第二百九十話 クソ長い神様のお話回
神、それは通称「神界」に属し、様々な試練を乗り越えた後、世界を創造する権限を与えられた存在である。
ほんとかな……。
若い神は『神様ツール』的なものを用いて惑星単位で世界を創造し、その運営でさらなる経験を積むこととなる。この段階に居るのがリパンニェル事クソ女神と、ブーケニュール事、ブーちゃん先生。
この2柱の上司……なのか、先生なのかはわからないが、時折チラチラと存在の影が見え隠れしている上位存在は1つの惑星という枠にとらわれず、もう少し広い範囲で世界を管理しているらしいからその苦労が伺える。
つまりは神という存在は、単位はまちまちであれ『世界を管理する権限を持つ』『神格を備え』『加護を与え』様々な面で世界に住まう者たちに影響を与える存在というわけだ。
さて、それに非常に近いところにいるのがルーちゃん達、ダンジョンコアだ。
まず一番ヤバいのがルーちゃん。彼女は『塩のダンジョン』と言うかなり規模が大きい『世界』を管理していて、馬鹿と俺から齎された力で謎の神格を備え、様々な加護を使用することが出来る。
そしてその姉妹たち、ナーちゃんスーちゃん、ティーラにソフィア彼女達もまた、規模は大きくないが、ダンジョンという世界を管理する神格を備えて加護をもたらす存在である。
そうなってくると、ならばこの子達は『神』という枠組みに入るのか?、という疑問が立ち上がるわけだけど、この子達はあくまでも馬鹿の加護が元になって誕生した存在、つまりはリパンニェルの子であり、神界における正しき流れで誕生した神と呼べる存在ではない。
そして何より『ダンジョンコア』という役割を持っているというのが大事なところである。『世界を管理している』とは言え、それは純粋な独立した世界ではなく、あくまでも『リパンニェルが創造したこの世界に存在するダンジョン』と言う扱いになるため、神と同じく『世界を創造し管理している』とは言えないわけだ。
……ぶっちゃけルーちゃんだけはどうもこの世界の枠組みから外れた別世界にダンジョンを生成してるくさいので、事情が少し違うのだが、ややこしくなるので黙っていよう。
さて、問題は例の精霊ちゃんだ。彼女もまた成り立ちはルーちゃんと同じく俺の『本』と馬鹿の加護というか、女神汁というか、残滓というかが元になって産まれた存在であり、細やかでは有るが精霊樹を中心とした結界を張り、その内側に独自の世界『エルフの里』を築き管理をしているわけだ。
そしてあの場所がダンジョンではないというのが少し不味い。一応リパンニェルという馬鹿が管理する世界の内側でやっていることなので、上位存在がしゃしゃり出てきてうるさく言うことは無いらしいし、八百万の神々というように、世界によっては様々な神が細やかに管理をしている場所というのも珍しくはないため、ぶっちゃけ神界で問題にされるような事ではないのだという。
そう、それは一般的な神が作った世界、つまりは真っ当な存在が、賢く節度を持った行動が出来る神が創造した世界ならではのお話である。
うちの馬鹿のような駄女神が作った世界にホイホイと『トイレの神様』『台所の神様』『お米の神様』『水の神様』……と、際限なく神格を備えた存在が増えていくとどうなるかと言えば、上手く管理・統制ができなくなり、最終的に訪れるのは深刻なリソース不足、つまりは世界の滅亡だ。
「そんなわけで、上から『くれぐれも亜神を作って手伝わせたりはしないように』ってりーちゃんは釘を刺されてたんだけど、まあ、ルーちゃん達の時点でかなりグレーだったよね……」
「それを言われると何も言えねえなあ……」
ふてぶてしい顔でヘラヘラとするバカ女神。今回の重要さを何も理解していない様子です。
「いい?リーちゃんが問題なのは無自覚で誕生させちゃってることなの。ルーちゃん達のようにダンジョンを護るため作られた存在ならいいわよ。少なくともダンジョンという枠組みがある以上、あまり派手に神威が広がるようなこともないでしょうからね。
将来的に考えれば、例えばナーちゃんなら『火の女神』と呼ばれるようになるかも知れないけど、ダンジョンという理から離れることはないわ」
「精霊ちゃんみたいにフワフワした存在が不味いわけか」
「そうね、ユウ君。ふふ、お姉ちゃんナデナデしてあげるわ」
「わあい、ブーケお姉ちゃんスキー」
「気持ち悪いわよ!何よあんた達!突然結託しちゃってさ!その、精霊とやらの何が不味いのよ?エルフの里ってので祀られてるならコアの子達と変わらないじゃないのー!」
「だからリーちゃんはガチャで爆死するのよ。いい?今は『エルフの里』の守り神である『精霊様』なのかもしれないわ。でもね、あの子が紐付いているのはユウ君が作った本であって、あの土地じゃないの」
「爆死は関係ないじゃない……!もう……その話は……じゃなくて、でもさ、ルーちゃんだってユウが掘った穴におっこってた落書きが元で産まれたのよ?似たようなものじゃないの?」
「そんなんじゃ次も爆死するわよ?いい?ルーちゃんの場合は、ユウ君が掘った穴に溜まった魔素と貴方がうろちょろして落とした加護や神気が作用してコアが誕生し、ユウ君の絵を媒体として受肉したという経緯があるの。あくまでもダンジョンに紐付けられた存在よ」
「あーもう!ごちゃごちゃしてきた!つまりは、ルーちゃんはダンジョンに据え付けられた固定回線で、精霊ちゃんは薄い本に紐付けられたモバイルってこと?」
「その通り~。考えたくないけど、将来的にあの土地が滅んでしまった後でも、薄い本が有る限り彼女は存在し、また別の土地で新たなバックストーリーを元に神として降臨することが出来てしまう。縛るものがない純粋な神としてね。下手をすれば何かの間違いでこの世界の外、つまり惑星外に出ちゃうことも有りうる」
「……となると、上のおっさんたちがカンカンになって怒るわね……」
「そうね、私達の権限を外れる存在となるわけよ。その場合、リーちゃんは勿論めちゃくちゃ怒られるし、お給料だってめちゃくちゃカットされるし、下手をすれば降格よ?それ以上に気の毒なのが精霊ちゃんね。恐らく存在をなかったことにされちゃう筈よ……」
「俺の薄い本が宇宙に飛び出すのは考えたくねえが、それ以上にあの子が可愛そうだよね。なんとかならんのこれ」
「ううん、強引な手だけど……方法は1つしか無いわね……あそこをダンジョンにしちゃうわけ」
「なるほど!さしづめ『精霊樹の迷宮』ってわけね!」
「おいこら!その名前はギリヤバい!」
「あー、この間りーちゃんがおすすめしてたゲームね。うんうん、まあそんな感じ。あそこにダンジョンを作って精霊ちゃんをコアにしちゃいましょう」
……というわけで、俺の薄い本が思った以上に大げさな方向に転がってしまった。3年前の俺、見ているか。見ているな。ああ、お前が書いた薄い本……、神になったよ……。




