第二百三話 ユウ、ダンジョンの改革を考える
命名の一件が濃すぎて危なく満足して帰りかけちゃいましたが、きちんとやることはやりますよ。
そういう男なのです、俺は。
「で、今日来たのはこの里のことなんだが……」
と、ウーサーにざっくり説明していきます。とはいえ、定期的に里の者を拐かし、各村の発展のためだと良いように扱っていたため話はすんなりと伝わります。
「いずれそういう日が来るだろうと思っていましたよ」
嬉しそうに語るウーサーが眩しくて見えない。
一応、はじまりの村は他の村のモデルになるよう、運営に関する最先端の事をやらせているつもりだったが、この里は即それに追従し、既に税金もきちんと徴収しているようだ。
いつものパターンだと、集落の問題を解決し、合わせて住人に知識を与えて最低限村人として暮らしていけるようにして開村!って感じなんだけど、既に立派な自治体が出来上がっているから今更俺がやることは一つもない……。
「でさ、一応確認するけど雪山の研究所とも交流があるんだよね?」
「ええ、あの階層にも研究所を中心とした集落がありますので、住民同士の交流も商売としての交流もありますよ」
あの『ラボ』は雪ウサ族が中心となって運営していたが、生意気なことに地下に結構な広さの居住スペースを設けていた。元々ウサギというやつは穴を掘って巣を作る生き物なので、ある意味正しいとも言えるわけだが、地下街とかホント生意気すぎる。
地味にそこそこの規模の集落を作り出しているので、彼処も村化しなきゃないのだが、正直面倒だ。
加護の力で寒さをレジストしてもあの視界の悪さはあんまり近寄りたくないというのもある。
なので俺は丸投げすることにしました。
「俺とお前達は種族を超えた仲間だと思っているが、やっぱ魔族の事は魔族のが考えを伝えあいやすいと思うんだよな」
「ははは、ご謙遜を。しっかり我らの要望に答えてくださってるではないですか」
ええ……俺とくに何かやった覚えはないんだけどな……まあいい、流されるな、ノセられるな!ここが勝負の分かれ道だぞ!ユウ!
「それでもだ。なので、今後ダンジョン内における開村の権限はお前に委譲しようとおもう。無論、なにか大きな事……例えば新たに村を作る等の時には俺に相談してもらうことにするが、住人の教育や設備の配置等はお前が権限を持って指導することになる」
「私に……出来ますでしょうか……」
「ああ、出来る。お前ほど賢いウサ族はあんましいないとおもう」
正直ウサ族の平均的な知識レベルを知らないので適当に言った。反省しない。
そして開村の権利を委譲する理由をうまく誤魔化して伝えた。
「実はルーちゃんがな、更に強まって階層を増やしたり広くしたりが可能になったんだ」
「ああ、それでですか。この階層が以前より広々としたのは。元々結構な広さでしたが、これでは移動に魔導車が必要になるなと思っていたところですよ」
魔導車……ね。以前作った耕運機もどきとはまた違うんだろうなあ……なんだよこいつら。
「そうなってくるとさ、ここの里以外にも魔族の集落が出来る可能性があるじゃん。そういったところをウーサーにまとめてもらいたいんだよー」
「なるほど。このダンジョンに来てから文化的な生活を望む魔族が増えましたからなー。そういうことであれば、任せていただきます」
で、肝心の村の名前ですが、そのまんま「ウサ族の里」にしました。「ウサ族の里村」じゃなくて「ウサ族の里」です。なんつうの?県庁所在地みたいなもんだからプレミアム感っていうの?
まあ、ただ単に面倒だっただけなんだけど。
だって、「ウサ族の里」から名前を変えちゃうとさ、里内に入ったときに流れるルーちゃんアナウンスを録り直す必要があるんだよ?成長がやたら早いルーちゃんだよ?今よりほんのり舌っ足らずだった頃のルーちゃんの生音声だよ?残したいだろバカ!
まあそんな理由もあって「里」は里のまま残すことにしました。
そして夕食の際にパンやルーちゃんに相談というか提案をする。
「ダンジョンさ、ちょっとだけ仕様変えない?というのも、里の代表と話して思うところがあってさ……」
と、ダンジョン内で文化的な魔族が増えている、今後ダンジョン内の各地に他の集落が出来る可能性が高い、とりあえずそれらのまとめ役はウーサーに丸投げしてきた、そんな具合にざっくりとした前提の話をした。
「でさ、ウーサーが言うわけよ。『村間の移動に魔導車が要りますね』って。車はともかく、村間の移動ってのもまたあるわけじゃん?ていうか今でも里に向かう魔族って居るわけじゃん。里に行きたいだけなのに冒険者に襲われるの可愛そうじゃん」
「あんた人間のくせに魔族みたいなこと言うわね」
「里の住人は魔族で!村の住人は人間だ!そこになんの違いもありゃしねぇだろうが!」
「違うの……って言わないわよ。てか、あんたそれ言いたいだけでしょ」
「バレたか。でもまあ、俺からしたら別に違いを感じないっていうか、そもそもお前のせいで違いがフワフワしてんだよ」
「はあ?なに私のせいにしてんのよ!証拠があるなら見せてみなさいよ!」
「赤鬼ちゃんが人で青鬼さんが魔族なのはなんでなんですかねぇ……」
「で、なんの話だっけ?」
「誤魔化すの下手くそか」
面倒になったし、ルーちゃんがつかれた顔をしていたのでちゃっちゃと本題に入ることにした。
「まあほら、ダンジョンにおける冒険者と魔物の関係ってさ、ネトゲにおけるクラン同士の試合みたいなもんじゃん?人間さんチームと魔物さんチームの戦いってな感じで、外や里なんかの非戦闘地域じゃ仲良くしてるじゃん」
「そうねえ。里の酒場でタルットと語り合う冒険者をよく見るわ……」
「うわー見たくねえ……っていうか酒場に通ってんのかよお前は……」
「うぐ」
「だったらさ、非戦闘地域を拡張すればいんじゃね?って思ったわけよ」
「拡張?」
「ああ、魔物の村エリア内は勿論原則として戦闘禁止だ。それに加えて今後整備する街道内も非戦闘エリアにする」
「なるほど、村と村や入り口から村につながる道は戦闘が発生しないようにするというわけか」
「そういうこと。ウサ族の里に行きたいだけの人もそうすりゃ安全でしょ」
ただ、適当にやっちゃうと肝心の攻略が楽になっちゃうので、村を建てる場所にはある程度制限をかける。ヒカリが居る深淵の森出口周辺には安地は絶対に作らんし、そこに繋がる道も非戦闘エリアにはしない。
問題として、いくら非戦闘エリアだと言っても知能が低い魔獣は遠慮なく牙を剥いてくる事がある。それらは魔族だろうが関係なく襲ってくるので、例外リストに入れて駆除対象とすることに決めた。
その駆除対象以外の魔族や人間に非戦闘エリアで攻撃するとちょっと悲しい目に遭う仕組みも作る。
ついでに「商業ギルドカード」というのも新造し、里に行きたいだけの人間はダンジョン入り口でそれを見せて2階層直通の転送門をくぐってもらう。
無論、冒険者同様ダンジョンの仕組みが適用されるため死ぬことはないが、死ぬ目に遭わぬよう護衛を雇えるようにもする。
で、懸念されるのがそのカードを使ったズルだ。1階層をスキップすることが出来るため、フロアボスを倒す技量がないものでも誤魔化せば2階層から潜れてしまうわけだが、それは特に対策をしない。
ご自由にどうぞーってなもんだ。
だって考えても見給えよ。2階層は1階層を突破したものでも最初は苦戦するバランスになっているのだよ?
あのクソ強いモル丸に勝てて漸く対処できるレベルの強敵ぞろいなのだ。
ズルをしてやってきても歯が立つ訳がないし、代わりに戦う強い冒険者を雇ってズルをするような権力者も居ない。
ああ、なんてガバガバ設定に優しい世界なんだろう。




