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第十九話 集落滞在その4

「はい、次のかたー」

 

 俺は肉を配るマン淡々と交換をするのが仕事だ……というわけで肉を配っているわけだが、にんじん1個で肉3kgいただくぜー的な事を考えるずるい人は現れず、どうにも総じて善人なために結構な量の野菜がどんどん持ち込まれていて嬉しい悲鳴を上げている。


 農家――野菜を持って来た人はざっと12人くらい。それぞれたくさんの野菜を持ってくるもんだから逆に申し訳なく思う。


「また今度肉を持って来ますので、今日はこれだけで良いですよ!」


「ええ?いいのかい?でもなあこんなに肉を貰っちまって……」


 たくさんくれるのはありがたいが、ここの人たちが食べる分がなくなってしまいやしないか不安で仕方ない。なので必要な分だけ受け取って残りは返したよ。


 かなり遠慮をして貰った量であっても、俺とクロベエがひと月食べる分は軽くある。これで断らなかったらどれだけの量になっていたことか。


 あんまりにも遠慮無く凄まじい量の野菜を持ってくるため、それとなくシゲミチに聞いてみたが、とにかくもりもり野菜が採れるらしく、野菜だけは余るほどあるそうだ。


 それに比べ狩りの成果はてんでダメで、なんとか狩ってきた獲物も大した量にしかならないため、仕方なく野菜主体の食生活を営んでいるそうだ。


 そしてラウベーラの件でそれすらも完全に途絶えてしまったため、普段以上に肉に飢えてしまっていたようだな。あの女神が変な設定をしたせいではなかったのか……。


 農家班が終わると次は狩人班に配る番だ。普通に考えれば、狩人から対価で貰うのは肉になるわけだが、肉と肉の交換ってのもアレだし、そもそも彼らは現在休猟中だ。


 なので彼らには『後で狩りの話を聞く』という約束を取り付け、それを対価に肉を渡していく。狩人は8人居たが、その殆どが今は農家を手伝っていて、対価として野菜を貰って暮らしてるそうだ。


 狩人ということで、他の住人より肉を食べる機会が多かったせいか、禁断症状が重かったようで……余計に肉を嬉しそうに受け取って帰る。その中には勿論、そわそわしながら並ぶキンタの姿も見えた。


「もう二度と食えねえかと思った……ありがたい…」


 泣きながら帰る人も居る。


 何時までも俺が肉おじさんするわけにも行かないし、何が原因でここまで狩りがダメなのか調べてもう少し肉の自給が出来るようにしないとな……つうか、やっぱ肉に関する妙な設定されてるよね???泣くほどか?泣くほどなのか?


 次にその他の方々。


 鍛冶屋が数人に大工達、後は女性の方々だ。この集落では女性は家庭の仕事に専念しているようだった。勿論、この人達からもしっかりとお話を聞くぞ。


「薬をいただいたのにお肉まで……よろしいんですか?」


 リットのお母さん、マーサだ。23歳だってさ。リットが7歳か……おのれキンタ、計算したらすげーイライラしてきたぞ!くそが!


 なんて、うっかり考えてしまって、『このパターンはメールで煽られる奴か!』と美馬が得たが、何も来ない。奴め、飯抜きがよほど効いたらしいな。  


 ……これはこれで寂しい。


「いやいや、後から周辺の事など色々お話を聞かせて貰いますので、そのお礼を先渡しということでお気になさらず!」


「兄ちゃん!ありがとな!後でクワ作ってやるよ!」


 鍛冶屋さんか。そういうのもアリかもしれないなあ。クラフトで色々作れるとは言え、人が作った物にはぬくもりがある。人のぬくもりに飢えている俺には何よりの話しだよ。


 そして、後はシゲミチ達、ニート呼ばわりされている若者達だ。どうにも自信なさげにやってくる彼らに少々同情をしてしまう。彼だってきちんと場を整えてやればきっと良い働きをするだろうからな。


「君たちは俺から見れば結構面白いことやってる予感がするんだよ」


 そんな事を言うと、キョトンとした顔で見られる。これまで無能扱いされていたのに、いきなり面白いなんて言われたらそうなるわな。


「後で君達がどんなことをしてるのか聞かせて欲しいんだ。その結果次第で色々仕事を頼むと思う。勿論、君達が出来る仕事を頼むつもりだし、それのお礼はちゃんとするよ」


「肉…ですか……?」


 背が低い少年が恐る恐る尋ねる。


「ああ……肉だ…違うのが良いか…?」


「肉が…!肉が良いですっ!」


 まあそうだろうな……なにこの肉で描く青春ドラマみたいな…・…。


 取りあえず、後から話を聞く分の前払いで皆と同じ分持たせてやった。変わり者少年団は全部で4人。


 シゲミチくんのメモによれば、集落の人口は全部で50人くらいだろうか。思ったより居るなあ。肉を沢山持ってきて良かったよ。


  ◇


 交換会も無事終わったのでシゲミチにも肉を渡して帰らせる。書記をやってくれたので肉の量に色をつけてやった。



 手帳を眺め、今後の予定を考えた結果、まず狩人たちを集めて話を聞くことにした。キンタに話せば狩人を集めて貰えるだろうし、何よりこの集落における肉の自給自足は最優先事項だからな。


 というわけでリットの家にやってきたが、もしかしたら畑の手伝いに向かって居ないかもしれないな。その時は場所を聞いて会いに行こう。

 

「ちわー キンタさんいますか?」


「おう!肉の人!」


 キンタさん居ましたわ、てか……!


「どうも!”()()”です!」


 NO肉の人!断固拒否する!つか、あれだけ『ユウ』『キンタ』って語り合った仲じゃねえか!今更肉の人扱いは傷つくぞ!


「畑に出てるかなあって思ったんだけど居て良かった!」


「はっはっは、畑に行っても恐らく今日は誰も居ないぞ」


「む?今日は何かそういう決まりでもある日なの?」


 何言ってんだって顔でキンタが言う。


「あったりめーじゃねーか!肉だぞ?肉!夢にまで見た肉だ!今頃みんな調理場に向かってるんじゃ無いか?マーサの奴もさっき肉抱えて走って行ったぞ!」


 肉抱えて……良かったなリット、お母さんすっかり元気になったんだな……。


 しかし集落は空前の肉フィーバーか。この分だと今日は話を聞く事なんて出来ないな。何聞いても『YES!肉の人!』って言われかねん。


「あのさキンタ、普段どんな風に狩りをしてるのか見せて欲しいんだよ。ヤツもいなくなったことだし、狩りを再開するんだろ?」


「ああ!勿論!今日は肉があるから無理だが明日は狩りに出かける予定だ!肉はいくらあってもいいからな!」


「そうか!でさ、明日狩人全員で森に行く事は可能かい?」


「言われなくても皆行くんじゃねえかな?何日か肉には困らねえだろうけど、やっぱ自分で狩りたいからな!」


 それを聞いて安心した。


「そっかそっか!もう少し大型の魔物が狩れたらもっと肉食えるだろ?明日狩りを見せてくれたらその手助けが出来ると思うんだよな」


「大型の狩り方を教えてくれるのか? まじかよ!ユウ!あんたやっぱ肉の人だよ……!俺たちの肉の人だ……」


 くっそ軌道修正しかかってたのに結局肉の人かよ。今のは俺が悪いけどさあ。


「じゃあ、明日行く前に俺のテントによってくれよ。今日と同じ広場に居るからさ」


「テント……ああ、あれだな!おう!仲間にも伝えとく!楽しみにしてるぜ!」




 キンタと別れ広場に向かう途中……、スマホがぽんと音を立てた。


『ねえ、あんな約束して大丈夫なの?あんた戦闘系の特技とかないんでしょう?』


 メール来たか。これは普通に心配してる感じだから返信しよう。


「ぶっちゃけると実戦経験はここに来るまで無かったな。ただ、アウトドアネタは大好きだし、知識ならこいつから借りられるからな!」


 スマホ様々である。


『結局スマホ頼みじゃないの』


「女神様の加護をうけたスマホだからな。役に立ってくれないと困る」


『ふふん』


「知識的な加護は得られそうも無いがね」


『ちょっと!!』


 どれ、時間はたっぷりあるしちょっと狩りのネタについて下調べしておくかね。

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