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第二百七十二話 ユウ、亀を手玉に取る

 使命を忘れ、ウサギとヨロシクやらかしかけていた悪い亀。これは俺だけの力ではどうしようも無いと判断し、大妖怪には神域の力を投入せねばなるまいと考えた大賢者ユウは、女神召喚を果たす。


 大賢者に召喚されし女神リパンニェルは、懐から取り出した【黒キ禁忌ノ書】を用いて撃破した。

 

『二度と刃向かわないので許して欲しいのじゃ』


 大妖怪 亀五郎は泣いて謝り、女神は優しげな微笑みを浮かべて姿を消したのだった……。


 あれ絶対新たな黒歴史アイテムを探しに日本に飛んでった奴だよな。親族のみなさんもさ……亀の遺物をちゃんと処分しといてやれよな……。あーあ、気の毒気の毒。


 と、邪悪な微笑みを隠しきれない私、ユウでございます。


 あの日から人が変わったかのように亀はキリキリと働きまして、期日までにキッチリと作り上げてくれました。っつうか、パプ美ちゃんと仲良く釣りが出来るレベルまで完成させていたわけですので、サボってなかったらとっくの昔に完成品を納品出来ていた筈なんだよなあ。


 さて、亀たちが魂を注ぎ込んで作り上げた量産型ルアーの原型達は俺のお手紙と共にウサギンバレーに配達されていきました。


 折角作った運送ギルドですからね。ここは一つ、ためしてみようかと。


 ここから始まりの村までだいたい5日で配達されます。そこからウサギンバレーまで1日。


 ウサギンバレーに届いてから量産開始まで大体2週間 (おかしい)

 

 というわけで、完成品が配達されてくるのはざっくり見積もって2ヶ月後くらいでしょうか。

 リリィに丸投げしておいたロッドとリールの量産も同じくらいはかかるでしょうな……。

 

 う~ん!なげえ!季節の移り変わりという物が無い世界ですので、待ってる間にシーズンオフという悲しい状況にはなりませんが、キャンプ場のオープンはまだまだ先になりそうで悲しみを感じますわ。


 ……まてよ。


 販売用のルアーは到着を待つ必要があるけれど、もう完全に全部レンタルと割り切ってしまえば別に俺や亀が作ってしまってもいいのでは?


 販売したところで直ぐに売れるとは限らないし、暫くはレンタルオンリーで所有欲を煽っておく。特にマリーノ村から遊びに来た連中なんかは海釣り用の竿と似て非なるルアータックルに興味を持ってくれるはずだ。


 ヒゲミミ村にだって川はあるし、あそこでルアーを投げてみたいと考える者は居るだろう。販売開始するまでレンタル品で悶々していた連中なら……きっと買ってくれるはずだ。


 うっし、そうと決まればレンタル用のタックルを作ってしまおう。取りあえず30セット。

 

 ルアーはロストも考え、当初は6種セットのルアーを50セット用意してコツコツ交換品を作らせておけば良かろうな。


 うん、ルアーはあいつらに作らせるのだ。


 ずんずんと例の小屋に向かいますと、中から楽しげな声が漏れてきます。


「そうなんじゃよー。わし、こう見えても村長。うちの村くる?いいぞー」


 なにちゃっかり俺の部下をナンパしてくれてんですかね……。そんな甘ったるい空気、お父さん許しませんよ!


「仕事の時間じゃオラア!」


 学習したので勢いよく開けながら突入します。キックしても壊れませんからねこのドア。


「な、ななな、なんじゃ!?も、もう納品は済んだはず!わしは自由じゃ!なんのようじゃ!」


「ばかやろう!あれは製品用の量産品の元となる原型じゃい!今日からお前らはレンタル用のルアーを6種50セット、キリキリ作って貰うからな!」


「なんじゃと!嫌じゃ嫌じゃ!わしゃもうパプ美ちゃんと爛れた生活をするんじゃ!」


「うるせえ!堕落した学生みたいなこというんじゃねえ!いいんですか?呼びますよ?女神様……」


「呼びたければ呼べば良いわい!例のノートは謝り倒して褒め倒して返して貰ったんじゃ!今度こそもうわしに弱点はないわ!」


「……なあ、亀。あのノートと手帳さあ……どっから持ってきたんだろうねえ?」


「どっからって……そんなのわしの部屋に決まっとる。ったく、人の部屋に勝手に入りよって……」


「亀ちゃんが亡くなってからもう結構経ってる筈なんだけどさあ、亀ちゃんの親族、まだ処分してないんだねえ」


「わしはこう見えて親族から愛されていたからの。前もって作っといた遺書に書いといたんじゃ。わしが死んでからもなるべくこの部屋はそのまま残しておいてくれと。いつか魂となって遊びに行くからとな」


「女神はさあ、流石だよね。自由にその部屋に入れるんだから……」


「じゃから一体何を……あっ!」


「亀ちゃんさあ、一方的に弱みを握られてるよねえ。亀の宝物庫……まだまだ亀特効遺物が眠ってそうじゃん?女神は散歩感覚で日本に転移できるじゃん?つまりさあ……あ、指が勝手に女神の連絡先をタップしちゃいそう……」


「わあい!ルアー制作!亀ルアー制作だあいすき!」


「うむ、わかればよろしい。そこで固まってるパプ美ちゃんと仲良くルアー制作に励むが良い。納期はそうだな……、流石に全部はきつかろうから、6種10セットを1週間を目安に頼む。残り40セットは一ヶ月後を期限に出来た分からキャンプ場に納品ってことで」


「っぐ!鬼!悪魔!ユウなんかきらいじゃー!」


「まあまあ、仕事が終わればご褒美があるから……がんばれ♥がんばれ♥」


「ぐぬう……あんましうれしくないがんばれ♥じゃのう……まあ、一ヶ月がんばってやるわい……」


 強引ではありますが、なんとか亀を動かすことに成功しました。勝手に一ヶ月で終わると思い込んでるようですが、量産品が届きはじめる2ヶ月後までキリキリ働けと今言うとまたごねるので、当分の間聞かれない限りは黙っておくことにしましょう。


 なんだか俺がとても鬼畜にみえますね……。


 お、俺だってこれから竿とリールをたっくさん作るし!頑張るし!忙しいし!

 

 ……亀だけに苦労はさせねえよ。


 ま、亀にそれいっちゃあかっこつかねえからさ、俺はこっそり頑張るってわけよ……。


『制作キット起動……ロッドA×20 リールA×20 ロッドB×20 リールB×20 ラインA×20セット ラインB×20セット……生産開始……』


 完成まで30分か……結構かかるな……ちょっと昼寝でもしよう……。

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