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第二百四十一話 キャンプ場体験

 火のダンジョンの転移門に入る前、ふとマルリさんをみると、遠く見えるヒゲミミ村の灯りをみつめていました。


 なんだかよくわからない内に我が家の一員になっていたマルリさんですが、やはり実家であるヒゲミミ村を恋しく思うこともあるのでしょう。


 別に気を遣ってくれなくていい、いつでも実家に戻っていいんだよ、そう彼女に伝えようとしたとき、マルリさんが強請るような顔をして言いました。


「のう、ユウよ。ワシはちょいちょい温泉にきとるんじゃがの、やはりこう、転移門から温泉までが遠く感じるというか、なんじゃ、ぶっちゃけ歩くのが面倒なんじゃ!あのクルマとか言うやつみたいなのをこの村にもおいとくれんかのう」


 そうでした。この人、温泉のポイントカードにガスガスとスタンプ押されまくってるんでした。


 ホームシックもなにも週4くらい適当に来てる感じなんでした!


「う、うん。この村に合わせた乗り物をなにか考えておくよ」


「やったーなーのじゃー」


 子供のように両手を上げて喜ぶマルリさん。亀が真似をしてバンザイをしてますが俺は突っ込まねーからな。


 さて、そんなわけで帰ってまいりました!はじまりの村!


 我々は早速キャンプ場に向かい今夜の用意を始めます。


「へー、キャンプ場なんてあるのね。大丈夫?お客さん来るの?」


 ぶーちゃんが心配そうにそんなことをいうので、以前の親子キャンプ会の話をしたり、安全な環境で子供に野営を教えられる場として需要がある、とか、そもそもこの世界の狩人が行っていた野営が酷すぎて大人もここで学び直している、とか説明をしたら納得して関心して下さった。


「なるほどね。お父さんの活躍を見せたり、野営の訓練をしたりか。確かに需要はありそうね。遊具も魅力的なのがたくさんあるし、良いもの作ったじゃないの!」


 ぶーちゃんもまた、この手の世界でわざわざお金を払ってキャンプをする必要があるの?って思ったそうな。実際狩人たちからも最初は変な顔されちゃったから言ってることは間違ってない。


 でもレジャーとしてのキャンプは野営とはまた違うからな。遊びを通じて普段野営をしないような人達もスキルを身につければいつかなにかの役に立つだろうし、悪い施設じゃないと思うのです。


 というわけで、大ぶりのテントを2幕設営し、子供たちはご飯の支度が始まるまで自由時間です。


 大人たちは……言うまでもなく、さっさとビールを飲み始めている女神が2柱。耳が2匹。

 全くダメな連中ですねぐびぐび。


 いやほら……大自然の中で飲むビールの誘惑って……ね?


 こんなにも焚き火はユラユラとして暖かいし……しょうが無いよ……。


 2時間ほど経った頃、時間的に良さげな感じになってまいりましたのでご飯の支度を始めます。


 大人たちは……まあほっとくか。


 子供たちを集め、お手伝いをしてもらいます。ルーちゃんはご飯の用意をする係です。子供たちは家でもちょいちょいお手伝いをしてくれるので、ご飯の研ぎ方に磨きがかかってますね。


 用意が出来た飯盒でご飯を炊くのはナーちゃんです。巧みに火を操りいい具合にご飯を炊き上げていきます。焚き火を使えって?適材適所ってやつだよ!


 ティーラが高速育成でどんどこ野菜を生み出して、それをスーちゃんが洗います。そしてソフィアが風でどんどこ炭を起こしていきます。


 あれですわ。娘5人居ればキャンプが捗るってやつですわ。俺は何をしてるかってNIKUを切ったり野菜を切ったり、だらしなくビールを飲んでる亀を斬ったり……ちい、避けやがった……しています。


「こら!なにしてくれてるんじゃ!危ないじゃろ!」


「うるせえ!いつまでも客見てえな顔でダラダラしてんじゃねえ!手伝え!」


「マルリちゃんや女神様たちだってだらだらしてるじゃん!いいじゃん!のじゃのじゃ!」


「言語崩壊するほど嫌がるなよ……。マルリさんはいいの。女神はあれだ、下手に絡むとめんどくせえから放置だ」


 そして亀が渋々といった感じで手伝いにやってきました。まあ、今更来た所でやることもないわけだが。とは言え、何もさせないというのもあれなので、パン生地をひたすら捏ねさせました。そらもう必要以上に。


「ユ、ユウ……これ何時まで捏ねればよいのじゃー」


「俺の気が済むまでだよ!」


「なんじゃとー!」


「ちなみに後100億年はこねてもらうからな!」


「謀ったな……謀ったなユウー!」


「だからそれ言いたいだけだろ……ん、そろそろいいんじゃねえかな。そっちおいて発酵させといて」


 さて、おやつの仕込みも出来ましたし、そろそろご飯にしましょう。


 ルーちゃんとナーちゃんが炊いたご飯はキラキラにこにこと美味しそうに出来上がっていて、二人がハイタッチで喜びを分かち合っています。ああ、尊いですね。


 ティーラにソフィア、スーちゃんのBBQ組も達成感でいっぱいという顔です。


「おら!女神共!用意ができたぞ!つまみは自分で焼け!焼いて食べて飲め!」


「わあああああ!まってましたあああああ!」

「あらー!バーベキューなんてひっさしぶりね!ほらほら、リーちゃん私に肉を焼く権利をあげるわ」


「だっれがアンタに!アンタが私にNIKUを焼きなさいよ!」

「私は上のものに告発する用意ができている」


「ははあ!ブーケニュール様!こちらのお肉がおいしゅうございます!」

「くるしゅうないわ、さあ、どんどん焼いてくださいな。私のかわいいわんちゃん」


「ぐっ!」


 なんか危険な関係みたいでとってもダメですね。しかしぶーちゃん先生は馬鹿のあしらい方が上手いと言うか、俺と思考が近いと言うか……。召喚先がぶーちゃんの世界で、ぶーちゃんと協力して……ってなっていたらどんな世界になっていたのかちょっと気になるな。


 ……なんだか非常に邪悪な世界が想像出来てしまった……。


 俺には馬鹿の相手をしながらゆるくいい加減にノリだけでやっていくのがあってるのかも知れないな。


 炭が爆ぜる音、肉が焼ける香り。子供たちの歓声、バカどもの笑い声。


 煙とともに夜の森に立ち上り、キャンプ場の夜は更けていったのです。

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