第二百三十七話 ぶーちゃんを連れて
いやあ、神様って本当に居るんですねえ。悪いことをすればキチっと天罰が下る!勧!善!懲!悪!いいですよね。
てなわけで、神々の戦いを目の当たりにしたユウです。
せっかくだしってことで、ゲーセンを堪能し、ウサギンバレーで軽く遊んだりご飯を食べたりしてから地上に帰りました。亀がなんだがグズってましたが、知ったこっちゃありません。
ゲーセンは取り敢えず存在を許されることになりました。馬鹿が対価を支払えなかった時どうなるかはわかりませんが、まあその場合でも恐らくゲーセンが消えるようなことはないでしょう。
馬鹿が持ってるかも知れない女神としての尊厳が消えるだけで済むでしょうし。
「せっかくきたんだしぃ」
と、暗に観光をおねだりするぶーちゃん。まあ、俺としても外部の人間……じゃないや、女神様から俺がプロデュースしている世界を見てもらうのは興味深かったので、翌日から時間をかけてあちこち回ることになりました。
その分、今後の作業に遅れが生じてしまいますが、まあしょうがない。
ただ、余りだらだらと遊ぶのもアレだったので、今回はキチッと観光ルートを決めて効率よく回りましたよ。
まず初めに向かったのはメリル村です。牧場でモフモフを堪能し、乳製品工場を見学し、学園の視察に。ここは今の所あまり観光向けではないので、岩手県にある某農場の様に見たり体験したりで楽しめるような仕組みを考えなければいけませんね。
学園の存在をはじめて知ったぶーちゃんはしきりに驚いていました。
「まさかリーちゃんの世界に学園が建つ日がくるなんて!」
「さりげに失礼よそれ!」
あながち失礼じゃないんだよなあ……とイジろうとして、学園の案を出したのがパンだという事を思い出しました。
ううむ、パンを弄るのも捨てがたいが、驚くぶーちゃんも悪くはない。
「ああ、それがな。学園を建てようかって案を出したのはリパンニェルなんだよ……」
学園を立てるに至った経緯をざっくりと話し、その際に女神に相談した所『じゃあ学園よ』と提案してくれたと言ったらそりゃもう、お口あんぐりですよ。
「ま、ま、まさかリーちゃんがそんなまともな提案をする日が来るなんて……」
「だから失礼だからね!テストの点だけは良かったんだから当然ょ!」
そこはあんまり威張るようなとこじゃないだろ……。
そのままぬるりと学園の視察を終え、学食でご飯を済ませて風のダンジョンを見に行きました。
流石にこのパーティを前にして悪いことをしようとする魔物はおらず、ただひたすらに広大なダンジョンを視察してそのまま転移門をくぐって今度はマリーノ村へ向かいます。
「今度は海の村なのねー」
浜風を堪能するぶーちゃん。取り敢えず女神様御一行には村を散策してもらい、その間俺は宿の手配と近況を聞きに役場に行きました。
「ユウですけど」
「あ!ユウだ!」
「ユウが来たぞ!」
うさぎ達に混じって書類仕事をしていたハンナとブレイクが顔を上げ、嬉しそうな顔をします。
再会を喜んだ笑顔だと思うのですが、キンタが見せる「ユウきた!メインユウきた!これで勝つる!」的な打算を含んだ表情が脳に染み付いているため、ちょっと身構えてしまいます。
「久しぶりだね。今日はちょっと客を連れて遊びに来たんでさ、ついでに近況報告でも聞こうかなって」
俺がそんな話をすると、待ってました!といった顔でこちらにやってきます。キンタがそんな顔をしてきた場合は、間違いなく『ユウ~助けてくれよお』といった声がかかってくるため、俺もちょっと身構えてしまいましたが、二人の口から出た言葉は喜ばしいお話だったのです。
「聞いてくれユウ!ウサギのコックがすげえの作ったんだ!」
興奮気味に羽根を飛ばすのはハンナです。この羽根、毛鉤に使ってみたら結構良かったんだよな。また貰っていこう……。
「あまりにも凄くて工場まで作っちゃったんだぜ!」
興奮気味に話すブレイク。……工場?自発的にそんな物を作るとは中々嬉しい報告だけど一体なんだろう。
二人に聞くも、『まあ見て欲しい』と言われ、その工場とやらに案内されました。
その工場は海に近い場所にあり、辺りには何か懐かしい香りが漂っていました。よだれが湧いてくるような、腹がなるような、そんな香りです。
工場の扉を開け、入ってみればこれは……。
多数の村民やウサ族が大きな魚を捌いたり、何か火を通したり、並べたりしています。
もう大体何を作っているのかピンときたのですが、工場長だというウサ族が俺に気づいてやってきました。
「あ!ユウさんだ!今度報告に行こうと思ってたんですが、そちらから来てくださるとは!」
礼儀正しい方のウサ族だ。ウサ族はなんか礼儀正しいのと遠慮がないのと変なのと居るんだよな……。
そのウサ族が「どうぞ、試食してみて下さい」と俺に手渡した器でフワフワと揺れているのはそう、にっくきあいつ!鰹節だ!
「うわあああああああ!!カツオブシだぁああああ!わああい!カツオブシ!ユウ、カツオブシだあいすきいいいいい!!!」
突如奇声を発する俺、驚く一同!戸惑いの瞳の群れが俺をザクザクと射抜く!
いやだってさあ、カツオブシだよカツオブシ!いつか作ろうと思ってたけど忘れてたカツオブシだよ!
「驚いたな、カツオブシじゃないか。一体どうやって製法をしったんだ?」
鰹節は発酵食品です。ただ何となくふわっと調理したら出来た!とは行きません。パン酵母ならまだマシですが、醤油や味噌、日本酒なんかと並んで異世界で作るのが非常に困難な食品だと思います。
「いやあ、女神さんがさ、『冷奴にはやっぱカツブシがほしい。せっかくだからウチの世界産のがいい』とおっしゃりまして。レシピと……あと、お子さんのカゴ?を使ってくださったんですよ」
概ね予想通りの答えが帰ってきました。奴が絡んでるのはまあ、間違いないと思いましたが、カゴって加護だろ?どういうことか把握したいのでちょっと見せてもらうことに。
「私もよくわからないんですが、この部屋の棚になにかしてましたよ」
そう言われて入った部屋は空気が他の部屋とは違かった。ああ、なんだろう?多少なりとも俺と繋がりがあるからなのかな?誰の加護がかかった部屋なのかほんのりわかる。多分ティーラだ。
棚には鰹節がずらりと並べられ、表面にはカビが生えている。なるほど、ティーラの加護で必要なカビのみ生えるようになっているのか。余分な菌類は多分シャットアウトされてんだろうな。
そして最後に案内された部屋、これこそがウサ族の本気であろう。空調と室温がしっかりと完備された乾燥室で、鰹節は最終的にこの部屋と先程のカビルームを数回往復した後、完成となるそうだ。
通常、鰹節が出来るまでには4~5ヶ月くらいかかるはずなんだけど、この工場を使えば2週間で済むそうだ。
先日鰹節の製品第1号が完成し、試作品が配られていた村内の宿や食堂では既に鰹節を使った料理が出され始めているようだ。
味も悪くはないし、カツオに免じてここは許してやろう。
そしてその晩、泊まった宿で出された料理に亀が涙をながすこととなる。
「ユ、ユウ~!こ、この味噌汁……鰹だしが聞いてるのじゃあああ」
「ああ、鰹と昆布の合わせ技だ……うめえな……」
先日亀を連れてきた時はまだ客には出していなかったらしい。ほんといい時に来たもんだな。
鰹節を上手い上手いと俺や亀が褒める度、何故か女神が得意そうな顔をしていましたが、無視を決め込みました。
かわりにティーラをめいいっぱい撫でてやったのでこれで良いと思います。




