第百七十八話 ユウ、大いに満足する
オヤジどもを子供と共に集め、飯盒炊爨講習です。
こいつらは普段パンを食っているため、米食自体がはじめての体験。であればここは「ダディそんなことまで知っててクール……」ではなく、「共に学んで共通の話題を持つ仲間になろう」作戦に切り替えるべきなのです。
「はーい、オヤジどもに子供達注目ーうちの子達とそこに落ちてるパンも注目ー!今から新しい食材の調理方法を教えるので一緒に頑張りましょー」
「「「おーー!!」」」
パンがダルそうな顔をしているが、ここでちゃんとやらないといけません。
「ちなみに自分の分は自分で作る事になりますからね。ここでいい加減にやっちゃうと今夜のご飯がかなり悲しいことになります。頑張りましょーね」
「「「はい!」」」
青い顔をしたパンも一緒に返事をしている。よしよし、調教されつつあるな。
「ではまず、米を研ぎます!」
こうして俺の飯盒炊爨講習が幕を開けた。
あちらこちらからアズキアライの様な音がこだまする。
飯盒炊爨は難易度が高いと思われがちだが、ある程度ならノリでやっても案外うまく行くものなのだ。
あまりいい加減にやりすぎると悲惨なことになるため、きちんとした知識は必要ではあるがな。
「はい、大分お米がキレイになりましたね。じゃあ今度は水を入れて火にかけましょう。水の分量はお米の上に手をおいて……こんくらい!」
ぶっちゃけ俺はいつもかなりアバウトにやってるので説明も雑である。しかし、こういうのはあまりキチキチっとやっても軍隊めいてしまって楽しみが失われるためコレくらいがちょうどいいのだ。
別になにかの育成のためにやってるサマーキャンプとかじゃないからな。あくまでも父と子の触れ合いイベントなのだ。
そして米を火にかけ終わったらお待ちかねのカレーの支度だ。
カレーは本来難易度が低いお手軽料理ではあるのだが、残念ながらまだカレールーの開発はしていない。故にまともに作れるのはウサ族の調理人、ヒゲミミ村の調理人、マリーノ村の調理人、そして俺くらいしかいない。
なので皆には味付け以外の部分を共同でやってもらうことにした。
流石に鍋はグループごと4つに分けて作るが、最終的な調整は俺がそれぞれ回ってやるというわけだ。
調理自体は簡単なので、各グループ特にトラブル無く作業が進んでいる。BBQに引き続き、嬉しそうにナイフの使い方を教える父の姿がアチラコチラで見られる。
「ほら!ママ!ダメだよ皮はもっと薄く剥かないと」
「母上、刃物はそう持つと危険……ヒャッ!はあ、指を切り落とすかと……」
「お母さん、ゆっくりでいいからね?ちょっとずつ頑張っていこうね」
……うちの親はダメだな……それに比べて子供達のたくましいことと言ったら。
「ユウ!味見係はまかせてほしいのじゃ!」
「うんうん、マルリさんはそのままでいてくれな」
一通り出来たようなので、マルリさんを引き連れ味付けをしていく。今回は子供達に合わせて甘口にしているが、マルリさんもニッコリなので味に問題はないだろう。
「あ、そろそろ飯盒を火から下ろしてひっくり返しておいてな。焦げちまうから」
さて、俺の秘術を見せる時が来たか。参加人数はかなり……、親子合わせて40人は居る。チンタラやってたら日が暮れる……いやもう暮れてるか。
ボックスからストックしておいた生のハンバーグを取り出し、大きな鉄板にどんどん置いていく。
それを片っ端からひっくり返し、両面をそれなりに焼いたらすかさず蓋をする。
ハンバーグは焼くのが結構面倒だよな。適当にやっちゃうと内側が生になっちゃうしさ。
ホントはオーブンを使えば確実で良いんだけど、キャンプだからなあ。
ジュウジュウという音と、肉が焼ける香りにつられ何人かのオヤジや子供がフラフラと寄ってきている。彼らももう限界が近い。
「よし、そろそろいいだろう!みんな飯盒から皿にご飯を盛るんだ。その白いごはんはな、パンの代わりに俺が好んで食うやつなんだが、今回作ったカレーとよく合うんだ」
「カレーってあれか、交易場の店でたまに出してるやつか!あれはうめえな!」
「アレにもっと美味い食い方があったのか!」
「父ちゃんたちだけずるいぞ!そんなの食ってたのか!」
「ははは、もう少し大きくなったら一緒に行こうな」
そしてハンバーグカレーの盛り付けが終わり、あちこちからつばを飲む音が聞こえる。
「よし、じゃあみんな!今日は1日お疲れ様!では、いただきます!」
「「「いただきます!」」」
微妙にザワザワしていた広場が一気に静かになる。皆、夢中でカレーをかきこんでいるからだ。
「あ、ご飯があるうちはおかわりしていいからな。カレーは痛みやすいし、全部食っちまえ」
「「「うおおおおおお!!!」」」
慌てて食わんでも余るほどあるだろうに。
二日目のカレーは美味い、美味いが適切に二日目を迎えないと酷い目に合うからな。
憎きウェルシュ菌がこの世界にいるかは知らんが、キャンプが原因で食中毒とかシャレにならん。
食事が終わり、皿を洗ったら子供達にはデザートとしてフルーツゼリーを、オヤジどもにはビールを出してやった。
フルーツゼリーの原料はモルモル……ではなく、海藻由来の寒天的なものだ。ウサ族が中々に活躍してくれているようで、各地に置き去り……派遣しているウサ族から定期的に新たな食材が届くのである。
はあ、早く次の土地に行ってウサ族放したい……
案の定何人かのオヤジたちがもっと酒をくれとせがむが、今日はビール3杯までだ。
明日も朝食を作って食べ、無事帰るという重要なミッションが残ってるんだからな。
酔いつぶれて寝坊したら目も当てられん。
その点で1番危険なパンには見張りを4人付けてあるので安心だ。
見張りのうち一人はパンと一緒になって美味そうにビールを飲んでいるが……。
とはいえ、大成功と言っていいこの結果には満足だ。これで明日帰った後子供やオヤジどもは友達や同僚に今日のことを楽しげに話すことだろう。
よそから人を呼ぶために作ったキャンプ場だが、地元の人間に広まっていないのはちょっと残念だからな。まずは地元の人達にここの良さを知ってもらわないと。
ここが成功したらマリーノにもキャンプ場を作ろう。海もやっぱりキャンプ場は定番だしね。
ヒゲミミ村には……作ったらきっと死人が出るから良したほうが良いな。
冬山キャンプはちょっとレジャーとしてはキツいから……