第二百十三話 とは言え流石にやりすぎだと思うの
気を取り直してウサギンバレーの見学会、見学会です!あ、どうもユウです。
はい、てなわけで今日は見学会ですが、差し障りがないところだけ見せています。
印刷工場では『手作業で』本が作られていく様子を、瓶詰め工場ではラベルを『手作業で』貼っている所を、そして今度外でも売り出す『ケータイ』を『手作業で』箱詰めしているところを見せていきました。
なんで『手作業』にこだわって見せていたのか?それは簡単な理由よ。
誰かのせいで雪ウサの技術力が進化しすぎてしまって、お外とあんまりにも格差ができてしまっているからだよ。
一応追々と言うか、徐々に徐々にお外も近代化しようと思っていますよ。魔導車なんかも走らせていますし、魔導家電もじゃんじゃか作らせてますしね。
でも、スマホやPC、工業用ロボットは流石に早すぎです。
早すぎる進化は滅びに繋がるのです。
ここに居る連中は技術ウサばかりなので、『特区』として例外的にオーバーテクノロジーを認めていますが、『外』は勿論のこと、ウサ族の里にはもう少しゆっくりとした進化を続けてほしいのです。
里の連中には若干今更なところがあるので、空気読んでねと。『派手な事』はウサギんバレーでやれと徹底してお話してあるので、少なくとも一般の人や魔族にはアカン技術力は流出しないと思いたい。
無論、それも完璧ではないだろうけど、それはもう女神の責任なので俺が知ったこっちゃないのである。
てなわけで、なんと言うか、どっかの半島の上の方の国のように『ガイド』と言うなの監視がついた『見せられるところだけ見せるスタイル』で行く少し違和感のある見学会でしたが、まあそれなりに好評でしたよ。
キンタなんかひたすら瓶詰めをする作業員に見惚れてマーサに蹴られてましたしね。かわいいよねあの工員の人。でもあれ、ゴーレムなんだぜ……。
しかし、ウサギンバレーここはちょっとやりすぎだ。俺はだいすきだし、今となってはおせーのでここを今後どうしろっていう話はしないけど、こんな場所がこれ以上増えると俺もちょっとこまるというか、パンが後々困るのは目に見えている。
だからちょっと思い出してもらおうか。
「ねえねえ、女神様女神様」
「なによ、甘えた声出しちゃって気持ち悪いわね」
「俺さ、これでも記憶力はそこそこいいんだよ」
「ふうん、で、なに?ナデナデしてほしいの?嫌よ?」
「うるせ。いや、この世界に来る前に女神様がおっしゃっていた言葉をね?思い出してさ、あれれー?って今思ってんのね」
「私別に変なこと言ってなかった……と思うんだけど」
「まああれよ。神って得てして『おれじゃない あいつがやったこと しらない すんだこと』みたいにさ、平気な顔でおあしす運動するじゃん」
「……そういう神も居るわね」
「だから俺さ、失礼だなあ、不敬だなあ、この可愛い女神様に限って無いだろうなあって思いつつ、録音してたんだよね」
「……ッ!わ、私は何もアンタに嘘をついたり裏切ったりしてない……はずよ?」
「いやいや女神はんにはほんに良くしてもらってますわ。今回はそうじゃなくて、確認というか、なんつうの?初心を思い出してほしいっていうか?」
「一体何をきかせるってのよ」
「まあまあ、聞いてみて」
『そしてバランスも必要です。人類と魔族それぞれが等しく繁栄し、時には争い生き抜くために互いに知恵を絞り文明を発展させていくことが大切です』
「……ッ!」
『そしてバランスも必要です』
『人類と魔族それぞれが等しく』
『そしてバランスも必要です』
『バランスも必要です』
『バランス』
「……!もうやめて!私のライフポイントはゼロよ!」
「うるせえ!余裕あるじゃねえか!ったく、何がバランスよくだってんだ。俺がちょっと弄りやくしてやったら出鱈目なカスタムしよってからに。お前はアレか?友達に組んでもらったPCを知識がないくせにノリでOCしてCPU焼いちゃうアホか?」
「うう……返す言葉もありません……」
まあOCして焼き鳥作ったのは俺なのだが。技能がある人が組んだ環境というのはある程度最適な調節がされているものであり、素人が適当に弄ると良い結果が出ない、それは当たり前のお話です。
パンは女神なわけで、少なくとも俺よりは技能があるはずなのだけど、ポンコツなのでその理屈からは外れます。『俺が神だ』とは言わないけど、現状俺が適当にやってるほうがマシなわけだからしょうがない。
「まあ、そう気を落とすな。ウサギンバレーは俺も好きだしこのままでいいと思ってる。でも、これを他所でやっちゃダメよ。フォローしきれなくなるからさ」
「そうね、もう反省した!ここだけにする!」
「うん、ここもこれ以上干渉するなよ。もうおせーけどさ」
「ちょっと地球の技術力こえかけてるもんね」
「いや、超えてるんだけど……まあ、俺も相談にのってやるからさ、今後はあんまり勝手なことするなよ。いいね?」
「はい……ちょっと私もやり過ぎた感あるなってじわじわ気づいてきた……ごめん」
「はいはい。わかればよろしい。ほら、土産屋いくぞ、お前も楽しみにしてたんだろ?」
「うん!なんかありがとね!たまには優しいじゃん!」
そう言うとバカはなんだかご機嫌で見学隊と合流し、土産屋に入って行きました。
たまには、ってのは余計だっツーの。俺はいつでも優しいぞ。優しいからちゃーんとパンの事考えてるんだぞ。『上の人にバレたらやばいよね』っていう警告をしたいのを我慢して飲み込んだんだ。
優しいから先生から怒られて反省するというプロセスの可能性を残してやったんだぞ。
そのうちめちゃくちゃ感謝してくれることだろう。




