーちゃん達と同じく、周囲の環境に合わせて半自動的に結界が張られている。そのため厳しい外の寒さも平気へっちゃらだったわけだ。


 そして、彼女は思いつく。


『この結界、もっと広くできないかな?』


 最初は周囲2m程度が限度だったらしい。でも、エルフの里を造るんだ!その思いが彼女を励まし、2年をかけて森の中央部を覆う広範囲の結界を広げられるようになった。


「んじゃあ、その結界内をダンジョンとしてコアになれば……だめか、森は純粋な閉鎖空間とはいえないもんね」


 そうだな、そんな理由でダンジョン化をせず、純粋に結界に守られた不思議な森になったんだろうな。高く天にまで伸びた結界は森の気候を完全に変化させることに成功した。青空が顔を出し、雪はやんだ。気温はぐんぐんと上昇し、雪は溶けて消え去った。結界内に春が訪れたのだ。


 そして彼女は小さいながらも自分の家を作り、コツコツと森から集めたベリーの類や、食べられる植物や薬効がある植物を植え、慎まやかではあるが立派な生活空間を作り上げたのです。


「なかなかガチな子ね……。島とか預けて開拓させたいくらいよ」


 どっかの男性アイドルグループじゃねえんだから……。まあ、そんな具合に孤独だけれども森の動物……いや、魔獣達を手なづけつつスローライフを満喫していたある日、念願の住人が訪れる。


 それは30人程度のグループで、話を聞けば洞窟の生活に飽き飽きして新天地を求め旅に出た者達だという。


 あれだよね、基本的に野心がないと言うか、停滞した連中が多い世界だとは俺も思ったけど、やっぱたまにこういったまともな奴らも現れてたんだね。


「そうね、でもやっぱり少数派だからさ、結局根付かず消えちゃってたんだよ。悲しいことに……」


 だが、そうはならなかった。この土地にやってきた元洞窟の民……、つまりはヒゲとミミの連中の意思と精霊ちゃんの思想がベストマッチしてしまったからね。


 そしてその後はトントン拍子に話が進み、精霊ちゃんの指導の元、エルフらしい様式の建物が建造され始めた。物づくりに適した種族であるドワーフ……ヒゲと、身軽で賢いネコ族は精霊ちゃんの望みを叶えるためには適した種であったのだ。


「そして約200年かけて出来上がったのがここ『精霊の里』というわけだ」


「説明ご苦労!なんだかアレよね、成り立ちはぜんっぜんちがうけど、ナベゾコ村みたいよね、ここ」


「ああ、そうだな。だからちょっと良いこと思いついたんだよ」


「良いこと?」


「ここもナベゾコ同様保護区として、更に村全体をアミューズメントパーク扱いにして入場料を取ろうと思う」


「本気で言ってるのそれ……?」


「ユウくん、それじゃあ他の村みたいに自由な交易ができないんじゃないの?」


「ほら、ここの連中ってかなり『エルフ設定』に引っ張られてるだろ?あんまり他所からドヤドヤと人が訪れるのを好まないんだよ。だから入場制限がてら……かな?」


「でも、わざわざオカネを払ってまでここに来たいと思うかしら?確かに最初は面白いかも知れないけど……」


「入場制限をかけるのにはもう一つ理由がある。ここのダンジョンを特殊なものにしたいから、そこもあんまり殺到されると面倒なんだよ」


「特殊なって……一体何をするつもり?」


「ふふふ……君たち女神も楽しくやってるソシャゲみたいに……」


「「ゴクリ……」」


「曜日ダンジョンを造るのだ!」


「「な、なんだってー!!!」」


 

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