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第百九十四話 みるくふぇす

 なんやかんや早いもので2週間が経ちました。


 結局俺も何度か教壇に立たされることとなりましたが、チーズの旨さとバターの業の深さ、ヨーグルトの優しさにミルクの可能性について等を適当に熱く語ったくらいで、実際あまり苦ではありませんでした。


 そんないい加減な講義でも生徒達のハートにがっつり火を付けられたようで、俺の講義を受けた者達のやる気が恐ろしく高まっているとシゲミチくんから褒めて貰いましたよ。


「お前らが知らない食い物に『チーズ』ってのがあるんだが、それがまた色んな種類があってさ、軽く塩気と酸味が感じられるミルクの加工品なんだが、硬いのをそのままパクリと食べるものや、暖めてトロットロになったものをパンに乗せて『アッチアチアチ』とつるりと食べるもの、プニップニの柔らかい奴をお前らの中にもファンが多い『塩サクサク』に乗せてサクットロッムハッ!と食べたり……罪な食い物だよ」


 なんてことを日々ジェスチャーつきで語りまくっただけなんだけど、終わる頃にはみんな涎を垂らしてまだ見ぬ夢の乳製品に思いを馳せているようでした。


 実際チーズはくっそ旨いからなあ。正直乳製品が無いがためにピザを焼けないわけで。バターが無いがためにちょっと味気ない「近いけどちょっと違う」料理を作る羽目になっているわけで!


 暫くまともに食えていない(たまに女神が買ってくるので)せいで俺の講義にも熱が入るってもんよ。


 そんな具合に俺が盛り上げ、シゲミチくんやウサ族がガッツリ教え、青鬼さんが実技を叩き込むとやったおかげで2週間でかなりの物になりました。


 無論、その影には俺という影がありまして、日々えっちらおっちらと工場作りに励みましたよ。

 あたりまえだけど普通のおじさんである俺にはそう言った知識が無いわけで。


 スマホで調べながらえっちらおっちらと作って、マニュアルをウサ族に文字通り投げつけて丸投げしましたわ。


 その課程でとうとう我慢が出来なくなった俺は女神にお願いしてプリンタを出して貰いまして、今後はクソみたいに分厚いマニュアルでもどんどん出してどんどん丸投げをすることが出来ますね。


 そのプリンタ様のおかげで教科書もかなり立派な物に進化して学習効率もアップしたのは言うまでもありません。


 ちなみに紙とインクは無限に生成されるそうで、任期が終わって地球に帰る時にこっそり貰っていこうと企んでいます。プリンタのランニングコストって馬鹿にならないからな……。


 さて、そんな本日はおめでたい日です。


 とうとうミルク加工が実を結びまして、チーズやバター、ヨーグルト等の量産体制が可能となったのです。


 俺の講義もさることながら、元々ここの連中はミルク依存度が引くほど高かったため、乳製品に対する情熱が半端なく、他の授業を受けている者より圧倒的速度で身についていたというのが大きいですね。


 そんなおめでたい日なので、今日は俺の指導の下ウサ族達が腕を振るいまして、これよりミルクフェスティバルが開催されようとしているのです。


 既に会場にはかなり良い香りが漂い、早く始めろと暴動寸前にまでなっています。あのメリルに依存しきって穏やかにだらだらとしていた赤鬼ちゃんや犬っころは何処に行ってしまったのでしょう……。


 そんなわけで、噛まれないうちに適当に挨拶をして初めてやることにします。


「おら!静まれ!静かになるまで始まらないぞ……ん……はい、静かになるまで0.5秒でした。はええなおい」


「もうくっていいか?」


「まだ!まーだ!待て!ハウス!はい、というわけでして、みんなが学校で頑張った成果が早速見えてきましたね。今日はその第一歩である乳製品の試食会をしたいと思います」


「くって!いい!よな!」

「もう我慢できねえよ……」


「あとちょっとだから!尻尾振るな!モフるぞ!鬼っ子もくねくねすんな!可愛いなおい!はい!というわけで、コップを持って!あーまてまて、飲むな飲むな!俺がカンパーイって言うので、お前らもそれに続いてカンパーイと言いながら周りの人とコップを当てあって下さい。そしたら自由にしていいから……」


「なるほど、早く言え」

「こっぷで殴り合えば良いのかな?」


「こらこら、鬼っ子!だーめ!だめだぞ?優しくコツンと当てるんだ。乾杯でコップ割った人は家に帰って貰うからな!じゃ、カンパーイ!」


「「「「カンパイ!!!」」」」


 アチコチでカチンコチンガキンバキンと音がしているが、なんとかコップは割れずに済んだようだ。


 正直こいつらが我慢できるとは思っていなかったので、カンパイまで料理は出さないでいて、カンパイの声を聞いたウサ族達がどんどん料理を運んできている……が、一部ウサ族を襲って料理を強奪してる連中が居るな。


「おい、アオ軍団……やれ……」

「ヘイ、兄貴」


 青鬼さん達が暴徒達の元へ駆けつけ、手早く回収して席に納めていきます。犬っころはポイポイ攫われているが、赤いのは流石に厳しそうだな……む……あの赤いのと青いの……なんだか良い雰囲気だぞ……。


 犬っころとねんごろになるより何だか凄くしっくりくるんだが、人間族の赤鬼姉ちゃんと魔族の青鬼兄ちゃんのカップルってアリなんだろうか……。後でパンに聞いてみよっ


 あちらこちらからチーズの魔力にやられた者の堕落仕切った声が聞こえてくる……。

 中でもあちらから聞こえてくる女性の声、ありゃ完璧にやられてますわ。


「ああ……やっぱチーズだわ……伸びるチーズ良いわ……。チーズが無いともう死んじゃうもの。ああ……いいよチーズ……。チーズいいよね……いい……。チーズが旨いとこのやっすいやっすいチリワインもめっちゃ旨いわねー!コスパ良いわこのパカパカワイン!」


 うちの女神だった。


 くっそ、アイツめいつの間に地球のワインを!俺もパカパカワイン好きなんだよ。ワンコインで買える割りにはそれなりに飲める味でさ、キリっと冷やした白とチーズをやるのが好きなんだよ!


「おいこら!俺にも寄こせ下さい!」


「おー!おー!飲め飲め!ユウ、今回あんたは頑張った!ワインを飲む権利をやろう!」

「わーい女神が尊大-!」


 なんてやってると子供達がパタパタとやってきました。


「ユウー!このヨーグルトっていうのおいしーね!」

「父上!私はホイップが乗ったパンケーキがお気に入りです」

「おー、私もそれがスキー。アイス乗った奴なんて最高」

「父さん、これ食べ見て美味しいよ!カプレーゼ?っていうんだって!」

「お酒にはこのレーズンバターが良いとききましたよお父さん」

「ずるいぞ!こっちにもその酒を寄こすのじゃ!!!」


 マルリさんはマルリさんだけど、みんなそれぞれお気に入りを見つけたようで嬉しいし、上の子達の優しさと言ったら……!


「もー!お父さんは皆のことが好きっ!チーズも好き!バターも好き!乳製品最高!」


 感極まって変なことを叫んでしまいまして、以後の記憶がぷっつりと途絶えております。

 ええ、ええ。気づいたら朝になっていまして、半裸でメリルに埋もれてましたわ……。

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