第二百五十六話 ドドドド
肉がないなら魚を喰えばよかろの精神で湖を作ってしまえということになりました。
その気になれば俺でもなんとか作れそうな気がしたのですが、めんどくs……もとい、時間が掛かって仕方がないだろうということで、専門家を呼び出すことに。
喚び出しに応じやってきたのは女神とスーちゃん。地形操作は女神がちゃっちゃかやってくれましたが、お水を張るのはやっぱりスーちゃんに任せることに。
将来的には女神に依存せず、なるべく住民とコアたちで世界の維持に務める必要がありますからね。泉の件もそうでしたが、これは良い練習になることでしょう。
ってわけで、スーちゃん頼む!……ねてるわ。
という感じだったわけですが、スーちゃんを起こす前にちょっと気付いちゃったユウです。
「なあ、パンちゃん」
「な?突然なれなれしい呼び方とかよすやん?」
「そのリアクションはやめてやん!そうでなくて、湖さあ、1周30分コース程度っていったよね?」
「そうね。どうよ?割と正確だと思うんだけど?」
「俺の想定だともう少し狭い感じなんだけど……これ一周どんくらいあるんだ?」
「大体6km前後かしらね?前にサイクリングに行った余呉湖ってとこが気持ちよくってさ、1周30分ちょいだったし、そんくらいかな?って」
「俺が言ったのは徒歩30分なんだよなあ……」
なんてことでしょう。ちっちゃめのダム湖を想定してお願いしたら、そこそこ立派な湖を作られてしまいました。
余呉湖って確か天女伝説があるとこだっけ。もしかして女神的な連中がよく遊びに行くスポットだったりするのかな……。
さて、やらかしてしまったものは仕方がありません。今からまた地形操作させるのも面倒くさい……何がって女神が拗ねてめんどくさいので、ようやく目を覚ましたスーちゃんにお水をはってもらいましょう。
「というわけでスーちゃんや、お水をたっぷりはっておくれ。めちゃくちゃ入るから全力で喚び出していいよ」
「おっけーじゃーいくよー」
気だるげな声で宣言した直後、ズドドドと、地響きのような音が聞こえてきました。見れば湖にごんぶとの水柱が立っていて、それが滝のように打ち付けている音でした。
景気よく放出される水になんだか興奮してしまい、女神とふたりきゃっきゃとはしゃいでみていましたが、ここでふとした疑問が浮かびます。
「ねえねえパンちゃん。あのお水ってどこからきてるのお?」
「だからその呼び方やめなって。んー?持ってきて困らない所?」
答えになってねえ!
気になったのは無から有は作れないだろうという事です。いくら神様とは言え、何かを創るのには素材が必要だと思うのですよ。
そりゃまあ星単位の管理どころじゃなく、ホントの意味で世界を生み出した神様って存在なら、法則に縛られず何でもやれるんじゃないかなって思うのですが、下っ端の女神には無理じゃね?と。増してその女神から生まれたダンジョンコアにそんな力は無かろうと。
つまり、あの盛大にザバザバやってる水はどこからか持ってきてるんだろうと思ったのです。
いやね?湖を創るため周囲の水分をガッツリ集めて砂漠化とか洒落になりませんからね?一応出処はきになるじゃないですか。
「持ってきて困らない所ってどこなん」
「そりゃまあ水がアホほどあるところよ。具体的に言えばこの星の裏側かしら?」
「ほう……裏側ね……。その周辺の人たちが困ったりはしないのかね?」
「うーん、この大陸があんまりうまく行かなかったから他の場所はあんま弄ってないから……まあ、平気だと思うけど……あー大丈夫だわ」
さりげに恐ろしい情報がポンポン出てくるなあ……。
「海流の関係かなんかわからないけど、裏側の海は真水でね?そっから汲み上げてるみたい。偉いわねスーちゃん。言わなくてもキチンとして!」
スーちゃんが偉いのは同意だが、コアでもそんな遠くに干渉することが出来ちゃうのかよ……いくら女神の加護を引き継いでるとは言えデタラメだぞ。
ていうか裏側の海が真水ってなんだよ……ああ、この世界の海ってツボから塩が湧いてるんだっけ……。創造主の頭も沸いてるけど……。
ともあれ、海水ならまあいいか……いや知らんけど。軽い気持ちで地形操作で湖だー!とか言っちゃったけど、環境の変化とか他の地域への影響とか考えなかったのは反省だな。
人のせいにするわけじゃあないけど、特に疑問に思わないでホイホイ従う女神も体外だと思いますけどね!
ドウドウと水を流すこと1時間。もう昔からそうであったかのような立派な湖が出来上がってしまいました。宿場町は小一時間で湖畔の町に。神の力やべえわ。
せっかくなので、ティーラにお願いをして湖の周囲を林で囲み、女神がノリで用意しておいたらしい島にも木や植物を植えておきました。
湖の水質は小川と同じ具合にしまして、そのまま小川と直結。上流から湖にINした小川は湖を経由して下流に流れるようにしましたよ。
小川に住んでいたマスっぽい魔魚なんかが湖で立派に育つことでしょう。
でもこれだけじゃいけませんな。
他にも様々な水棲生物……、小魚とかエビとか貝とか入れたい所。そんなのが手軽に手に入る場所といえば……。
「そうだ、湿原に行こう」
かつておっさんたち妖怪軍団と死闘を繰り広げられたあの地、湿原。そこから常識の範囲内で生物……まあ、大体が魔獣なんだけど。それらをゴソっと捕らえて移住させてしまいましょう。
なーに、アホほど広い湿原だ、大して文句も言われまいて。
―この時、僕はまさかあんなことになってしまうとは夢にも思わなかったのです。




