第百八十八話 やってきました風のダンジョン
と言うわけで風のダンジョンにきてみたわけですが、なんともまあ……。
「あれだ、街の地下道だわこれ」
「あーーーそれだーーー!なんかポスターとか貼りたくなってくるわね」
「貼っちゃう?貼っちゃう?風の子の巨大ポスターとか貼っちゃう?」
「いいねー!子供達全員集合絵とかでもいいんじゃない?」
「いい……」
話が分らない子供達を置き去りにして女神と2人盛り上がってしまった。
なんつうか、こいつは異世界の女神のクセして日本に詳しすぎるからな。どうも同郷の奴感覚で盛り上がれてしまうから困る。
さて、そんな地下道も終わりが近づいて参りました。話に聞いていたとおり、ビュウビュウと風が吹く下り階段が見えてきます。
これがまた掃除が行き届きすぎているせいか、地下鉄の階段みたいな感じでなんともダンジョン感が薄いのですが、見た目に反して地味に体力を削ってきます。
ダメージ床とかそういうもんじゃ無いんだけど、なんつうの? 物理?
「くっそ、何時になったら下層に着くんだよ!」
「その言葉を聞きたかった!」
「うるせえ!何処の無免許医師だ! さては俺のリアクションが楽しみでこの事黙ってたな!」
「さてねー?どうかしらねー?うふふー」
妙に嬉しそうにニヤニヤする女神が腹立たしい。この様子だと隠し球がもう一つありそうなんだが、その前に俺の心が折れてしまいそうだ……。
異世界環境特有のアレでレベルと言う物の恩恵を地味に受けてるせいなのか、ただ単に日々の生活で鍛えられたせいなのか、このクッッッソ長い階段を降りているというのに脚や体力のことは大丈夫。
でも、なんつうのかな……終わりが見えない階段を延々と降りるって言うのはちょっと辛い……。
やんわりと閉所恐怖症的な所もあるし、ほんと勘弁して下さいって感じだ。
興味本位で後ろを振り返ると、上階フロアの光がめっっちゃちっちゃーく見えた。
更に歩くこと20分、ようやく出口が見えてきた。
ダンジョンの運営者視点で考えれば、これはこれで冒険者の心に絶大なダメージを与えられそうなので、今からちょっと楽しみではあるんだけど、正直二度と来たくないレベルで嫌だぞこの階段……。
希望の様に輝く下階の光が降りる毎に大きくなっていき、気分が大分マシになってきた。それに伴い、風から感じる香りが強くなる。
それこそ女神が言っていたマイナスイオン的な感じというか、新鮮な外の空気というか、この手のダンジョンではけして流れることが無いであろう爽やかな香りだ。
最後の段を踏みしめ、両手を挙げて出口……いや、2階層の入口を潜る。やりました!ユウ選手!今ゴールです!
満面の笑顔でゴールを潜った俺はそのままのポーズで固まる事になる。
「うぷぷー!なによそれ!キャラメルに居る走るおじさんの真似?」
くそが、こいつ絶対わかって言ってるだろ……。
飛び出した先にあったのは断崖絶壁。勘が良い一般人のおばちゃんなんかが旅行先で起きた事件を解決する場所のような崖である。
ちょっと坂になっているため外からは気づきにくく、もう少し元気よく行ってたらそのまま落ちていたかも知れない……。
「やーめーてーよー!俺もんよりと高所恐怖症の気もあるんだからー!」
「其れはいいことを聞いたわ!みてみて!このダンジョン、後はもうずっとこんな感じなの!気持ちいいわよねー!」
くそ!なんだか何時もに増して上機嫌なのが非常に腹立たしい。
「馬鹿と煙は高いところが好きって言うもんなあ」
「なによ!落とすわよ!」
「やめろ!それはやばい!」
「あははははは!ここまでユウが弱ってるの初めて見た!あー!面白い!」
くそが、今に見ていろ……! 何か弱みを握ったが最後、二度と泣いたり笑ったり出来なくしてやるからな!
まあ、女神にはああは言ったし、実際怖いんだけど、高いところが全くダメというわけでは無いんだな。
幅1mくらいのクソ高い防波堤を歩いて釣り場に向ったりすることは良くあったし、海面まで6mは軽くある場所で釣りをするなんてザラだったし。
なんつうの?崖から下を見下ろすのは怖いしアレがヒュッとするんだけど、飛行機とか展望台なんかは平気なタイプって言うか。
なので、崖の上とは言え、それなりに広い道だと言うことに気づいた俺は勇ましく先陣を切って飛び出したのでした。
「おら!何時までもアホみたいな顔で笑ってないでさっさといくぞ!ぼさっとすんな!駄!」
「あれっ!? ちょ、ちょっとあんた高いところが怖いんじゃ……ねえ、ちょっと!あと駄はやめて!」
駄はいいとして、このダンジョンは中々に面白い作りをしているな。上階と違うのは天井はあれど、半分外に開けて空が見えているというところだ。
床や壁はダンジョンだなあって感じなのに、普通に外が見えちゃってるのが何だか新鮮だ。
ルーちゃんが作ったダンジョンもまた空が見える系だけど、あれは異空間というかなんというかアレも含めてダンジョンであり、ここのように本物の外が見えているわけでは無いからな。
幅10mくらいの通路が蜘蛛の巣のように延びていて、途中途中に広場があるような感じだ。人工系と自然系のハイブリッドって感じだな。
「凄いよね、お父さん。私もこんな風にしたら良かったなあって思ったけど、うちじゃ無理っぽいから残念だよ」
「ティーラのダンジョンも俺は好きだぞ。正しいダンジョン!って感じでさ、本来なら冒険者はああいう所から潜りはじめてコツコツと力をつけるものさ」
ティーラのダンジョンは本当によくできているからな。放置されすぎて敵が鍛えられすぎていると言うのが無ければ本当に初心者用ダンジョンとして良い出来だったと思う。
まあ、そうじゃなくても俺の構想的に後半ダンジョンとして使わせて貰ったと思うけどな。
ここの敵もまた非常に強そうだ。チラチラとこちらを伺いながら飛んでいるのはワイバーン的なアレだ。どこかビクビクしながら隠れるようにして飛んでいる小動物、あれは恐らく鎌鼬的な何かだろう。モフモフで可愛らしいので何匹か攫っていきたいところだな。
「皆良い子でしょー?私や子供達でいっぱい『お話し』をしたからね」
「肉体言語も使っただろ、確実に」
「いやね!私は使ってないわよ!女神様だもの!」
私は、ね。ワイバーンはアレでも話す知能くらいは持ってそうだし、そこらにいるモフモフをいじめたりしたのだろうか。子供達は余りそう言うことを好まないから、大方クロベエ達をけしかけたりしたんだろうな……。あいつらレベルが上がって地味に強くなってるし……。
風のダンジョンだと言うだけあって、飛行系の魔物が多めに居る中、悠々と進みまして、とうとうコアの間らしき場所に到着しました。
あみだくじのように歩いて到着したのは蜘蛛の巣状に広がったダンジョンの中央。
やや広めに設けられたその場所は石柱で囲まれた祭壇があり、その前には緑色のドラゴンがちょこんと座ってじっとこちらを見ています。
やっぱダンジョンにドラゴンってつきものなんだなあ。水のダンジョンに居なかったのはなんだったんだ。
『おお、お待ちしていました!美女神様!さあ、主がお待ちですよ!』
「うむ、苦しゅうない。待たせてごめんね-」
「おうこら、駄」
「誰が駄よ」
「か弱いドラゴンに何言わせてんだこら駄」
「何って何よ?今の会話に変な所があった?ないわよね?」
「微女神ってなんだよ」
「……なんか漢字が違う気がしたんだけど!?」
「いいか、これは老婆心ながら言うけどよ、今はよかれと思ってやった行動が後々恥ずかしくなって自分を苦しめることだって有るんだからな? お前がその気なら俺はやるよ?上の住人達にお前のことを『美女神様』って呼ばせちゃうよ?大人も子供もお爺ちゃんもお婆ちゃんも皆が『美女神様』って言うんだよ?『おはよう!美女神様!しけたつらしてんな!これでも持ってけ!』って威勢が良い八百屋のオッサンも言うんだよ?」
「長いっ!っていうかどうしよう、恥ずかしくなってきた……」
「後でちゃんと修正しておけよ? 今ならまだ間に合うからさ……」
「うん……」
「ねえ、ユウ、ママ!風の子さっきから悲しそうな顔で待ってるんだけど!」
「「あっ」」
フワフワとやってきた緑の光が悲しげに輝いていた。