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第二十六話 家への侵入者

 片付け後、のんびりとした朝食を摂って広場でくつろいでいるとキンタ一家とザック、シゲミチにダンがやってきた。


 昨日のうちに『明日帰る』と伝えておいたので見送りに来たようだった。


「ユウさんありがとう!お母さんもお父さんもすっかり元気だよ!」


 はじける笑顔で嬉しそうにお礼を言うのはリットちゃん。母親であるマーサが元気になったというのは、文字通りに回復したということなのだろうけれども、キンタの場合は別の意味……狩りに対する意欲で燃えているという意味で間違いなかろうな。なんせ、おもちゃを買ってもらった子供のように目をキラキラとさせながら、今も大切そうにクロスボウを抱きしめているのだから……。

 

「ユウ!また森に入って狩りが出来る!こんなに嬉しいことは無いと思っていたが、さらに大型の魔獣を狩れるようにまでしてくれた!その上新たな武器までくれるなんてお前はなんだ?神か?」


 はっはっは神はそこで頭かいてるぼんくらだよ。流石に客の前では尻をかかないようだな。


「ほんと私だけじゃ無くてリットもキンタもすっかりお世話になって……このお礼はいつか必ず……」


 いいんですよマーサさん!その愛らしい笑顔が見れるだけで幸せだ!キンタは破裂しろ!


 笑顔でキンタを呪っているとザックとダンが揃って歩み寄ってきた。


「ユウさん!俺、必ずクロスボウを作れるようにします!」


「うむ!ザックと協力して必ずや量産するぞ!」


「あ、そうだダン、ボウガンの矢なんだけどさ、普通の矢の他にこれも作ってみてくれないか?」


 ザック達にあらかじめ渡しておいたのは木製の矢だった。普通の矢とは少し違うボウガン用のヤツだ。それに加え、魔鉄鋼で作った金属製の矢も渡す。


「これは……鉄か?金属の矢だな?ううむ、なるほどな…うむ、難しそうだが試してみる。ザック、お前にも相談に乗って貰うからな」


 鍛冶をしてるわけだから鉱物資材はあるんだろう。素材として魔鉄鋼も渡そうか迷ったが、なるべくなら今使える素材で工夫してもらいたいので、それは辞めておいた。後から魔鉄鋼について聞かれたら答えるつもりだけれども、今の所は自給出来るもので賄ってもらわんとな。


 そして、俺が居ない間の宿題はもう一人、シゲミチにもあるのだ。


「シゲミチ、俺がいない間頼みたいことがある」


「はい!ユウさん!なんでも任せて下さい!」


 素直でかわいい子じゃ。でも先に何を頼むのか聞いてから承諾しような。なんでもっていうのはうかつに使っては行けないキーワードなのだから。


「えっとな、まずはこれをやろう」


 錬成…もとい、クラフトしておいたB6サイズのノートを何冊かと色鉛筆を渡す。多少オーバーテクノロジーだと思うけど、そんな事を気にしてもしょうが無い。どうせこいつらはノリで押し切れる。


「こ、これは……?」


「前にあげた手帳みたいなもんと、あと様々な色で書ける道具だ」


「ユウさん……手帳もの素材も驚きましたが、色がついた炭?……こんなものを一体どこで……?」


「まあ、気にすんな。そのうち教えるから。それより本題だ。シゲミチには薬になるものをそれにどんどん書き留めておいてほしい。

 素材の名前、特徴、採れる場所、そして出来ればその道具…色鉛筆っていうんだが,それを使って絵も入れてほしい」


「えっと薬になるものだけですか?」


「そうだな、それ以外にもシゲミチが気になるものがあったらどんどん書き留めてくれたらいいよ。虫でも何でもね。俺はね、図鑑を作りたいんだ」


「ずかん?」


「そう、読めば誰でもすぐに情報を調べることができる物のことさ。例えば薬にできる物を知ってる人が増えれば集めやすくなるだろう?口で説明しにくいものも文字なら分かりやすいし、読めなくても絵がついて入れば説明も楽だ」


「なるほど!それはいいですね!頑張ります!これだけ素晴らしい道具が有れば何だって出来ますよ!」


 うむ、かつて無いやる気を出し、興奮気味に色鉛筆とノートを弄くっている。最早それがどこから来たのだろうかという疑問などすっ飛んでいる。あの女神が作った世界だ、きっと全住人ノリに流されやすいチョロい人種なんだろうと思う。マジで。


 っと、そろそろ行くか。


「じゃあみんな、ありがとうな!後のことは任せたぞ!次来るのを楽しみにしている!」


 存在を忘れかけていたパンに行きますよ、と声をかけクロベエに乗る。


 いつの間にかぞろぞろと増えていた見送りみんなに手を振って集落を後にした。

 


  ◇


 こんな矛盾だらけで幼い世界なので、盗賊が出ることが無ければ魔王軍の斥候と出会うこともなく……。

 

 特に変なイベントもなく、無事に家に帰りついてしまった。


 行きと違ってパンも乗っていたので、クロベエさんの体力的に来たときより時間がかかるかな?とも思ったが、集落から離れ、森に入って早々に『酔った……帰るね……』と、天に帰ったのでそんなこともなかったのだ。


 到着し、橋を渡って懐かしの我が家へ。


 ざっくりと周囲を調べるに魔物の襲撃も無かったようで、土地が荒れている様子はないし、もちろん家だって健在だ。強いて言えば多少埃っぽくなってるくらい。ものがなさすぎて寂しいくらいだわ。


 集落の皆もこれからに向けて頑張る事だろう。俺も負けずにここを充実させていかないとな。


 集落からの移動で疲れたこともあり、何もやる気が起きなくてベッドでくつろぐ。うむ、やはりベッドは良いな。このフカフカが……絶妙に俺を包み込んで……ああ、あかん眠くなってきた。


 ……と、ウトウトと幸せな微睡みに半分はまり込みつつあった時、クロベエが呼ぶ声で現実に引き戻される。。


「ゆう! 堀になんかかかってる!へんなのいる!」


 ビックゥ!と、心臓に悪い起こされ方をされてしまって、多少気分が悪いのだが、一生懸命にエマージェンシーであると伝えるクロベエを見てそんな場合ではないと立ち上がる。


 何かが堀にハマっている……だと?


 土地も家も無事だったのは魔獣除けに掘っておいた深い堀のおかげ。なんたって橋を渡らなければ堀を越えてここまで来ることはできないし、その橋は俺が収納して持っていってしまったのだから、留守中ここに来れるとすれば、よほどジャンプ力がある魔獣か、空飛ぶ魔獣くらいのものだろう。


 大体の魔獣は堀を見て引き返すか……、気づかず落っこちて動けなくなっているかのどちらかだ。クロベエが報告してくれたのは、後者。不運なのか間抜けなのかは知らないけれど、とにかく堀に落っこちた気の毒な魔獣が居るらしい。


『へんなの』と言っていたから、恐らくは未知の魔獣だ。さて、何が居るのやら。


 ……と、クロベエに案内されて現地に向かうと堀の底で何かが丸くなっているのが見えた。


「なんだあれ……」


 堀に溜まっている葉っぱに紛れてよくわからない……。葉っぱに埋もれてもぞもぞしているものだから、ギリースーツを着た何かが蠢いている、そんな感じに見える。


 幸か不幸か生きて入るようなのだが、このままではどんな魔獣か分からない。そして頼みの綱……スマホは家において来ちゃったので鑑定も出来ない。家に戻ればいいんだけどさ、ほら、わかるだろ? めんどくさいってやつだよ! 机から少し離れた所にあるティッシュを取るのに椅子から動きたくない現象、わかるだろ? 椅子から立ち上がれば直ぐ取れるのにさ、定規かなんかを使って無理やり取ろうとしたりする奴……。


 スマホを持ってくれば早かったんだけど、面倒くささがマキシマムに勝ってしまったのだから仕方がない。


「なあ、クロベエ……ちょっと降りてみてきてよ……葉っぱどかせば流石に何が居るのかわかるだろ」


「いやだよ ゆうがみてきてよ……こわいじゃん」


 そう言えばこいつヘタレなとこあったな。


 そうは言っても俺だって近づくのは怖い。いきなりガブリとやられたらきっと痛いし、体だけではなく心にも深い傷が残りそうだ。


 ううん、なにか便利なもの……それこそ定規的なものはないかしら……と、辺りを見るとクラフトに使った長めの枝がありました。ご都合主義、いいよね……ただ単に片付けていなかっただけともいうが。


 同じくそこらに転がっていたツルを使って長い長い棒を作り、ゆっくりと堀の中に入れていく。無駄に深く作っちゃったものだから届くか怪しかったが、意外と余裕を持って底についたぞい。


 そろそろと棒を謎の対象に近づけるが、動く様子がない。ならばこうじゃ。


 つんつん つんつん


 反応が無いな?既におなくなりになってるのかな?動いていたように見えたのだが……。


 つんつん つんつん つんつくつん


 諦めず、何度かつんつんしてると突然葉っぱの塊がビクっと動いた。


「うおおお!びっくりした!動くぞこいつうううううう!!!!」


 その声にびっくりしたのか、ザワザワと葉っぱが動き、中からこちらを伺う気配がする。


「あー、あー、君たちは完全に包囲されているー おとなしく出てきなさーい」


 相手が魔獣なら言葉が通じるわけが無いだろうけども、やってみたくなったのだから仕方が無い……と、思った瞬間、言葉が通じたのか、はたまた偶然なのか。とにかく、ズザザっと葉っぱが持ち上がって中身が姿を現した。現してしまった……。


「あらあ……」


 そこに居たのは魔獣ではなく、青い髪をした肌の白い幼女だった……全裸の……。


「う……うおおお!まずいまずい!これはまずいですぞ!幼女の全裸は色々とまずい!おい!君!大丈夫か?大丈夫なら今すぐ葉っぱに戻るんだ!!!!何がまずいって俺がまずい!!さあ!はやく!」


 思わず錯乱しかけたが、なんとか気を取り直して声をかける。しかし、全裸の幼女はキョトンとしてこちらを見たまま動かない。ちくしょう!ここで言葉が通じてないとかそんなトラップあるか!? 見た感じどう見ても人間じゃん! ええい、言葉が分からないのか戸惑ってるだけなのか分からんが、どう考えてもこの状況は非常に不味い!


 何がまずいって裸の幼女とおっさんという構図は非常にまずい!ポリスメン案件すぎる!ここは裸の幼女と行動してもセーフであろう可愛い動物さんの出番だろう。


「クロベエ、幼女だ。魔獣じゃ無い。ましてお前が苦手なランニングおじさんでもない。怖くないよな?」


「まかせてよ! さすがに あれくらいならへいき!」


「よし!ではクロベエくん!下に降りて幼女を救うのだ!」


「りょーかい!」


 妙にやる気を出したクロベエは俺の掛け声とともにシュタっと堀に降り立った。幼女は一瞬ビクりと体を震わせたが(危険がないように一応見守っているだけです。他意はありません)ぬるりとまとわり付くように動いたクロベエによって背中に乗せられてしまう。

 

 フカフカで気持ちが良いのか、面倒くさいのか何なのかわからないが、とりあえずそこから動く様子はなく、むしろ毛をしっかり掴んでしがみついているように見える。


「よし、クロベエ!そのまま戻ってこい」


「おっけー」


 とは言ったものの、どうやってクロベエを上に上げてやろうかと思っていると、あっさりと三角跳びをして戻ってきてしまった。


 ……。


 頼んでおいてなんだが、そんなに簡単に出入りされると堀の安全性が怪しくなるな……だが今はそんなことはどうでも良い。幼女だ。全裸の。


 これ以上は本当にまずいので、上がってきた幼女先輩には俺の上着をかけてやり、急いで家に入れた。誰が見ているわけじゃないけどさあ……異世界だけどさあ……ねえ?


 顔色は悪くはないが、お腹をすかせていたら大変だと、食事でも取らせようと思って椅子に座るように言ったんだけど、やっぱりどうも言葉を良く分かっていない感じだったので隣の椅子に座ってみせた。


 すると真似をして座ってくれたのでボックスからスープを出して目の前に置き、食べるように言ったけれど、やはり言葉は通じていないようだ。


 うーん、もう少しだけ話をする努力をしてみようか。僅かでも単語がわかるようであれば大助かりだ。


「さて、自己紹介といこう。俺はユウでこっちはクロベエだ。君はなんていうんだい?」


 おそるおそるスープを眺めていた幼女はこちらをみて首を傾げるばかりで答えやしないし、興味深そうに匂いを嗅いでいるわりにはスープに手を付けない。お腹空いてそうなんだけどなー。


 あっ、こんな変なところにある家だ、もしかしてここは魔獣の家で、毒入りスープを飲ませて食おうとしているー!とか思ってるのかな?ほら、大丈夫だよーと自分もスープを飲んで見せる。


 すると、それを真似るように幼女もスープをすすり、びっくりしたような顔をしてからスープに夢中になった。うーん、さっきもそうだったけど、俺の動きを真似ることは出来るが、それ以上の事ができない感じ……だな?


「参ったな、名前がわかんないんじゃ呼びようがないな……幼女呼ばわりもアレだし……しょうがない、ごめんよ」


 背に腹は代えられない!ここは鑑定するしかないでしょう!アプリを立ち上げスマホを幼女に掲げカメラのシャッターを押す……っ!

 

 この光景は全裸の幼女を撮影してるようですごくアレだが、他意はないぞ!!!本当だぞ!用が済んだら消すし!本当だってば!


 ど、どれどれ……ステータスは……


=========================================

 名前:

 職業:ダンジョンコア

 LV:1

 体力:5000

 魔力:5000


 スキル:人化 ダンジョン生成

=========================================

 

 名前が空白じゃーーーん!!!!って突っ込みどころはそこじゃねえ!ダンジョンコアってなんすか!おい!女神!ちょっと来い!!!話がある!!!!!


長くなったので分けました。19時ごろ続きが上がります。

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