第百九十一話 賑やかな食卓
フワフワとした幸せな時間を満喫し、学園村(仮)に作った別荘にゾロゾロと帰宅する。
ソフィアに部屋を案内したり、設備の説明をしている娘達を見るとほっこりとして疲れが取れるなあ。
暗くなってきたので照明をつけ、夕食の支度をしているとドヤドヤとクロベエ達がやってきた。
「あ、やっぱり帰ってるー!ダンジョンに行ってきたんでしょ、ずるいよ!」
マルリさんの足となっているクロベエはそう言って俺に文句を言うが、居なかったのだから連れて行きようがあるまい。
「まあまあ。俺より先に行ってきたんだろ?良いじゃ無いか今回くらいさ」
それでも愚痴るクロベエを宥め、ソフィアを紹介する。
「ソフィア、クロベエだよ。って身体を持つ前に会ってるかな?」
「うん、前にお母さんと一緒に来た子だね。よろしくね、クロベエ」
「よろしくねー。後で一緒に遊ぼうね。ほら、小春にヒカリも挨拶して」
クロベエに促され、猫共がソフィアを囲んで挨拶をしている。ぱっと見、ライオンかなんかに囲まれる少女という感じなので知らん人が見たら腰を抜かしそうだな。
夕食の支度をしていると、また誰かがやってきた。
「ユウさん!今日と言う今日はうんと言って貰いますよ!」
シゲミチ君だ。
「ああ、待ってくれ……今夕食の支度をしてるから……ああ、お前も食ってけよ。今夜はカツカレーだ」
「前もそう言って上手いこと誤魔化して……まあ、夕食を食べたらじっくり話を聞いて貰いますよ。今日は逃がしませんからね」
そう言うセリフは女の子から聞きたいものだ。
……いや、女の子ならそれはそれでちょっと危険な感じのセリフだな……。
『今日は……逃がさないから……』とか……うわ……こわい……。
「聞いたわよ!今夜はカツカレーなんだって?私はライス要らないから、カツにカレーかけたのだしてね」
「へいへい、どうせ飲むんだろうと思ってたよ。ほら、肉豆腐だ。シゲミチ君と二人やってていいぞ」
「うわーい!ユウがやさしー!」
肉豆腐を受け取り、どやどやとリビングに戻っていく女神。俺が優しいだって?何時も優しいだろうに……。あのフワフワとした素敵な時間を過した俺は優しさが何時もの5割増しなのだ。
半分が優しさで出来ている俺が全部優しさに変わったわけだ。優しさの化身である俺にとってだめだめな女神を労るくらい息を吸うくらい簡単な事なのさ……。
ソフィアの風は本当に心地よかったからな。なんというか溜まりに溜まったストレスが全部抜けていったというか。もしかしてスキルの『浄化』とはそう言った部分にも作用するのかも知れないな……。
よし、カツが揚がったぞ。パチパチと音を立てるカツをじっと見守って居たマルリさんに皆を呼ぶよう声をかける。
「ようやくか!ようやくできたのじゃな!ユウめ、味見くらいさせてくれるかと思ったが、厳しい奴め!」
「カツの数に余裕が無かったんだよ、ごめんね。ほらほら、みんなを呼んでくれ」
カツカレーの完成を聞いた子供達がドヤドヤと食堂にやってくる。飲みグループはあっちで飲んでいるようだから後から持って行ってやるか。
可愛らしい声で頂きますが鳴り響く。カレーはおろか、食事という物がはじめてだというソフィアに横に座ったティーラが色々と説明してあげている。ソフィアは全てが珍しく、楽しみなようで目をキラキラとさせていた。
そしてカレーを一口食べるなり、頬を抑えて目を細める。
「んー!これが食事、なんだか幸せな味がします!ありがとう!お父さん!」
「はっはっは、食べろ食べろ!カツは無いがカレーはおかわりがあるからな!」
と、誰か下から俺のシャツを引っ張る者が居る。
「ユウー!ユウー!あたしもカレーたべてみたいぞー!」
微妙に言葉が達者になった小春だ。カレーかー。猫にスパイスってあんまり良くないような……。
「うーん、ちょっと待ってな、聞いてくるから」
シゲミチくん達にカツカレーを運び、ついでに女神に聞いてみる。
「なあ、小春がカレー食いたいつってるんだが、食わせても平気?猫にスパイスとかタマネギとかカカオとかダメじゃんか、小春達もだめなのかな?」
「前も言ったような気がするけど、猫と一緒にしなくて良いわよ。魔獣なんだからその程度は平気って言うか、この子達毒耐性芽生えてるから何でも食べられるわよ」
なん……だと……? そう言われてチラリと小春やクロベエのステータスを見てみればヒッソリと『毒耐性LV3』が芽生えている。3匹で狩りをしているうち、ちょいちょい毒でも受けて耐性ができたのか……?
ともあれ、ねだる小春の夢を叶えられるのであれば些細なことだ。
皿に載った小春の肉にカレーをかけてやると、尻尾をブンブンと振って嬉しそうに食べ始めた。
「ユウー!ユウー!カレー美味しいよ!ありあとう!」
その様子を見ていた親猫共は羨ましくなったのかじっと俺の顔を見つめ無言でおねだりをしてくる。
……欲しいなら素直に欲しいって言えよな。
「ほら、お前達にもおすそわけだ」
クロベエ達の肉にもカレーをかけてやると、美味い美味いと喜んで食べていた。
「これさー、ユウが食べてるの見る度いいなーって思ってたんだよね」
クロベエが言ってるのは猫時代の話だろう。カレーを食う俺をじっと見つめたり、隙を見せれば手を伸ばしたり、更に油断すると顔を突っ込もうとしたりとしきりにカレーを狙っていたもんだ。
「猫の身体には非常に良くないからなこれ。今の身体だから食えるんだぞ、忘れるなよ」
デカい猫3匹に可愛い娘が6人。大分賑やかで華やかな食事だなあ。ほんとクロベエと二人だった頃からは想像できないや。
食事が終わり、食器を洗ってリビングに戻るとすっかり良い気分になったシゲミチ君が帰るところだった。
「いやあ、ユウさんすっかり御馳走になっちゃって……」
「ああ、いいよいいよ。こっちもパンの相手して貰って悪かったな」
「ちょっと!私をまた犬かなんかみたいに言って!」
「ははは、いやあ、カツ?が乗ったカレーもいいもんですねー、また食わして下さいね!じゃ!」
……そう言えばシゲミチ君は何故うちに来たんだったか。女神の相手をしに来てくれたんだっけか。
と、勢いよく玄関の扉が開きシゲミチ君が戻ってきた。
「……あっぶね!また忘れて帰るところだった!今日はユウさんと学校の話をしに来たんです!パンさんと飲み来たんじゃなかったんです!危なく誤魔化されるところだった……」
「知らねえよそんなの……俺のせいじゃねえじゃんかよー」
「まあ、玄関先じゃなんだし、入りなよ、ね?また飲みなおそ?」
そう言って女神がシゲミチをリビングに引きずっていった。
……よし!今日もなんとか有耶無耶に出来そうだ!