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第二百十九話 亀五郎の思い

 まさかのうっかり転生だった亀五郎。ちょっと時代はずれては居たけれど、かなり年上ではあるけれど、貴重な同郷の人間……いや、元人間と久々に会ってちょっぴり嬉しいユウです。はい。


 此方側の事情はボカして説明してましたが、もう面倒くさいのでガッツリ打ち明けようと思います。


 うん、半分愚痴りながらね!


「てわけでさ、亀ちゃん。本題に入ろうと思うんよ」


「だからワシはレンゲちゃんじゃい!」


 ちなみにそこで妙に艶っぽい目で此方を見ているウサギには俺のことを打ち明けてあります。何か説明する時いちいち俺が考えた体で言うのも面倒になりましたからね。


 別に俺が異世界人だって隠す必要無いんじゃね?って最近思ってましたしね。


 まあ、キンタなんかに言った所で今更信じてくれそうが無いため、打ち明ける相手は選びますけれども。


「まあ、もうわかってると思うけど俺は日本人だよ。亀ちゃんと違うのは転生じゃなくて転移、クソ女神に拐かされてこっちの世界生きたままやってきた日本人さ」


「なんと!そんな事が本当にあるのか?いや、あるんじゃろうな。お前がそうやってそこにいるならそうなんじゃろう」


「俺が来たのは2017年の何月だったかな……エイフォン買った後だから11月くらいかな?亀ちゃんが爺からロリ狐にジョブチェンジしてから6年以上は前ってことだね」


「あっちとこっちじゃ時の流れが随分と違うようじゃのう。大丈夫なのか?お前さん、あっちに帰れたとしても浦島太郎状態なのではないか?」


「ああ、その辺はバカがバカなりに何とかしてくれるらしいよ。俺が転移した日の同じ時間に返してくれるってさ」


「ふうん、其れは良かったの。ずるいの!」


「俺から見たら亀ちゃんだってずるいからな?俺だって可愛いロリ狐にTS転生したいもん」


「ふふ、そうじゃろそうじゃろ?いいじゃろこれ!本当は狼系の獣人に転生して豊穣を祈ったりしたかったのじゃが……」


「おい亀ちゃん爺のくせにまさかあのノベルを知ってるのか?」


「あれがどれかわからんが『大神と黒胡椒』ならひ孫から借りて読んでたよ。あの娘っ子がかわいくてのう」


「マジかよ……亀ちゃん爺のくせに頭わかかったのな。スマホ詳しいのもそのためか……」


 思ったより話がわかる元爺のようですな。ううむ、こりゃ良い友だちになれそうだ。

 

 と、友達を作りに来たわけじゃないんだった。


「亀ちゃんさ、その様子だと生前はケータイもってたんだろ?」


「ああ、もってたぞ!NIWAでカツオが出してたスポーツモデルを愛用しとった!」


「それなら話は速い。俺とこの……なんだっけ、そう、ラミィはケータイの電波塔を建てる工事のためあちこちまわってんだよ」


 ボックスからケータイを取り出して亀ちゃんに手渡すと、懐かしそうに手に取り弄り回していました。日本に居たことを思い出しているのでしょう、何処か悲しげな表情は此方まで郷愁の念に駆られます。


「なんじゃ、初期のクソみたいなモデルではないか!」


「そういう表情かよ!」


 しょうがないので、余りにも急な発展はどうかと思うので技術の小出しをしていく方針だということを伝えました。それに合わせて外の文化もより詳細に伝えると『そんな世界観にケータイ作った時点でオーバーテクノロジーじゃんよ』と突っ込まれましたが、無視をしました。


 まあ、言いたいことはわかります。閉鎖された土地なので限界があったというのもあるのでしょうが、亀ちゃんが作り上げたこの村は正しくじっくりゆっくりと文化を進歩させている感じがして好感が持てます。


「でまあ、女神に言われて文化を発展させてるうち、このラミィみたいに急速進化を遂げた魔物……ここで言うところの妖怪が現れてね。ムカつくことにやたら賢くって、今ではケータイを作るまでになったのさ」


「なるほどのう。それでエリアを広げるうちここにたどり着いたというわけか」


「そうそう。亀ちゃん話が早くて助かるわあ」


 さて、ここまでは前提です。今から話す内容が本題。俺の本業は電気工事士ではありません。クソから言われている仕事は文化の発展。本業を忘れてはいけません。


「さて亀ちゃんさ、相談なんだけどこの村どうしたい?このまま隠れ里としてそっとしておいてほしいのか、俺が作った村達と交流したいのか。これは村長である亀ちゃんが決めることだと思う」


 すると亀ちゃんはしっかりとした意思を持った視線をこちらに向け、村長らしい重みがある声を出しました。


「わしはこの村が好きじゃ。丹精込めて育て上げたこの村が好きじゃ。ユウ、わかるじゃろう?wikiを開かず、自らの判断のみでコツコツとパラメータを割り振って作った自キャラへの愛情が。ギルメンから『AGIにそんな振って地雷かよ』と心無い事を言われても自キャラは可愛いものじゃ」


「例えが凄まじいけどまあ、わかる」


「新たにギルドに入った新人が自分よりレベルが高く、良い装備をしていてパラメータもチートを疑うレベルで整っている。わしはそれを見ても自キャラが好きじゃ」


「俺のこと?俺のことだよね?まあ、チートみたいな事はしてるけどさ……」


「わしはこの村が好きじゃよ、好きなんじゃ、ユウ」


 亀ちゃんの気持ちはもう決まっていて揺らがない、そんな気がした。整えられたアクアリウムに『綺麗だ』と言う理由だけで投じられた1匹の魚。

 それによって環境に揺らぎが生じてアクアリウムが崩壊してしまう。亀ちゃんはきっとそれを危惧しているんだろうな。俺もこの桃源郷のような幸せな村が無くなってしまうのは嫌だ。


「わかったよ亀ちゃん……じゃあ、俺達は……」


「でも地球の高度な技術はもっと好きなんじゃーい!」


「亀五郎ォ!」


 何なんでしょうこの爺は。いや、元爺か。やっぱり地球人ってろくな奴がいませんよね。そろそろ異世界の神々は地球人を攫うことによるデメリットというものをきちんと理解したほうが良いと思いますよ。


 あいつら「自重しなきゃ」とか「秘密にしなきゃ」とか「目立たないように」とか言いながら結局知識チートして世界観荒らしやがりますからね。


 さておき、そういうことなら今後の行動を色々と考えないといけませんね。


 

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