第百七十七話 野営の用意
広場にコーンコーンと小気味良い音が鳴り響く。
オッサン達がドヤ顔でペグを打ち込んでいる音だ。
「いいかい、ペグはそうじゃなく内側に向けて差し込むんだ。そうそう!うまいぞ!」
なんてドヤドヤドヤア!と解説していますが、それもこれも秘密裏に実行した講習のおかげです。
オッサン達が普段使っているテント(と本人たちは呼んでいる)はいいかげんに作った骨組みを地面に刺し、上からボロ布を乗せて適当に固定しているだけのあばら家みたいなもんです。
前も言いましたが、俺が最初に作った草の家、草荘の方が確実に居住性は良いです。
それを思い出し、嫌な予感がしたので前もってオッサン達を集めたのですが……。
◆2時間前◆
パンをきちんと働かせるべく、るーちゃん達に命じて子供達とレクリエーションをさせることにした。
森を散策し、木の実を集めたり、動物……害のない小型の魔獣を観察したりとかそういうやつだ。
正直パンが役に立つとは思わんが、働かざる者食うべからず。
変なねーちゃんが昼間っから寝てる姿は教育に良くないので無理にでも使うというわけだ。
さて、そんなパン達に課せられた真の役割はデコイ。
おっさんどもから子供達を離すのが役割だ。オッサン達にはこれからクールなダディ度を上げる訓練をしてもらうからな。そんな姿を子供達に見せる訳にはいかないというわけだ。
というわけで、俺たちおじさん軍団は管理棟の前に来ています。
「はい、オヤジども注目ー。お前らが普段使ってるテント、アレはダメ。今から真のテントの使い方講習をします」
「なんだと!あれこそテントだろうが!」
「そうだそうだ!いつぞやは良くもぼろ布扱いしてくれたな!」
「うるせえ!あんな隙間だらけのテントに子供寝かせて虫だらけにしてえのか?」
「「「うっ」」」
「今から見せるテントは凄いぞ?そのうち店でも売るから野営が大きく快適になること請け合い!先立ってその使い方を覚えられるばかりか、これから子供達にドヤ顔出来るんだぜ?大人しく聞け!」
「「「はい!ユウサン!」」」
全くゲンキンなオヤジどもだ。
今回使うのは3人用のドーム型テントだ。大体のオッサンが一人、多くても二人の子供を連れてきているので、3人用がちょうどいいと判断したわけだ。あまり大きすぎても大変だし、かと言ってギリギリサイズだと狭くなるからね。
「いいか、こういうのは手早くやらんとカッコがつかん。ただ、今回は子供達と一緒に組み立てるということを頭に入れなければならん。さり気なく手を貸して、子供達に達成感を味あわせつつ、包容力をみせてやるんだ」
俺の支持に従ってもくもくとテントを組み立てるオヤジ達。布にポールを刺している時点では何処か疑うような顔をしていたが、其れが立ち上がり、フックに固定すると歓声が上がった。
「うおおすげえ!本当にテントになったぞ!」
「今まで使ってたのは……ボロ布だ……」
「あんなのに子供を寝かせようと思ってたのか……」
「いいか、そこのオヤジのテントを見ろ」
俺に指されたオヤジが嬉しそうな顔をする。
「あれは悪い例だ。一見ちゃんとできているが、ペグの向きが逆なんだよ。これは反対、テントの方を向けて斜めに刺さないとすっぽり抜けちまうんだ」
褒められるかと思ったオヤジはがっかりとした表情を見せ、他のオヤジは胸を撫で下ろしている。
「他のオヤジたちにも何人か同じミスをしたオヤジが居ます。良かったな、本番じゃなくて。ぺちゃんこになったテントで子供から冷ややかな視線を向けられるところだったぞ」
そう言うと慌てて自分が立てたテントをチェックに回るオヤジたち。胸をなでおろすもの、慌てて直すもの様々だ。
「今ホッとした顔をしたオヤジ達、それはたまたま運が良かっただけだからな?どうせペグの向きなんて気にしてなかったんだろう?今練習したことをきちんと覚えて備えろ!いいな!」
「「「はい!」」」
その後、もう一度初めから組み立て直し、分解と組み立てを完璧なものにした。エルフだけあってこういう事の物覚えはすこぶるいいんだよな、こいつら。流石森の人と言うべきか。耳は普通気味だけど。
◆◇◆
手が早いグループは既に立て終わり、中にはいってはしゃぐ子供の声も聞こえてくる。
いいですよね、テント。コレがあるだけで一気にキャンプ感が増すもんね。
「父ちゃんいつも狩りの時こんなのに寝てたのかあ!いいなあ!俺もなろうかな!狩人!」
「おう!狩人は良いぞ!お前にもそろそろ弓を作ってやらんとな!」
「やったあ!約束だよ!」
親子の会話が聞こえてくる。どうだいどうだい、普段ろくに興味を持ってもらえなかった自分の仕事を語れてうれしかろ?うれしかろ?
念のために一通りぐるりと見て回ったが、どのテントも危なげなく組み立てられていてなによりだ。
……うち以外は。
「あ!ちょっとユウ!これどうやるの!なんどやってもだめなのよ!」
そうか、こいつらにはちゃんと組み立て方教えてなかったもんな。
うちは人数が多いため、大型のテントというのもあって中々に苦戦している。
「しょうがねえなあ、どれ、ちょっと貸してみろ。あ、パンはそっちを支えて。るーちゃんはこれをもっててね」
パタパタと指示を出しつつ、適当に済まされていた箇所を修正していく。どう考えたらここにコレを通そうと考えるんだ?なんて思っちゃうけど、知らなきゃしょうがないからね。
「せーの、よいしょお!」
テントを広げ、ペグに固定する。明らかに他のテントより大きなものを見てよその子たちも集まってくる。
「わあ!凄い凄い!うちのテントより凄いな!」
「ああ、うちは子供が多いからな。でも、大きいだけで組み立て方は同じだよ。お父さんからやりかたきいただろ?意外と簡単なんだよ」
「うん!俺も手伝ったよ!でも、お父さんみたいに上手くは出来なかったんだ。お父さんってすごかったんだなあ」
こういうさり気ないところで株を上げてやる俺マジ天使。
デカいだけで子供達の興味を奪ってしまったのはまずかったかなと思ったが、凄い凄い!と興奮しながら見てるのは子供だけじゃなくてオヤジ共もだったので気にしないことにした。
「ユウさんこのデカいのも売りに出すのか?凄いぜコレ、狩りの拠点にぴったりじゃねえか」
「ちょっとでかすぎると思うんだが、まあ中で色々出来るしな。悪くはないだろうな」
っと、だんだんに日が暮れてくるな。夕食の用意もしなくては。
オヤジどもに魔導ランプと寝袋を配布し、広場の中央に集まるよう支持を出す。
「受け取った道具をテントに置いたら中央に集合な。今から皆で今夜のご飯をつくります」
「「「わーーーー!!!!」」」
昼間のBBQがよほど楽しかったのか、子供達が興奮して歓声を上げる。
ふふふ、今夜は楽しみにしておけよ。アレを作るからな。
其れを察知したのか、さっきからマルリさんがめっちゃ尻尾を振りながら俺にしがみついている。
「ユウ、ハンバーグ!ハンバーグも入れよう!」
「……余裕があったらね」