第二十話 肉への第一歩
俺が知っている狩りの方法は銃と罠だ。
簡単な罠なら狩人達でも直ぐ出来そうなので追々教えようと思う。無論ネット頼みだが。
キンタの家に弓があったから、多分それを使って狩りをしているんだろうな。どうにも狩りの腕が総じて良くは無いらしいが、その原因も様々ある。明日はその腕前を見せて貰って、場合に寄っちゃアレを普及させようと思う。
幸い鍛冶屋が居るし、手先が器用そうなヤツもいる。サンプルを渡せば再現してくれると思いたい。
◇
「おはようございます!」
「「「おはようございます!」」」
相変わらずノリがいいなこの人達……。
というわけで、今日は朝から近所の森に来ていまーす。綺麗な泉がある森でその美しさと清浄さから『女神の森』と呼ばれてるそうなんですねー。あらあら?女神様、まんざらでも無い顔をしてますねー?嬉しいですかー?
『な、な、そ、そんなことないわよ!』
はーい、こっちから見えるわけ無いですねー。慌ててるあたりニヤニヤしてたんでしょうねー間抜けですねー。
『ぐ、ぐ、ぐ……』
ぐうの音も出ないか。
彼らに話を聞くと、普段はこの森の浅いところで弓を使って小動物を狩ってるとの事だったので、早速腕前を見せて貰うことにした。
この森はうちの近所の森『魔獣の森』と比べると狭いようだがそれでも結構広い。浅いところだけといってもかなりの範囲があるため、今までたいした欲を出さず奥には滅多に行かなかったそうだ。
で、さっきから狩りの様子を見てるんだけど……。
「くそ!惜しい!」
「よし!次は俺だな!」
「ああ!それた!」
2時間ほど経ってウサギ1匹しか狩れていない。
それがさ、獲物があまり居ないならまあ分からんでも無いんだよな。
魔獣騒動でしばらく放置してたのもあってさ、めっちゃ居るんだよウサギや鶏が!!!
調子が良い方だよな、とか言ってるけどダメだこれ!
「あのさ、ちょっと使ってる弓矢を見せてくれるかな」
弓は…… 見た目は和弓によく似ている。軽く引いてみたが思ったよりは悪くなかった。
所謂ロングボウと言われるヤツなのだろう。結構長くてかさばるのが難点か。
次に矢を見てみるとこれがいけない。矢羽根が2枚しかついていない。
矢の命中率を上げるには矢羽根をつけ、回転を加える必要がある。
そしてそれは2枚より3枚の方が命中率は上がるのだ(ネットに感謝!)
クロベエに頼みクッカを一羽狩ってきて貰った。
「……肉……」
「すげえもうとってきた!」
などと聞こえるが、取りあえず無視だ。この肉はやらんからな!
物陰に行ってアプリで解体し、羽根を調達し、それを素材にしてシンプルな矢を10本くらい作った。
「キンタ、ちょっとこれを使ってみてくれないか?」
「ふむ?おお!随分と綺麗な矢だな!」
「これは羽根が3本ついているんだ」
「ほほう……どれどれ……」
丁度良いところにロップが現れた。
キンタが射った矢は気持ちよい軌道で飛びロップの頭を貫いた
ええ……すげえなおい!当てれんじゃん!
「え?ええ!?」
キンタもびっくり
「うおお?おおおお?」
周りもびっくり
「ユウ!これはどういうことだ!?」
「矢羽根、っていうんだけど羽根を3枚にするとさ、まっすぐ飛びやすくなるんだよ」
「へえ!羽根ってそう言う意味があったのか? 昔から矢には羽根を付けるもんだとは知っていたけどよ、飾りかと思って適当につけてたんだよな……」
なんだか気になる話しをしているが、そこは掘り下げないぞ! どうせ女神が半端な知識で狩りをもたらしたのが原因とかそう言う奴だろうからな。
『ち、違うし!』
何か着信音が鳴ったが、聞かなかったことにしてキンタに残りの矢を渡す。
「もうちょっと矢を作っておくから向こうで練習がてら狩りをしててくれ」
1本ずつ3枚羽根の矢をわけて貰った狩人達は嬉しそうに走って行った。そんなにはしゃいだら獲物が逃げるっちゅーねん。
取りあえず、サンプルとして一人5本ずつ渡せば良いだろう。今後の分はあげたのを真似て自作して貰いたい。
クロベエに追加のクッカを狩ってきて貰い多めに60本くらいの矢を作った。
矢羽根用に狩ってきたクッカは全部で5羽。おかげで鶏肉と魔石も手に入った。
充電用にいくつか魔石を用意していたが少し不安になってきてた所だったし嬉しいな。
やることも無くなったので、小一時間ほど昼寝をしていると賑やかな声で起こされた。
キンタ達が戻ってきたようだ。
「ユウさん!すげえよ!最高記録だよ!」
嬉しそうなキンタの声にどれどれと見てみれば、一人あたり3羽はとってるじゃないか!
「おお!やるじゃん!」
「最初は微妙に外したりしてたんですが、何度か試すうちに結構当たるようになったんですよ!」
興奮気味に若い狩人が獲物を見せつけてくる。
「でも……何本か矢が行方不明になっちまって……」
がっかりする狩人。
「説明したとおり,これは普通の矢と殆どかわらないんだよ。ただ単に羽根が1枚多い3枚羽根ってだけさ。それに言っただろ?もう少し作っておくって。ほら、追加の分だ受け取ってくれ」
狩人達に5本ずつ配るとわあっと嬉しそうな顔をした。
「あまり多くは無いけどさ、後はこれを参考にして作ってくれな。クッカの羽根を使えばいいんだから、肉の残りで量産できるでしょ」
「なあ……、これだけやれるようになったんだ……今なら森の西に居るあいつらも……」
「おお!そうだな!ユウさんが狩った肉程じゃ無いがあれもデカい!」
何やら盛り上がりだしたので聞いてみた。
「詳しく聞かせてくれないか」
「俺たちが森の奥に行かないという話はしたよな」
そう言えばそんなことを言ってたな。
「それはこの辺りに居るクッカやロップでも十分、というか……いや嘘は良くないな。
少し奥に行くと居る大型の魔獣には手も足もでなかったからなんだよ……」
ラウベーラから逃げる連中だもん。そんなこったろうと思ったよ。
「昔から言われてたんだ。森の奥には大型の魔獣が居る。何度か狩ろうとしたが殆ど当たらず、当たってもそのまま逃げられるか返り討ちに遭うってね」
「森の奥?俺は森の真ん中を通ってここまで来たけど穏やかなもんだったぞ?」
「ああ、それは多分加護のおかげだ。」
「加護?」
「泉は昔から周辺の集落で利用しててな、水を汲んで帰る途中多少はこぼれるだろ?それが長い年月積もり積もって魔獣を寄せ付けなくする加護になったらしいんだ」
「まじなの?」と、メールで送る。
『え?いや私しらないんですけど……ちょっと待ってね…』
加護じゃ無いようだぞ……
『あー、なるほどね。泉の水に含まれる成分に魔獣が嫌がる成分が入ってるみたい。それでその香りがほんのり残る中央部、人々が歩いていた部分にはいつしか寄らなくなったみたいね』
クロベエのヤツは美味そうに飲んでいたけど、元々雑食の猫だしな。薬を混ぜた水や餌ですら気にせず食ってたから魔獣化しても気にならないんだろう。
「……というわけで、いつしか森は中央から東の森、西の森と区別されるようになり、それぞれ大型の魔獣が生息する場所としておそれられていてな、狩りはもっぱら小型の魔獣が居る手前の……って聞いてるか?」
「あ!ああ!きいてるよ!」
メールに夢中になりかけた。ごめんよ
「まあ、そんでもこの森にはラウベーラみたいなヤバ過ぎるヤツは居ないから今の俺たちなら……」
めっちゃやる気が出てるな。『ちゃんと狩れた』という事実が自信に繋がったか。
「なるほどな、それで西の森か。よしまだ時間あるし、今から案内して貰ってかまわないかな?」
「勿論だ!今日こそリブッカを狩ってみせるぞ!」
「「「おーー!」」」
やる気が出るのは良いことだ。丁度昼だ、飯を食ったら向かうことにしよう。