第二百四十八話 視線
ちょっぴり出会いが最悪だったマーナちゃん。どうも俺には懐かない。折れる心をなんとか抑え、ティーラと二人、マーナちゃんの集落へと送り届けました。
するとなんとびっくり!俺に懐かないのはマーナちゃんだけではなく、どうも集落全員疑惑が持ち上がるじゃあないですか。マーナが居ない!山狩りだ!ってな具合に松明掲げたワイルドなオヤジどもが俺を見てビクビクするんですわ。
なんだよなんだよ!ジャンプしてみろよオラァ!ってなもんで、来て早々に帰りてえな……と、心をバッキバキに折りつつ、ここをキャンプ地としました。ユウです!ユウです!
心が綺麗で優しいユウなんです……ッ!
ティーラを間に挟んで何とか確保した集落外れのキャンプ地。ここにサクサクと5人用テントを張りまして、簡易ではありますが快適な環境を確保です。
テント内で全てやるのは流石にアレですので、併設する形でタープを張り、テーブルと椅子、魔導コンロや無限ウォーターサーバーに魔導冷蔵庫を配置してダイニングキッチンにしました。
無限ウォーターサーバーはスマホ内のストレージに直結したHIMITSU道具で、馬鹿の怠惰を利用してホイホイと作らせたものです。ストレージ内には清浄な水を25mプール一杯分ずつ、定期的にスーちゃんに補充して貰ってるので尽きることはありません。
万が一出先で尽きかけたとしても、馬鹿にメールすれば自宅に置いてある据え置き型ストレージ経由でスマホのストレージに補充してもらうことだって出来ます。
なんかクラフトゲームのマルチプレイ見たいでいいですよね。馬鹿はあんまり協力してくれませんが。
さあ、ご飯にしよう、俺もティーラもお腹がペコペコです。
魔導ランプでこうこうと照らされたタープ内でムラハチキッチンがはっじまるよー!
……てなもんで、春の大地は夜冷えますので、暖かな料理がIIYONE!ってことで、トマトっぽい野菜、いやこれぶっちゃけトマトだよね?って常々思っている野菜を使ったトマト鍋を作りました。
これは飯にもパンにも酒にもあう素敵鍋ですわ。薄切りにした豚肉……もとい、ヒッグ・ホッグの肉にタマナ、ムックル、玉ねぎ的な奴、おっと忘れちゃいけないウインナー。これが歯ざわりのアクセントになるのです。
そして主役のトマトっぽいアレをザクザクっと切って、塩コショウに水、植物油に水煮しておいたトマトのタレでグツリグツリと煮ます。
っと、ストレージで眠っていた海鮮スープをちょろりと隠し味(隠れない)として入れましょうか。うん、グルタミンとイノシンがタッグを組んで殺しに来てますわ。これはヤバイ。
いい具合に旨味が染み込んだ所で……お椀にIN……ッ!からの!とろけるチーズON……ッ!
ふわりととろりとチーズがお椀を覆い尽くしまして、カロリーモンスターの爆誕ですわ。
「ほいよこれ、無料の0円で作った具沢山・アチアチ・トマト鍋ね」
「父さんその喋り方は辞めたほうが良い」
ともあれ、これで真に完成です。いただきます!と、高らかに宣言をして武者リムシャリといただきます。ああ……これやばい……。そして俺はこれにペッパーソースをぶちかけて食べるのがスキでスキで……ああふん……、うまっ……からっ……。
「父さんその食べ方はやめたほうが良い」
またしてもティーラに窘められてしまった。この子は優しいし、良い距離感で甘えてくれるけど、たまにこうやって厳しく教育をしてくるんだよな。
バブ味を感じたらどうするんだ!まったく。
ともあれ、ティーラと二人きゃっきゃうふふとご飯を食べていると……突き刺さる……視線……ッ!
暗くてよくわかりませんが、どうも複数人の村人に囲まれている……気がする。
コチラを監視しているのか?様子を伺い、俺達がグゥと寝息を立てた瞬間『来なかった事に』するつもりなのか?
食事が進むにつれ、1人、また1人と俺達を取り囲む数は増えていく。
グツグツと鍋が煮える音に紛れてハアハアと荒い息遣いが周囲から聞こえてくる。参ったな、丸太はストレージに入っていないんだ……刀は……自生してないか。
と、冗談はさておき。今日までこの狂った世界で生きてきた俺をなめてもらっちゃあ困る。あの女神が作り出したこの世界。良いくらいに俺はもう馴染んでいるんだよ。
いいぜ?見せてやる。お前達が何を思って俺達の幸せな時間を邪魔しようって思ってんのか全部まるっとお見通しだぜ!行くぜ……ビビって逃げんじゃねえぞ!
「おーい、トマト鍋まだ沢山あるから一緒にどうですかー?」
「「「ひえぇえええ!!!」」」
……外で弁当食ってたら野良猫たちが遠巻きに見つめてくる。しょうがねえとフライを手に立ち上がった瞬間、蜘蛛の子を散らすように逃げていく、今まさにそんな気分です。
知ってたけど!知ってたけど!
しょうがない、ティーラ経由で……と、思ったら、幼い子供を連れた母親がビクビクしながらコチラに歩いてきているじゃないですか。よくみりゃマーナもご一緒で。
唯一ビクビクしてないのは赤ん坊だけかよ。
「う、うう。あ、あの、本当に食事を……分けてもらえるんですか?」
ホッソリとした……いや、やつれ気味のお姉さんが薄幸そうな顔で恐る恐る聞いてくる。これはちょっとなにかまた面倒な理由がありそうだな……。
「ああ、あんたもその子も、マーナも腹減ってるんだろ?いいよ、遠慮なく食べな」
新たに椅子を取り出して、座るように言うと、ビクビクしながらもきちんと座りまして、ティーラから器を受け取り、アチアチのトマト鍋ONチーズをハフリハフリと食べ始めました。
「美味しい……」
「うん、美味しいねお母さん……」
遠慮がちに食べ始めた二人でしたが、一度手を付けてしまえばもう止まらない。後を引くトマト鍋がぐいぐいと食欲をひっぱり、二人の口を止めません。
「あー、このトマト鍋めっちゃうまいよなー。実は多めに作ってまだまだあるけどー、他に食べたいやつが居たら遠慮なく分けてあげるんだけどなー。あー、遠慮して来ないやつの分はもう無くなっちゃうかもしれないなー」
ちょっと大きめの独り言を言うと、ガサリ、ノソリ、ハアハア……と、周囲からどんどん人が集まってきまして、最終的に30人近く?老若男女がテントを取り囲みまして、結局皆食うんかーい!と、炊き出し状態になってしまいました。
流石に途中で作り足す必要が有りましたけどね、遠慮がちながらも、皆さん美味そうに食ってくれましてね!何とか餌付け……もとい、話し合いが出来る関係に近づいたんじゃないっすかね!
この人見知り……あんまり面倒な理由じゃなきゃ良いなあ……。




