第百八十話 女神様ありがとう会
「さあさあ、女神様!ぐーっと、ぐーっと!」
キャンプから何だかんだで2ヶ月が経ち、久々の自宅で「女神様ありがとう会」を開いている。
日々、我々のために頑張って下さっている女神様を労う会と言う事で、俺やヘルプのウサ族により様々な料理を作り、このたびめでたく完成した「純米大吟醸生原酒 猫耳」と共に味わって頂いています。
純米大吟醸猫耳は、ヒゲミミ村の入口付近に設けられたヒゲミミ酒造にて作り始めた日本酒的なお酒です。あの土地は酒造りに適した環境で、めでたく育成が軌道に乗った「ティーラ米」を使った酒造りがウサ族主導で行われています。
ヒゲミミ村の杜氏が育てばそのままヒゲミミ村の産業として委譲される予定です。
このフルーティーでまろやか、生原酒故の微発泡には女神様もにっこり。
ここ2ヶ月の間、何だかんだと扱き使って死んだ魚の目をしていたのが嘘のようです。
何をさせたか、全てを語るには時間がいくつあっても足りませんが、彼女が一番頑張る羽目になったのは「女神の泉」の整備でしょう。
「なあ、やっぱ女神の泉って観光資源としてあった方が良いと思うんだよ」
なんて言った瞬間、食い気味に「そうよね!そうだよね!?やっちゃう?やっちゃう?」とノリノリでのしかかってきたため、「じゃあ、お前に頑張って貰うわ」と森を通る街道、泉周辺に強固な結界を張って頂きました。
女神とは言え、こう言う形で管理世界にダイレクトアタックを噛ますのはそれなりに疲れるようで、そこそこ広い森を狩場に影響が無いよう緻密な制御で結界を張るのはとても負担がかかったようでした。
泉周辺に張り切って神殿を建てようとしたので、それは止して貰って、それでも渋るため仕方なく小さな社だけは許可をしてあげました。
ああ、嫌がらせで女神像を設置したのは俺です。パンを256%美化した神々しい女神像を作ったため、誰もパンと女神が同一存在だとは気づきませんが、ただ本人だけはやはり何処か恥ずかしいようで、思い出す度に撤去するよう、お願いしてきます。
誰がするか。
さて、なんで今更あの泉を整備したのか?それは女神を煽てて森に結界を張らせる口実です。
元々街道に染みついた薬草の効果で弱い魔獣は出ないようにはなっていましたが、ラウベーラの件もあり、より強固な物を張って貰う必要がありました。
転送門で繋がったとは言え、荷物を運ぶ荷車はそれを通ることが出来ないためあの道はまだまだ需要があります。
他の村もまた同じ様に荷車が通れないため、苦労してるようですが、そっちはどうしようも無いのでバケツリレーですね。
で、荷車があれば楽かと言えばそんな事はありません。
くっそ重い荷物を乗せて引く訳ですから、かなりの重労働です。「良い鍛錬になる」と笑う者も居ますが、そんな奴は無視です。
なのでずっと「馬か牛的な魔獣をスカウトして荷馬車要員にしよう」と考えてたんですが、諦めました。居ねえんだ。居ねえ。
多分どっかには居るんだろうけど、それでも結局居なかったらがっかりってレベルじゃ無いので諦めました。
それで、タルットを騙して引かせようと思ったんですが、ちらっとキンタに相談したところ全力で却下されましたので、しょうが無く文明レベルを1段階押し上げちゃいました。
これが女神の泉周りの整備に関わってくるわけですが、ぶっちゃけてしまえば魔導自動車を作りました。
つっても、耕運機だけどね。日々無限に貰うことが出来るモルモルの分泌液(どう言うものなのかは考えたくない)を原料にタイヤを作成し、魔石を動力とするモーターを搭載した耕運機を作りましたよ。
今のところは朝に村を10台の魔導耕運機が出発し、夕方にそれが帰って来るという具合です。道が狭いのですれ違えないため、並んで走るようにしたわけです。
ドライバーとして便利なウサ族を雇ってますが、ヒゲミミ村の連中がやたらと興味をもったようで、メカニック兼運転手として何人かがウサ族と交代で働いてくれているようです。
荷物が少ない時は荷車に人を乗せるようにしたので、これはこれで名物となりまして、転送門を使わずわざわざ森経由で向う人もそれなりに増えちゃいました。
なので当初5台だった魔導耕運機も結局10台に増台し運営しています。
これで役に立ってるのが森の入口に作ったブンブンです。ダンジョンの帰りにブンブンで一泊し、夕方まで森で一狩り。そして夕方やってくる魔導耕運機に乗って村に帰宅という狩人の黄金パターンが生まれたようです。
まあ、なんにせよ無駄にならなくて良かったですわ。
「いやあ、女神様にはほんと今日まで色々と頑張って頂いて!さあ、もう一献!」
「おっとっとっと……もう、当然のことだし?私の世界じゃ無い?ま、たまにはね?あ!何時もやれって言ってもダメよ!女神様にも休息?って必要じゃ無い?まあ、こうして美味しいお酒造ってくれたからさあ?多少はね?」
「ですよねえ、ほんと俺に甲斐性が無いために女神様にご負担をかけてばかりで!いよ!美女神!」
「あははははは!気持ち悪いわね!もっといいなさいよ!」
「頑張る女神様にご褒美をもっとあげたいなあと思うのですが……よろしいですかね?」
「何よ!くれる物なら何でも貰うわよ!物をくれる奴は良い奴だって偉い神も言ってたし」
「おお!貰っていただきますか!いや、女神様にというかですねえ、仮初めとは言え我々は家族、ルーちゃんたちは可愛い子供達じゃないですか」
「そうねえ、あんたが夫ってのはアレだけど、子供達はかわいいわよね!あ!ルーちゃん来なさい!抱っこしてあげる!」
「それでですね?ほら、子供達も我々がここの所忙しくて寂しい思いをさせたり、なんだかんだ幼い身でありながら仕事をさせたりと負担をかけちゃったので……家族サービスをですね?」
「あんたわかってるじゃーん。そうよ、良い父親は、良い夫は家族サービスをするのよ!」
「それで……どこかにまた旅行に行こうかと思うのですが……出来れば帰りは楽が出来るようにダンジョンが近くにあるような場所があれば……」
「あー、そうねえ。ティーラちゃんの事もあるし、知性が芽生えてるようなコアにはなるべく会いに行かないとねえ。あー、良いところ有るわ。それ行きましょう」
「ほほう、それは一体」
「ここから南にずっと行ったところにある風のダンジョンねえ。良い所よー、草原が広がっていてね-、何にもなさ過ぎて大分行ってないけどあはははは!久々に見に行きましょうか、キャンプ道具もってさあ」
よっしゃあ!言質取った!次は風のダンジョン!風のダンジョンです!