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第百九十三話 風の谷のなんすか

ウサ族の村で一泊し、ウサいのや青いのを連れて風の集落に戻ると、転送門ゲートの前でシゲミチが仁王立ちをして出迎えてくれた。


「……なんすか彼らは……ユウさんあんた何処いってたんすか……」


 おおう、キンタは何時もこうやって躾けられてきたというわけか……。

 全身から怒気を噴き出させるシゲミチくんは、華奢な身体の何処からそれを出して居るのだろうと思うレベルの強者オーラを纏っている。


 しかし俺はどっかの誰かのように純粋に逃げていたわけでは無いので、こんな怒気怒気オーラなんて屁でも無いわけで。


「何処ってお前、講師を呼びに言ってたにきまっとろーが。まさか俺やお前だけでメリル飼育の授業が出来ると思ってたのか?これからやるのはただの授業じゃなくて、事業に繋がる授業だぞ。ただ知識をつけておしまいというわけにはいかないんだ。事業をするために授業をしてそれを事業に繋げていく授業をしようと思えば事業に詳しい経験者を連れてきてじゅぎっ……授業をする必要があるだろ」


 くっそ、似たような単語が交互に続いてとうとう噛んでしまった。


 授業事業授業事業と一気に言ってやったせいかシゲミチくんも良く分からなくなっている。まあ、俺もよくわからんし、今後も良くわからんだろうから丸投げして逃げる予定なんだけどさ。


 さしあたって必要なのは厩舎なんだが、メリルの生態がまず良く分からんわけで。厩舎を作っても落ち着いてくれないという恐れもあるし、肝心のミルクを気楽に絞らせてくれるのかという心配も今更ながらある。


 というわけで、魔獣との『自動翻訳』スキルを持ったソフィアを連れてメリルの元にやって参りました。わかんねえながら聞いてしまえと言うわけですね。子供達は皆スキルを持っているので誰でも良かったんだけど、ソフィアのシマだからソフィアを使うのがスジだろうと思いまして連れてきた次第です。


 とは言え、いくらスキルを使ったところでお話しが出来ない知能が低い魔獣も居る訳なので、メリルがそうだったら困ると思ったんだけど、幸いな事に意思の疎通が可能でした。


「毎度どーも、ユウです」

『お、最近変なことしてる奴らだね』

「いやー、同族が貴方方に依存しきってるのが気になりまして、ちょこっとお手伝いを」

『ふうん、通りで最近動きやすいわけだ。でもさあ、たまにはこっちにも戻しておくれよ。お乳がはってつらいんだよ』


 ほほう、それは良いことを聞いた。


「実はその事についてお話しに来たんですよ-」

『へえ、まあうちらと話せるって時点でただ者じゃ無いとは思ったけど、話にねえ』


 モフモフはそう言うと、よっこらしょっと草むらに腰を落ち着け話を聞く体勢を取ってくれた。

 もう大分慣れたけど面白いよな。必ずしも人型の方が賢いというわけでは無く、明らかに何も考えてそうが無いこう言う魔獣が案外賢かったりするんだ。


 今回がまさにそうなんだけど、おかげで「ビジネス」の話が円滑に進められそうだよ。


「我々はあなた達のミルクが欲しいんですよ。代わりに美味しいご飯と雨風を凌げる場所を提供しようと思ってるんですがどうでしょうか?」


『ふうん、ミルクねー。子供が居る居ない関係なく出るからさー、正直余って困ることの方が多いんだわ。好き好んで雨風に身を晒してたわけでもないし、草を探してウロチョロしなくて良くなるのであれば願ったり叶ったりだわ』


「勿論、昼間は自由に草原をうろついて貰って構いませんし、肉食の魔獣からなるべく守るようにしますよ。その代わり夕方には帰ってきて貰って、朝にミルクを絞らせて貰えばいいのです」


『いいじゃないか。みんなに伝えておくから早めに用意しておくれよ』


「仰せのままに、マダム。あ、あとその重そうにしてるお召し物なんですが、定期的に短くカットしても構いませんか?」


『なんだい、身軽にしてくれるっていうのかい?断るわけが無いよ!なんだいなんだい、美味い話ばかりで怖くなってきたよ。あっはっは』


「ミルクも毛も人には無いものですからねえ。役立たせて貰いますよ」


 メリルのマダムと握手を交わし、契約が成立した。やべー、なんだこのイージーな酪農。やることと言えば餌や水の用意と乳搾り、毛のカットに護衛くらいじゃないか。


 何匹か進化させて話せるようにすれば調子が悪い個体の報告なんかもして貰えそうだし、すげー楽だな……。


 となれば、さっさと開放されるようちゃっちゃか動こう。


 早速厩舎と倉庫をちゃっちゃと建てまして、受け入れ体勢の用意をする。問題は餌なんだが、まずティーラちゃんにお願いして柵の内側だけに加護をかけて貰った。こうしておけば多少食い荒らしたとしても草が尽きることは無いだろう。

 ダンジョン外で使用した加護(スキル)の効果は1年間とのことだが、家族旅行がてら年1で加護をかけに来るのも悪くは無かろう。


 流石に草だけでは栄養が偏るので、何か無いかと考えたら大叔父が飼料用のデントコーンなる物を育てていたのを思い出した。ちょっと調べてみたらサイロで発酵させたりなんだりするようなんだけど、魔獣だしそのまま食わせてもいいんじゃないかな……。


 しかし、肝心のそれをこの世界ではまだ見たことが無かったため、女神の買い置きである火で炙るポップコーンをティーラちゃんに種にしてもらい、牧場の片隅で育ててみることにした。



 年1で更新が必要とは言え、加護がかかった土地は流石に凄い。一週間で収穫可能にまで育っていた。その間、メリル達は既に厩舎にお引っ越しを済ませていて、夜になると200頭くらいのメリルがヌウヌウ鳴きながら厩舎にひしめいているのが見られる様になった。


 出来上がったコーンは子供達が取りたがったのでまずはみんなでワイワイと収穫をし、茹でて味見をしてみましたよ。


「わ、おいしー!ユウ!これ甘いね?お野菜なのに甘いよ」

「父上!ナールはこれが大好きです!」

「スゥはもうこれしか食べない……おとう、よろしく……」

「これがコーン?美味しいね、お父さん!」

「凄いねティーラお姉ちゃん。私の土地でこんなのが育つんだ」

「美味いなこれは!ユウ!もっと出すのじゃ!」

「そうよそうよ!あ、次は焼いてよ!ビールにあうから!」


 皆口々に可愛いことやクソみたいな事を言って盛り上がっている。飼料意外にも普通に食いたかったため、ポップコーンから作った種のママ育てず軽く品種改良してから育ててみたんだが、大成功だな。

 

 ポップコーン用のコーンは爆裂種とか言う物騒な奴で、皮が固い別種だと聞いたことがあるからな。

 そこから普通のコーンに近い物が出来るかが不安だったが、何とかなって良かった。


 さて、このコーンをどう加工してメリルの餌にすれば良いのか分らなかったので、取りあえずもいだのを見せてみたら、少し匂いを嗅いだ後パクリと食いつき、そのままボリボリと食べてしまった。


『ん、なかなか美味しいじゃ無いの。これを毎食出してくれるの?良いわねえ』


「俺が知ってる食い方はなんか加工して食いやすくしてるようだったが、お前らこのままで平気なのか?」


「大丈夫じゃ無い?草が無い時は木の魔獣を襲って囓ることもあったし、うちらの胃袋は強いわよ」


 トレントなんて居るのか……じゃなくて、見た目に反して物騒な連中だな……。

 まあ、トレントを食えるような連中であれば平気か……。


 今回お試しで作った畑で一週間分のコーンを賄うことが出来る。同じ規模の畑を並べて後6カ所作り、種まき班、収穫班、後片付け班、耕し班と分けて配置すれば毎日収獲ループする事が出来るわけだ。


 人員には授業内で農業に興味持った連中を配置すれば良いだろうな。


 よしよし、明日にも畑を用意して「実習」として当分の間は授業の中でやらせることにしよう。

 一瞬だけ、当分自分の仕事になるのかあなんて考えちゃったけど、実習としてやらせりゃ良いわけだしな!


 こうして着々と風の集落の牧場化が進んでいくのでありました。

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