第二百四十六話 ティーラの提案と出会い
ガタリガタリニャンニャカニャンニャカと道なき道を開拓しながら走る男、ユウです。
いやあ、ティーラちゃん賢いですわ。ていうか俺が間抜けでしたわ。暫くの間ひたすらに砂利をばらまきながら走るクソ迷惑な生き物を演じていた我々春の大地開拓するマンでしたが、彼女の一言で事態は大きく変わります。
「ねえ、父さん。この石って道だよーってわかるようにまいてるの?」
「そうだね、あと雨でグチャッと泥濘むのを防いだり、あっという間に雑草に埋もれるのを防いだりってのがあるかな」
「でもガタガタして走りにくそうだよね。もっとギュッギュって出来たら良いのにね」
「そうねえ。ホントはローラーでギュッギュってしたいんだけどね、流石にアレはなあ」
「そんな特別な道具を使わなくても、父さんなら何とか出来るんじゃないの?ほら、あのピッピってやるやつで」
ピッピってなんだ……?ああ!スマホか!要するにティーラはスマホの開拓キットを使って舗装しながら進んだらどうなのか、そう言っているわけです。前にそんなことをやったような気もするけど忘却の彼方。
今までこのスマホは魔獣をコロコロして手に入れた魔石から充電して各機能を使うという、如何にも正しい異世界主人公見たいな設定……もとい、仕様だったのですが、今や塩のダンジョンと直結され、そこで無尽蔵に唸る魔力を遠慮なく使えるようになっています。
「まったく都合がいい設定変更しやがって……まあ、今更ダンジョンに潜って魔石掘るのも怠いから助かりますけどね……」
魔導バスの最前席、いわゆるお子様シートに座りまして、スマホに前方の景色を映します。流石にアスファルト舗装は資材が無いので、砂利をギチっと詰める感じの設定で前方20mまでを範囲に整地範囲に指定し、改めてバスを発進してもらいます。
先程までガタゴトと揺れていた車内は平和そのもの。全く揺れないとまでは行きませんが、しっかりと固められた路面は快適そのものです。
ひとつ言えば、このスマホを構えたままじっとしているというポーズが非常にきつい。きついってレベルじゃなくきつい!
「ぬおおおおおお!ヘイ!ドライバー!ヘーイ!ちょい、ちょいすとおおおっぷ!」
バスを止めてもらい、スマホスタンドを作りました。いやあ、無理だって。ずっとスマホ構えたまま何時間もじっとしてるの。マジ無理だって。
スタンドにスマホを固定し、改めて発進です。このスマホはセキュリティ的にゴミなので、俺が触っていなければ動かないと言うことはなく、こうして手を離していても勝手にどんどん仕事を勧めてくれます。
何か自動で仕掛けたあとうっかり俺が何処かに消えてしまったら、きっととんでもないことになるのではないでしょうか。
ううん、恐ろしい道具だ。
それでも一応安全機能はついてます。指定した範囲に生物が存在していた場合、範囲外に転移させられる仕様です。それはもう、人だろうが魔物だろうが虫だろうが草だろうが細菌だろうがなんだろうが兎に角、女神が定める「生物」というものが存在していた場合、巻き込まれないような仕様になっています。
女神になにかやらかして「ゴミ」と判断されたものが巻き込まれた場合、どの様な判定を受けるのか非常に興味はありますが、見たくはありませんね。
さて、そろそろ今日の目的地、宿場町候補地であり、本日のキャンプ地かなあという頃、車内後部に『ドサリ』と言う音がしまして、間もなく「ヒェエ……」と、何かに怯えるような声が聞こえてきました。
何だなんだとバスを止め、後ろに行ってみれば、お花が沢山入ったカゴを手にへたり込む、絵に描いたような村娘がオークに囲まれたエルフ娘のような顔をして震えていました。
囲んでいるのは豚じゃなくて兎なんですが、震えているのは見た目のせいではないのでしょうな。
見た目からして恐らく、周辺に住む集落の娘さんなのでしょう。怯えさせないよう、紳士of紳士に徹して声をかけます。
「お嬢さん、僕達は南の土地からやってきた怪しくない者たちです。良かったら話を聞かせてくれませんかね?」
「……自分から怪しくないっていうやつは怪しいってバッチャが言ってた……なに?なんなのここ……ええ……」
ううむバッドコミュニケーション。なにが悪かったというのか?
「大丈夫だよ、怖くないよ。私はティーラ、こっちは父さんのユウ。周りの皆はウサ族の人達で、皆が便利に使える道やお家を作ってるんだよ」
「ティ、ティーラちゃん?私はマーナ。お花を摘んでいたらいきなりここに居たの……」
ううむ。やはり女の子には女の子か……いや、それ以外にもこう、色々あるような気がするが、しかしティーラ連れてきて正解だったな。状況説明が上手すぎて助かるどころの騒ぎじゃない。
取り敢えずちょっと早いけどここをキャンプ地として手早く拠点を作りまして、中にマーナを案内して詳しいお話を聞くことにしました。
マーナはまたたく間に開拓され、家が生える様子にドン引きしていましたが、まあ、気にすることではないでしょう。
暖かいお茶とクッキーをすすめると、恐る恐る手を付けていましたが、クッキーを食べた瞬間、目を見開き頬を薔薇色に染めて嬉しそうな顔してしましたので、これは餌付け成功と見て良いのでは?
てなわけで、お話を伺ってみましょう。
……俺が何か言おうとすると「ヒッ」ってビビるのでティーラにね……俺がなにをした……。
ちょっと家を沢山生やしたり家具を生やしたりお茶とかクッキーとか虚空から取り出しただけだろ……。
妖怪ですわこれ。
ティーラとマーナの話を聞いていましたが、やはりこの周辺に小規模の集落があるようです。
20人規模の集落がぽんぽんと点在していて、罠を使って小動物……小さな魔獣を獲ったり、野草を集めたりしてほそぼそと暮らしているそうです。
今日摘んでいたお花も干してお茶にするらしく、せっせと摘んでいたらいきなり妙な所に移動して寿命が縮まったと言っていました。
……すまん、本当にすまん。しかしまさか車内に転移させられてくるとは夢にも思わなかった……。
ていうか安全装置が無かったらって考えると恐ろしいな……安全装置ヨシ!
取り敢えず今夜はここに……と思ったけれど、サクっと鑑定してみればマーナは齢13歳。しかも嫁入り前の女の子となれば花を摘みに行ったまま帰らぬとなったら大騒ぎになるかも知れません。
幸い、まだ日は落ちきっていませんので、小型の魔導車を取り出しまして、ティーラと一緒に集落まで送っていくことにしました。
「ええ……こ、これは……なんですかああ?」
「そろそろ怯えるの辞めてほしいんだけど……しょうが無いか。これはあのデカいやつと同じく、座ったまま移動ができる魔導具だよ。おうちまで送っていくから乗ってね」
「だだだ大丈夫かなああ?みんなをいじめない?」
俺を何だと思ってんだ……魔王とかそういうんじゃねーぞ!
「ふふ、大丈夫だよ。父さんはこう見えて優しいし、面倒なことはしない人だから」
ありがとうティーラ……フォローされてるのかされてないのかわからないけど……ありがとう!
ゆるゆると日が沈みゆく草原をガタゴトと走り、マーナの集落を目指す我々。
まさかあんなことが起きるなんて、この時はまだなにも……いや、なにが起こるかは知らんが。




