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第二百六十六話 湖のひみつ

 なんやかんやと結局亀に捕まりまして、やってきましたコハン村。

 

 亀は言います『さあユウよ!この地で釣り大会をひらくのじゃ!』


 釣りが好きで好きで堪らない私ユウは、ソレイイネェ!と、すっかり乗り気で亀にノセられ、湖の視察と相成りました。

 

 はい、現地のユウです。現在湖は……何事もなく、ただ静かに水面が揺れています。あっ、あちらに現地の方がいらっしゃいますね。ちょっと声をかけてみましょう。


「こんにちはー!なにをしてらっしゃるんですかー?」


「はい、おはようさん。ってユウさんやないか。何ってパトロールやパトロール。かわいいかわいいお魚さん達が減りすぎんよう、せっせと見守っとるんやないけ」


「左様ですか。お魚さん達の生育状況はいかがですか?大きくなりましたかー?」


「さっきからなんやねんその喋り……きしょいわ……お魚さんはね、日々大きくなっとるよ。そらもうドン引きするレベルでめっちゃ早い成長や。ユウさん、あんた何したんや?」


「はい、以上、現地からユウがお届けしました」


「おいぃ!何した聞いとるんやけどぉ?」


 ……ったく面倒なタルットだな……。何をしたってそら水に加護がかかってるからに決まっとろーが。


 ……水に加護?


「なあ、おっさんよお。なんか体調に変化とかないか?みなぎるとか、賢くなったとかさあ」


「体調?うーん。ワイはないなあ。ただ、島に住んどる連中はちょっと変わってしまったかもしれん」


「ふうん……あれ?おっさんは島に住んでないの?」


「ああ、ワイ恥ずかしながら泳げんのよ。お母ちゃんが森タルットでな?所謂ハーフなんやけど、ふつーのタルットみたいな水かきが無いんや」


「あー……そういう。なんかすまんな……」


「ええんやで。わいも近場の森タルット達集めて陸から湖の管理しとるしな」


 コイツなかなか見どころがあるオッサンだな……。ちょっと覚えておこうか。


「よし、今度お前らの棲家に連れてってくれよ。ちょっとマシな環境にしてやるからさ」


「ほんま?ありがとー。楽しみに待ってるよー」


 素直なおっさんはかわ……いいかどうかは別として、悪くはないな。


 亀が水辺でソワソワし始めましたので、オッサンとの対話は程々に『島』に行ってみることにしました。


 ボックスから取り出したるわ海で使ったお船。これに魔導モーターで作った船外機を付けましてトロトロと島に向かいます。


「ユウ、お前猫型ロボットみたいじゃのう……」


「やめろ!取り敢えずゆっくり島を目指すから亀は上から水でも眺めてろ」


「おうおう、言われんでも!その船外機、エレキみたいでいいのう。雰囲気出るわ」


 エレキ、バッテリーで駆動する小型の船外機で湖で釣りをする際に活躍をするアレです。それと似たような魔導具でスイスイと湖面を滑るように移動しているとまるでアメンボになったかのようです。


 ティーラの加護で草木は勿論、水中の植物まで環境を整えたので、もう昔からずっと個々にあるかのように堂々と湖が湖面を揺らしています。


 水面を逃げ惑う小魚の群れや、それを追うフィッシュイーター。蓮のような葉の上にはカエルがのんびりと日向ぼっこをしていて、なんだか心が和みますね。


 ただまあ、あの馬鹿の世界なので、これらは一応全部『魔物』なんですが。


 トロトロと船を暫く走らせていると、ようやく島が近くに見えてきました。島には……生意気に桟橋があるな?


 む、桟橋にタルットが集まってるぞ?なにやってんだ。


 せっかく桟橋があるのだからと、集まるタルット達の事も気になるのでそこに船を向かわせます。


「おおユウ!桟橋じゃ!ワシはあそこにノーシンカーでごん太のワームを投げ込むのが好きでの……」


「俺もそれは大好物だが……それより今はタルットだろ……」


 はしゃぐ亀はそんな事は一切気にせずに『桟橋からじゃと……ううむ、あそこかの』なんてポイント考察に夢中で使い物になりません。


 どのみち亀はオマケですからまあいいんですが。


 問題は桟橋にズラりと並んで我々を出迎えているおっさんどもです。あいつらがあんなに礼儀正しいわけがありません。これはまさか……。


「お待ちしてましたわ。ユウはん」


「……お前らどうしたの?服なんか着ちゃって……」


 このタルット達、ゆったりとしたローブのような物を羽織って、なんだか知的な表情をしています。端的に言って……不気味。



「我々、ユウはんからこの土地を頂き、日々湖内の警備をしているうちに目覚めましたんや。今までユウはんには多大なご迷惑をおかけしてもうて……」


「おいおいおい、やめてくれよ調子が狂う!よ、よし。お前らの棲家に案内してくれ」


「そうですな、こんなとこやとアレですし……いきましょか」


 なんというか肌の色もほんのり薄くなっていて、種族として進化しているのではないかと思われる。


 モルモルやウサ族のように加護の力を受け続けると何らかの変化が現れる。モルモルは純粋に強く、賢くなり、ウサ族はウサギから半獣人、半獣人から獣人になり知能も段階的に上がって下手な人間族より賢くなってしまいました。


 さて、このタルット達はといえば、恐らく湖に満たされている聖水の加護を受け身も心も清められたのでしょう。

 

 陸に居たハーフタルットはカナヅチだということで、あまり水に浸かってなさそうだったからあまり影響を受けてないのだろうなあと思う。


 桟橋から島の中に続く道は綺麗に整えられていて、道沿いには色とりどりの花が綺麗に植えられています。長い坂道を登っていくと作りかけの木造家屋がちらりほらりと見え始めます。沢山のおっさん達がトンテンカンと道具を操り建てているそれはどう見ても日本家屋。


「なあユウ……カッパが神社みたいのを建ててるってなかなかシュールじゃのう……」

「こいつらナベゾコ界隈の妖怪なんじゃねえのかって疑い始めてるぞ俺」

「やめてくれ……わしの村のカッパはもう少しかわいいわい」


 タルットと別にカッパも居るというどうでもいい情報を得てしまってぐったりしつつ歩いていると、ひときわ大きな建物を組んでる現場が見えてきました。


「ここにユウはんをお通しできる日を今か今かと待っとるんですわー」


 まだまだ完成は先とのことですが、雰囲気からして大きな大きな神社のようなものを造っているのがわかります。コイツラ一体何を目指してるんだ……。


 あれからまだ10日も経っていないというのに何という変化でしょう……。

 考えても見ればこれだけ大きな規模の『加護が掛かった泉』を作ってしまったというのは……ブーちゃん案件かもしれませんね。


 ……ブーちゃんが怒ったらパンのせいにしよう。

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