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第百七十九話 かみ、かみではなくてかみ

 キャンプの日から数日が経ち、村人達からキャンプ場について聞かれることが増えた。

 近場で出来る大した娯楽が無かったわけだから、家族サービスの場として案外受けたようだった。


 キャンプ場の運営は完全にウサ族に委託しているため、簡単な料金などを伝えて後はウサ族にブチ投げている。


 そして今後も何かやる度、こうやって会う奴会う奴に詳細を聞かれて答えるのも怠いなと思ったので、掲示板を作ってしまった。


 村の広場に大きな掲示板を作り、そこにペタリとキャンプ場のチラシを貼った。それに合わせて「この板はお知らせや依頼を貼る場所である。各自好きなように使って良し」と言う張り紙も貼ってやった。


 RPG等でよく見る奴を作ったつもりだったが、数日経っても使われている様子は無い。

 いや、俺の張り紙はめちゃくちゃアクセスされてるので誰も見ていないと言うわけでは無い。他に貼る物が居ないのだ。


 と言う事をシゲミチ君に愚痴ったところ、


「ユウさんは忘れてると思うけど、僕が以前使ってた紙は魔獣の皮ですよ。そう簡単に手に入る物じゃないしあんな所に貼れるようなもんじゃないです。ユウさんがどっさり不思議な紙をくれたから僕らはこうして役所の仕事や研究が出来てるんですよ」


 と、馬鹿を見る目で言われてしまった。そうだった。


 この世界に製紙技術などあるわけがなかった。店の値札は木札だし、紙と言えば羊皮紙的な奴だし、こいつらが字を読めるのはよく分らん謎の理由だし。(多分女神がチートで弄ったのだろう)


 であれば、紙を作って流通させる必要があるが……、製紙業なあ。

 ここの連中の産業にするのも悪くないが……、もっと効率的に作れるようにしたい。

 それこそ疲れ知らずのブラックソルジャーのような連中に作って貰いたい。


 であれば……。



 現在私が来ていますのは、塩のダンジョン2階層、深淵の森林にありますウサ族の集落です。

 あ、階層名は今適当につけました。


「これはこれはユウ様」と出迎えてくれたウサ族村の代表、マスター・ウサに紙づくりをお願いしますと、適任者(良い魔獣)が居るとのことで、早速紹介して頂きましたよ。


「始めまして、森の賢者、エルダーウッボスです」


 そう言って現れましたのは、気持ち悪い色をした木のお化けでした。エルダートレントとかその手のアレなのでしょうが、木に製紙業をさせるとか中々ウィットに富んだジョークだなおい。


「俺が頼みたいのは木を使って紙……こんなのを作る仕事なんだが、構わないのか?お前はその……木だろ……ぶっちゃけ……」


「それなら問題はありません。ユウ様に例えるならば、日々無駄に伸びる髪の毛を切って何かを作るような物ですので……。資材には困りませんし、退屈なこの日々が紛れるならこれ以上のことはありませんよ」


 俺は嫌だけどな……。自分の髪の毛をカツラの原料なんかに売る事もあるらしいが、それとはちょっと事情が違うだろ……。まあ、本人達が良いって言ってるんだからいいか……。


 わさわさと俺の後をついて小さな森が移動する。中々にシュールな状況だ。

 こいつらに器用な真似が出来るのか若干不安だが、やる気だけはあるようなので試させてみよう。


「教えるのもめんどくせえから、説明書を作ってきた。あー、お前ら文字は読めるのか?」


「愚問ですな。森の賢者たる我らエルダーウッボスの叡智……侮らないで頂きたい。ユウ殿の説明書も既にこの中に入りましたぞ」


 トントンと枝で器用に身体の真ん中辺りを叩いているが、お前らの脳ってそこにあるの?


 何だか色々と疲れてきたので、必要そうな道具を置いて後はウサ族にブチ投げる事にした。


「取りあえずこれが人間用の道具だけど、使いにくかったらウサ族に言ってなんとかして貰ってくれ」


「承知しました。ふふ……来週の朝また来て下さい……本物の紙という奴を見せてやりますよ……」


 ……火をつけて帰ろうかな……。


◆◇◆


 あまり期待せずに迎えましたこの日、約束通り早朝から深淵の森林くんだりまでやってきました。

 あ、ちなみに1階層は「嘆きの湿原」にしました。皆おっさんにやられて嘆いていましたので。


 ウサ族の村に入りますと、トレント達がザワザワと葉を揺らし今か今かと俺が来るのを待っていました。

「おお、ユウ殿!待っていましたぞ」

「待っていましたぞ、って今めちゃ早朝なんだけど……」


「実は5日目にはもう良い具合になりましてな。それからずっとここで待っていました」


 村の中に森が居座ってるわけだから、ウサ族も良い迷惑だったろうな……。

 それにしても手が早い連中だ。本当に出来てるんだろうな……。


 と、見せて貰った紙、これが中々素晴らしい。キチキチっとカットまでされて、ダメ元で指定しておいた用紙サイズ、A版B版をそれぞれ0から6まで揃えてやがる。大判の紙はあまり出番は無いだろうが、A3、B4、A4、B5、A6は出番が多そうなので量産させても良いかもしれないな。


 取りあえず後は様子を見て交渉と言うことで、めでたくダンジョン内に製紙工場が誕生しました。

 この手の手がかかる工業は魔物→ウサ族→人間族と言う流れで徐々に外に広めるようにした方が楽かも知れないな。


 その後、はじまりの村ウサ族区に「ウッボス紙店」がオープンし、良心的な価格なのが幸いして紙やそれで作ったノートがバンバン売れていた。


 紙は結構重たいので、ウサ族には運搬用に荷車を作ってやったがそれでも転送門ゲートを使ってギリギリ運べる様な具合であった。


 何処からか馬や牛を調達してこないとやっぱダメよねー。


 さて、そろそろまた旅に出るか……。

 であれば、今夜女神と相談だな。あいつが好きな物でも作って優しく、そう優しくおねだりしよう。

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