第二十八話 増築を考える
るーちゃんと暮らすことになったので家を広げることにした。
現在は10畳の部屋に6畳のキッチンがくっついている1DKみたいな感じなので、別途寝室を設けることにした。今まではワンルームの感覚で使ってたけど、流石に女の子が住むとなったら寝室は分けてあげたいからね。
俺とルーちゃんのベッドが置ければいいくらいだから6畳くらいでいいかな?なんて設計図を書いてたら……。
「ちょっとこれじゃベッドが二つしか置けないじゃない」
と、パンが口を出してきた。
「あ? 二つでいいだろ。俺とルーちゃん。あ! ああ、クロベエか! そうだなあ、じゃあ8畳にして……このあたりに猫ベッドのデカい奴を置いて……さんきゅー! パンちゃん!クロベエの事も考えてくれてたんだな!」
「ありがとー めがみさまー」
「くろべえ も いっしょねー」
きゃっきゃと喜ぶルーちゃんとクロベエ、みてるとほっこりする。
たまには良いこと言うよねーと、パンを見るとなんだかプルプルしている。
「ちーがーうーでーしょーーー!!!!」
なにかご立腹のようだ。何が気に障ったのかさっぱりわからない。
「あのねえ、ベッドもう一つ必要でしょ?私の! わーたーしーの!」
「はあ? なんでお前のベッドが必要なんだよ? 自分の家に帰ればいいじゃん」
今まで適当に行ったり来たりしてたくせに突然不思議なことを言う神だ。
「もーーーーー!!!! 私だってルーちゃんと居たいのよー!!!」
これはあれか、母性本能が芽生えたとかそういう奴か? じったばったと駄々をこねる女神の姿は見たくなかった……。でも神話を読むとアレな感じの神々ばかりなわけだし、案外神様ってこんなもんなんだろうな……。
くっ……目の端に涙をためてしゃくりあげ始めたぞ。今にもガチ泣きがはじまりそうだ……ああもう、わかったわかったわかりましたから! はあ、設計図を書き直してやるか……。
ベッドルームを12畳にし、ベッドを3つ、クロベエベッドを1つ置いても余裕があるようにし、リビングも20畳に広げる。これはあれだリビングのが寝室より広いのはどうかと思ったからだ。
パンとは言え、女性と同じ部屋にベッドを置くのはどうなのだろうかと考え、奴だけ寝室を分けようとも考えたのだが、どうせ『なんであたしが一人部屋なのよ!』なんてごねるのは目に見えているし、俺だってるーちゃんと一緒の部屋で眠りたい。
それに同じテントで寝泊まりしたりして色々残念な部分を目撃しちゃってるからさ、まあ今更良いかって同じ部屋にまとめちゃったんだ。
そしてついでにキッチンも10畳に拡大し、4人掛けのテーブルセットを置いても広々と使えるようにした。
「こう、家らしくなってくるとさ、風呂とトイレが欲しくなるんだけどさ、水は泉からうまい事引けばいいとして、汚水処理どうしよう?この手の定番だとスライムとか使うんだろ?なんかそんな便利な魔獣いるの?」
一緒に住む以上、パンにも仕事をしてもらう。ほらほら、無い知恵を絞り給えよ女神様!
「あーいるわよ。モルモルとかいう奴がそうね。見た目はそれこそスライムみたいな感じだけど、洋ゲー的なアレじゃなくて、和ゲー的なかわいい感じの……ドロッとしてなくてまるまるした感じのが居るわ」
洋ゲーとか和ゲーとか言い出したぞこいつ。わかりやすいから助かるけど…もっとこう、言い方……!
「ここから集落と逆側に向かうとね、湿原があるんだけどそこにポップするみたいよ。確かあそこには沼もあって水棲系モンスターが色々住んでるハズだから今回はあまり奥までいかない方がいいわね」
バトル展開になると家ができるのが遅くなるから、と言っているがあまりそういうメタい言い方はしないでもらいたい。俺がボケられなくなるだろうが。
トイレと風呂は後からでもーとも思ったが、キッチンの高機能化もしたいのでさっさと捕獲に行くことにした。
◇
集落と逆方向にクロベエタクシーで向かうこと1時間。そこに湿原は広がっていた。
奥の方はうっすらと霧がかかり、いかにも沼地のモンスターが沢山いるぞ!という迫力を醸し出している。
「なるほどなあ、こりゃパンの話を聞いてなくても奥には行かなかったろうな…」
そもそも道らしい道が無い湿原だ。奥の沼地に行くことを考えるとそれなりに用意をしないと足元が気持ち悪いことになるだろう。いやだいやだ、当分近寄らないぞ。
「ね、めんどくさそうなとこでしょ? さ、その辺チョロチョロしてる筈だからさがすわよ」
と、ルーちゃんの手を引いてさっさと行ってしまう。
やる気を出しているようだから任せてみようと、クロベエとその後ろに続いた。
湿原だけあって普段見かけない植物がたくさん生えている。適当に鑑定しただけでも食べられる植物や薬になるものが結構あったのでいくつかアイテムボックスにつっこみながら散策する。
どうやら魔獣は沼地のほうに集中して生息しているようで遭遇することはなかった。今日はモルモルだけ捕ってさっさと帰りたいのでありがたいことです。
「あ、いたあ」
緊張感が無い声で発見を告げるパン。
指さす方向を見ると10匹程度のモルモルがぴょんぴょこ飛び跳ね、まるで踊っているかのようだ。
聞いていたとおり、スライム的なぽよぽよしたまんまるの身体で、水色の水風船みたいな感じだ。
その水風船にはつぶらな瞳があってとても愛らしい。スライムって目とか無いと思ったんだけど、これはまた別の魔物だからな! そういう種族なのだろうと思っておく。
なんでも吸い込むピンクのあいつみたいな顔をしてるモルモル達がぴょんぴょこぴょんぴょこ跳ねるその姿に俺もクロベエもすっかり癒されていた
「もるもる ごはん おいしいねー」
キャッキャと指をさすルーちゃん。
「あー、捕食中ね。邪魔するのも悪いし少し待ちましょうか」
へ? ごはん? 捕食?
もう少しだけ近づいてよく観察してみると水辺に大きな魚が横たわっていて、モルモル達はそれを取り囲むようにぴょんぴょこしていた。
時折触手のように身体を伸ばし、そのたび魚の身が”減っていく”
やがて身がなくなると跳ねるのをやめて骨にぴったりくっついていく。
音もなくゆっくりと骨を溶かすと満足したのか再びぴょんぴょこ跳ねだした。
「ね、凄いでしょう。なんでも吸収しちゃうのよ」
可愛い見た目に騙された冒険者が餌食にー! みたいな奴だなこれ! サンダー! 的な! それは違った。
いやはや。可愛さに騙されていきなり抱っこしたりしなくてほんとによかった……。