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第百九十七話 ウサギンバレー

 目覚めた俺の前に居たのは白くてモフモフとしたウサ族のお姉ちゃんだった。


 なんとか記憶を繋ぎ合わせ、スノウロップなる亜種達が女神にイタズラされて進化を果たし、この階層【凍獄の雪原】で印刷を開発したと聞いてやってきたことを思い出す。


 そこで行き倒れ、このお姉ちゃん達に助けて貰った感じか……。そういや倒れる直前にモフいのと話したような話さなかったような気がするな。


 あ、ちなみに【凍獄の雪原】という名前は今キメました。別の名前を付けていたような気もしますが俺があれだけ酷い目にあった場所なのでこの名前がきっと相応しいはずです。


 

 白ウサが言うとおり、俺の体は頑丈なようで気を失った以外は特になんともなかったようです。

 

 妙に良い匂いがする白ウサのお姉ちゃんから「もう動いて良し」と判断されたので、ラボを案内して貰うことになりました。


 ……ナチュラルに従ってたけど、倒れた俺を『診断』して『介抱』するとか、多分村の連中にはできねえぞ。良いとこノリで薬草食わせるか、雰囲気で調合した薬を飲ませる程度だろ……。


 『ラボ』と呼ばれているこの建物は雪原に相応しく白作りの内装で、無駄に清潔感があります。また、各部屋もガラスで中が見えるようになっていまして、なんつうか世界観にそぐわないというか、地球じゃね?って感じ。


「なあ、森の連中からここで印刷機を開発したと聞いたんだが、見せて貰って良いか?」


「ああ、はいはい!それもこれも主の主のお陰!見ましたよあの教科書!すごいっすねあれ。やたら綺麗な字だなって思ったら、印刷というものだと言うじゃないですか。精巧な絵にも驚きましたが、写真とか言うものだとか……」


 なるほど、発端はプリンタ出力したアレかあ。確かに知の渇望者であるウサ族であればアレを見れば虜になり、生命活動の維持を忘れるレベルで研究に没頭するかもしれんな。


 にしても完成させているとは恐れ入る。一体どんな物をこしらえたのやら。


「あ、ほらここっすよ。印刷所っす」


 そう言われて案内されたところは……


「何これ印刷屋さんじゃん」


 でっかいロール紙がセットされた大きな印刷機がいくつか並んでいて、それらは何かの魔導具に接続されている。


「ええとお……、良かったらあ……、説明してほしい?みたいなあ……」


 可愛らしく言うと、待ってましたとばかりに白ウサが説明を始めます。


「まずこのでっかいの!これが我がラボが誇る印刷機でありまして!接続されている端末、『テキスター』で作られた情報が転送されるようになってます。転送された情報は印刷機から出力され、次の端末『製本機』で綺麗に本になって完成です!」


 気楽に言ってくれるなあ……。おいおい、ちょっとまってよ……何この知識チート。


「えっと……一応そっちのテキスター?も見せてくれる?」


「あ、はい。これを作るのには女神様の協力も得てまして、試作機を見せたら『もっと楽な仕組みにしたら?例えばさ……』と、私物を見せてくださりまして……。流石に分解の許可は得られませんでしたが、じっくりと使っているところを見せてもらいまして、自分たちなりに模倣できたかなと思います」


 ああ、やっぱり……。やっぱりそうだよなあ。俺以外に異世界知識チートを使う存在といえばあいつだよなあ……。ていうか女神が直に異世界知識を与えていいんですかねえ……。


 だって、ウサ族が言う端末はどう見てもモニタとキーボードなんだもん……。


「あ、それでそこにあるのは入力用に文字や挿絵を表示したり配置するのに使う端末と操作に使う端末で、本体は別室にあるんですよ」


 そう言って案内された別室は暖房が入っていないクッソ寒い部屋だということで部屋の外からガラス越しに見せてもらいましたが、うん、あれはスパコンだ……。


 冷蔵庫みたいなものからケーブルが伸びまくってまして、そのうちいくつかが印刷室に繋がっています。


 なんでも女神の私物(某社廃エンドゲーミングノート)を再現しようと頑張ったらしいのだけど、あれだけの機能を実現する魔道具を作るにはどうしても大きな術式を刻む必要があり、またその制御にも大きな魔石をいくつか使用する必要があって叶わなかったとのことだ。


 また、演算処理を担う魔石が異常に発熱するため、綿密な計算と設計により適切な魔石数を定めた上でこの寒冷な地に配置しなければならないという、まだまだ発展途上の魔道具であると申していました。


 あー……、普通にパソコンじゃねえか!


 ウサテル l7 魔石(エルセブン コア)CPUみたいなのを搭載したマシンを糞低温下でOCして使ってるような感じじゃねえかよ!


 ある意味土地に合わせた進化というか発展を遂げていると言えなくもないが、なんだよここはシリコンバレーにでもなるつもりなのか?


 ……まあ、それはそれで面白いかもしれんが。


 OSやアプリの概念を知らんくせに、入力用の端末は直感的に操作が可能な優秀なUIを持っていたし、あれなら俺が1冊作って渡せば簡単に量産してくれそうな気がするな。


 女神からもらったプリンタは楽でいいけど、流石に量産となれば時間が掛かるし製本は地獄だからな。

 このラボはこれからも利用させてもらうことにしよう。


 ちなみにこのウサギPCはラボ内での研究にも使われているそうで、現在他部署で遠隔地と音声通話をする魔道具を開発中ということでした。


 ちらりと視察しようと顔を覗かせると研究ウサが飛んできまして、現状を伝え解決策はないかとウキウキ顔で言いやがります。


「これは声を魔力に変換して指定した端末まで飛ばす魔道具なのですが、遠距離となると途中で魔力が減衰して届かないのですよ」


 渡された端末を使って試してみましたが、なるほどこれはトランシーバーか。気軽に使えて便利な半面、めんどくせーんだよなあ。どれくらい使えるのか聞いたら一月は余裕で持つとのことだった。場合によっちゃそこまでバッテリー持たなくてもいいんじゃねえかな……。


 なので色々思うところをまとめて簡単にアドバイスをしてやる。


「まずこれは2種の魔道具に分けて製造すればいい。一つは冒険者向けに現行のまま作れ。近距離とはいえ、500m四方に魔力が届くようだから、冒険中に仲間と使う魔道具としては便利に使えるはずだ」


 そのまんまトランシーバーとして使わせてしまえというわけだな。見通しが悪い森などで先行して偵察をする際、大いに役に立つと思う。冒険者の中には1~2週間泊まり込みで頑張る奴らもいるみたいだし、バッテリーの持ちは大いに助かるはずだ。


「そして、もう一つはダンジョン外向けの通話魔道具だ。まずボタンを押している間だけ声を飛ばす仕様は辞めよう。ダンジョン内での『連絡』的な用途とは違い、外では雑談や打ち合わせ等『会話』的な使い方をすると思うんだ。魔力消費は多くなるが、『終話ボタン』を押すまでは相互の声が飛び続けるようにしたほうが意思の疎通が図りやすい」


「なるほど……。確かに『20m先にタルット2匹』『了解、そのまま待機せよ』といった会話なら現行のままでも構いませんが、こうやって仕事の話などをするのに使おうと思えばやりにくいっすもんねえ」


「うむ。それで魔力の減衰についてだが、あちこちに『中継機』を作ったらどうだろうか。魔力を増幅する仕組みがあるだろ?途中途中で増幅しながら飛ばしていけば距離を伸ばせるんじゃないか?」


「それはいいですね!増幅すればそのまま使えるというわけじゃあないっすけど、その方向で良さそうです!」


 その後いくつか意見をやりとりし、トランシーバーとケータイ(キッズケータイみたいな簡易な仕組みだが)の構想を煮詰めてラボを後にした。


 はあ、しかしやべえな魔族。女神の入れ知恵があったとはいえ、それを実現させる知能はやばいぞ。女神に似たのか、のほほんとした性格な上、実質ルーちゃんや俺の支配下にあるからいいようなもので、なにかの拍子にドス黒い思想を持った奴が発生して支配権を持って『魔王軍』なんてもん作ったら人間族はぜってー勝てねえわ。


 末永く仲良くしていけるよう、うまいことやっておく必要があるだろうな。


 ……って、あぶねえ!本来の目的を忘れるところだった!


 慌ててラボに戻りまして、教科書量産を依頼しておうちにかえりました。

 

 全く衝撃的すぎて疲れたわ……。

 

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