第百八十五話 効率良く唐突に事を運んでいきたい
善は急げ。翌朝早々にダンジョンへ向かう。本来は現地のコアと協力して作る転送門だが、この集落……とも呼べない住所不定無職たちを見ていると1秒でも時間が惜しく感じたため、女神とルーちゃんの力のみで強引に塩のダンジョンと繋げてしまった。
『え……そんなあ……』
なんて声がほんのり聞こえたような気がするが、気のせいである。受肉していないコアとお話するスキルなんて俺にはないのだから。そう、気のせいなのである。
それでも何だか少し申し訳なくて、『すまん、近い内にまたな。女神たちだけ先に行かせるから許してくれ』と念じ、単身塩のダンジョン経由ではじまりの村へ向かった。
俺が学校設立の用意をしている間に女神たちが攻略を済ませルートを確保する。なんて効率的なんだ!
そんな具合に自画自賛をしているうちにキンタの家に到着する。
「ユウサンガーーーーキタヨッ!」
キタヨ!と早口で言いつつ扉を開けると、シゲミチを隠そうとしたポーズで固まるキンタが目に入る。
「出たな!魔獣シゲミチさらい!ああは言ったがシゲミチはやらんぞ!」
「何いってんすか、キンタさん。俺がいつもいつもシゲミチだけさらうようなこと言ってくれて……」
「事実じゃないか!じゃあ、なにか?今回は違うっていうのか?」
事務所を見回すと、胸がでかいウサ族2匹がせっせと何かを揺らしながら書類に取り掛かっていた。
成程……、随分とまあ幸せな職場で頑張ってらっしゃる……。
「シゲミチくん、ウサ族の仕上がりはどうだい?」
「ああ、見てください!バッチリです!シズクが二人居るみたいだよ」
「他のウサ族も同様なのかい」
「そうですね、他のウサ族もバッチリです!これならいつでも俺が攫われてもひどい事にはなりませんよ」
シゲミチの報告をそれは僥倖と聞いていると、キンタがそれでも諦めきれずに食い下がる。
「だ、だめだぞ!シゲミチが居なくなると……、俺の仕事が増えるじゃないか!」
「元々二人で回してた所に二人増えたんですよ?今やキンタさんの仕事なんてサインくらいしかないじゃないっすか。今更俺が一人二人消えたところで元より楽なくらいですよ」
「ぐ、ぐ、ぐぐぐ……」
キンタがどっかの女神みたいな反応をして固まっている。グウの音も出ないってやつだな、ざまあ。
「まあ、キンタには頑張ってもらうとして、さっき言った通りいつもいつもシゲミチだけ攫うって事はしないからな?ああ、ザックはもちろん連れて行くけど今回はさらにマーサとリットちゃんも連れて行くから」
「はあ?なんでマーサとリットもなんだよ!?」
「ちょっと新しい村候補地に学校という文字や計算を教える施設を作る必要があってね。それを教える人を連れて行くってわけさ」
「ちょ、聞いてねえし!俺も連れてけし!」
「今言ったから聞いてないもなにもないだろ……」
驚きで妙な口調になったキンタがヤダヤダ俺もいくいくとごねてるが、何処の村に長期間村を開ける村長が居るっていうんだよ。
……ヒゲミミ村か……。
それは良いとして、村長室に入る前にリットちゃんとマーサに話したらかなり乗り気だったから今更何を言ったところで覆らないんだよなあ。
斯くしてキンタは女性陣二人に見事言い負かされ、単身留守番を任せられることになった。
また、マーサにより留守中は男ウサ族が必ず一人は付くように言いつけられ、さらにキンタをがっかりさせることとなった。
何を企んでいたかは知らんけど、まあ、いろいろとだめだよキンタくん。
ザックにも話を通し、用意ができたらモルモルと共に来て貰う約束をした。
シゲミチくん達にもまた、用意が出来たらゲート経由で来てもらうようにお願いしてある。
リットちゃんは今直ぐにでも行きたそうにしていたが、流石に準備というものがあるからな。
皆に挨拶を済ませると、草原に戻って受け入れ体制を整える。
上下水道はモルモルが来てからちゃんとやるとして、まずはその準備と建物だな。
既に手慣れた各種キットを駆使して整地に基礎工事、建築をさっさと終わらせる。
今回作ったのは俺達の家と、はじまりの村グループ達の家3軒、体育館の様な大きな建物……、全員まとめて収納できる大きな教室と、それに隣接する食堂、そして適当に100軒程の家だ。
言ってしまえば簡単だが、かなり骨が折れる作業だった。何が面倒だって住民用の家である。
とりあえず適当に1家族1軒として100軒作ろうと思ったわけだけど、細々としたのをいっきにやるのは建造キットでズルをしても中々苦労した。
流石にリソースをかなり使ってしまって、3回魔石で充電するはめになった。
その様子に驚いたのは住所不定無職たちだ。今まで何もなかった草原にポコポコと筍のように建造物が立ち並んだわけだから驚かないほうがおかしい。
普段メリルにべっとりの彼らも思わずそこから離れ、ワラワラと建物に群がって居る。
その様子にちょっとしたトラウマが発動しかけたが、サクサクの再来は無いようなのでほっとした。
「なあ、これはなんだ?いきなり生えてきたように見えたんだが……」
赤い鬼のお姉ちゃんが不思議そうに言った。
「ああ、これは家というものだ。雨が降っても濡れないし、虫に刺されまくる事もなく安眠できる素敵な場所だぞ」
俺の雑な説明に周囲の者達がザワザワしている。
「1家族につき1つ使っていいぞ!ほら!適当に入ってみろ!」
それを聞いた住人達はわっと歓声を上げて家にゾロゾロと入っていった。ここでちょっと不安がよぎる。
適当にメリルに埋まりながら暮らしていたこいつらに家族という概念はあるのだろうか?一族皆家族で適当に暮らしていたのではないだろうか?夫婦という概念すら無いのでは……?
そう思ったが、杞憂であった。どうやらあんないい加減な連中でもそこらはきっちりと一夫一妻制を貫いているようで、家を覗くと両親と子供、じじばば付きの世帯等それぞれキチンと家族で入居していた。
……一人さみしく入っているものも少なからず居たが、それは今後学園生活の中で上手いこと頑張ってもらいたい。
しかし、入った連中が出てくる様子がない。
どうしたものかと覗いてみると、ウーフンの毛皮で作った布団にくるまってモフモフを堪能していた……。
メリル離れ出来たと思ったらオフトゥンに浮気しただけだったか……。
結局女神たちが帰還し、『夕食だぞ!!!』と各家庭に声を掛けるまで連中が家から出ることはなかった。
……おのれニート共!学園が始まったら仕事もキッチリ覚えてもらうからな!