第二十一話 おおきなにく つよいにく
昼食後、リブッカを倒しに森の奥に向かった。
奥といってもそれ程遠くは無いようで、暗くなる前に森を出られるだろうと言うのを聞いて安心する。流石に夜の森で野営するのは嫌だし、こいつらどう見てもそんな準備をしていないからな。
道中、ちょいちょいロップやクッカと遭遇するが、結構な命中率で狩られていく。
矢を変えただけでこれとは、何かそういう素養があるのかもしれんな。
ん…?まてよ。
「ねえ、写真撮ると図鑑にのるじゃん。それって鑑定が発動してるんだと思うんだけど、なんでも…、例えば人にも効くの?」
パンちゃんにメールをしてみる。
返事がこねえ
あ、きた!
『効くみたいね』
『効くわよ』
打ち直してもログが残ってんだが。さては調べてたな…自分でやっといて知らなかったのかよ……。
そういうことならと、キンタをこっそり写してみる。このアプリ、シャッター音が鳴らないので助かるぜ。
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名前:キンタ
職業:狩人
LV:12
体力:185
魔力:12
スキル:弓 LV10 (MASTER) 投擲 LV3 農業 LV1
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「力」とか、「知力」とか表示されるかと思ったがシンプルなもんだ。この書き方だと体力がHPで魔力がMPみたいなもんかな。
つか、弓レベル異常にたけえな?適当に他の若いやつも見てみよう。
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名前:モフゾウ
職業:狩人
LV:4
体力:38
魔力:8
スキル:弓LV4 投擲 LV1
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こいつもレベルの割に弓スキルが高い。キンタなんてこれカンストしてるじゃないか。種族特性かなにかなのか、当たらないなりに狩りを続けた成果なのかわかんないけど気になるな。後で調査してみるか。
しばらく進んだところでキンタから止まるよう手で合図された。
指をさす方向を見るとでっかい鹿が草をはんでいる。
「あれがリブッカだ」
軽トラくらいある巨大な鹿、といってもニホンジカみたいな可愛らしいアレではなくて、ヘラジカの様な立派な角と体格を備えた重戦車みたいなやつだ。
「狩れるのか?」
「ユウのお陰で当たるようになったからな!」
そういう問題でもないようなきがするが……。嫌な予感がして止めようか迷っているうちに狩人たちはリブッカを取り囲むように散った。
「ギュアーーーーーーーーーーーーーー」
甲高い鳴き声が響く。キンタの矢がリブッカの頭に刺さっていた、が、浅い。
矢は頭蓋を割ることなく止まったようで致命傷にはならなかった。
キンタの矢を皮切りに周囲からも矢が飛ぶ。
ハリセンボンの様に矢が刺さりまくっているが、それでも足りない。
矢の刺さりが浅いようで、ただただリブッカを苛立たせているだけだ。
思わず身を乗り出して見ていると、こちらに気づいたリブッカが頭を下げた。
「ユウ!!危ない!」
キンタの声より早くリブッカがこちらに突っ込んできた。
地響きを立て砂煙を上げながらこちらへ向かってくるリブッカ。
重機が猛スピードで迫ってきているかのようだ。
そのあまりの迫力に体が動かない。やべえ腰が抜ける。
動けないでいるうちに目の前にリブッカが迫る。もう逃げることなどできない。トラック転生しちゃう?いいや、これはリブッカ転生だ!って言ってる場合じゃねえ!
危険が迫ったとき周囲の時間の流れが遅く感じる事がある。所謂ゾーンに入ったのと近い状態なのではないかと思うのだが、今まさにスローモーションで俺に迫るリブッカが見えていた。
このデカい魔獣に飛びかかられている状態、覚えがある。デジャヴ?いや違う……魔獣の森のあのイノシシだ…
その時のことを思い出し、スマホをギュッと握ってナイフで刺すように前に突き出した。
ズンッ
鈍い音と共にリブッカがすっとんでった。
「ふう……助かった。なんとかなったな……」
それを見ていたキンタたちが固まっている。
「おーい」
「あ……な……なな……ど……どどど……」
やべえ、すっかりビビらせてしまったかな……
せっかく仲良くなれそうだったのに、いきなりこれを見せてしまったのはまずかった。
きっと俺のことは魔獣か何かだと思ってしまっただろう。
「な……なあ……」
かわいそうに、怯えて声も出ないか。仕方ないな、今日でこの集落とも……
「なあ!ユウ!今のどうやったんだ!教えてくれ!」
えーー
他の狩人たちも我に返ると俺を取り囲み興奮気味に教えろ教えろとせがむ。
「今のは……その……俺にしか出来ないんだ……」
「い、いやしかし!俺達だって狩人だ!練習すればきっと!」
そうだそうだと言って聞かない。そもそもこれは俺が出来てるとは言えないからな。
あーもうめんどくせえな!
「めんどくさいからもうぶっちゃけるぞ!俺は魔法が使えるの!魔法!知ってるか?魔力を使って便利な技つかうやつ!いいかみてろ!」
くそでかいリブッカにスマホをかざし収納してみせる。
「?????」
「リブッカが消えたぞ……」
「消えたんじゃないよ、しまったんだよ。ほら」
今度は取り出してみせる。
「な、なな……なにをやったんだ?」
「だから魔法だよ!俺は魔力を使ってこういう特殊能力を使えるの!」
「魔力……?そういえば昔魔石が無くても明かりを灯せる人が居たって聞いたことがあるな……。じゃ、じゃあ練習すれば俺たちにも……?」
「お前らは狩人だからきっと無理だ。魔法使いには生まれ持った適正が必要だからな」
めんどくさいからそう言うとしょんぼりしていたが仕方ない。
女神の加護を受けたスマホなんてそこらにあってたまるか。
『あんた魔法使いって言ったけど、二十七歳でしょ?あと三歳早いわよ。ま、適正はありそうだけどね。ふふん』
「あ?あああん??? ど、どどどど童貞ちゃうわ!」
くっそ、思わず返信してしまった。
「そうか……ユウはやっぱすげえな!」
「すげえや!ユウさんはんぱねえ!」
「魔法?でパンチの威力をあげられるなんて……どんな鍛え方してるんだ……」
ますます狩人達に懐かれてしまった。
嫌われるよりはいいけどさー 格闘家かなんかみたいになってるじゃないか。
「ところで……ユウ……お前その腕、平気なのか?」
「うん?」
右手を見るとヤバい色に腫れていた。
あ……折れてるやつだこれ……
気がつくと痛みが襲ってくるやつあるよね、うん、めっちゃいてえ…
『私の加護があるのはスマホだけだし当たり前よね』
くそが!
クマとかイノシシとかの時は平気だったのに……
きっと素手でガッシリ握りしめて殴りつけたのがだめだったんだろうな。スマホだけが当たってれば反射の効果で俺の手は助かったんだろうけど、そこからはみ出しリブッカにあたった手には加護がかかってねーからってことか。
「く、くすりぬっておけばなおりゅよ……」
痛くて呂律がまわらねえ
「ほんとか……?かなり辛そうだが、折れてるんじゃないか?」
「おれてないでしゅよ?へーきへーき!」
「平気そうには見えないが……まあ、そういうなら……」
震える手でポーションを錬成……もとい、製造する。泉の水とフォルンの角やラウベーラの肝等を使うようだ。
まあ、痛み止めくらいにはなってくれるだろ……と、腕にふりかける。
腕が鈍く輝くとすっかり腫れが引いていた
「うん、痛くない!痛くなあああい!」
ポーションってもっとしょぼいのを、栄養ドリンク程度の効果を想像していたけど結構やるじゃん!
マーサがあっさり回復してたのもこれなら頷けるな。
すっかり腫れが引いた俺の腕に気づいた若いやつが変な顔をしていたが、まあ気にすんな!
ファンタジー世界なんだ!そういうこともあるさ!な!
「よし!帰ろうぜ!たくさん肉も取れたし、肉を食いながら反省会しよう!」
「うおおおおおおおお!!!!」
肉に沸き、盛り上がる狩人たちと共に集落に戻った。