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第百七十六話 ダディクール……

 遊具広場に戻り、ボチボチと復活している保護者連中を集めた。


「例によって綺麗におっさんどもだけ集まったもんだな……」


「ほっとけ!カアちゃんから『たまには子供と遊べ』と朝から追い出されてきたんだよ!」


「そうだそうだ!ユウがいらん事言うからこんな事になったんだぞ!」


「そうだー!暇な日くらいゆっくり寝かせろー!」


 そのお気持ち、お察し致します。いや実際の所、俺は独身だし、子持ちでもないわけで、さらに言えばうちの子達はみんなしっかりして手が掛からないので育児の悩みなどわからないわけだが。


 それでも、休みの日くらい寝ていたいってのは痛いほどわかるぞ。


 でもな、だからこそ……だからこそなんだ。


「お前らさ、最後に子供と遊んだのいつだ……?」


 俺の一言におっさん共が軽くザワつく。


「いつってそりゃ……」

「ええとあれは……?」

「うっ……頭が……」


 思った以上にだめだなこいつら!いや、むしろこの場所をアピールするのには絶好の人員と言うべきか。


「お前ら大体が狩人だったり、冒険者だったりするだろ?農家の人や街の職人達はさ、子供達に自分が仕事をしてる所を見せられることも有るわけだが、お前らは違う。子供達からすれば『休みの日何時も寝てるオッサン』でしかないんだよ」


「「「うっ」」」


 何人かの心にグッサリと突き刺さったようだな。


「かといって、狩や魔物と戦ってる姿を見せるのは難しいよな。でもさ、森やダンジョンでさ、野営することってあるじゃん。あれって結構かっこいい姿だと俺は思うんだよ」


「あれがかっこいいのか……?」


「ああ、増してだ、普段ゴロゴロしてるオッサンがキビキビと子供達が出来ない作業をこなしたらどうだ?」


「……やだ…かっこいい……!」


「だろ?てわけで、今後の相談なんだが……」


 俺の提案した『やだ……ダディってこんなにクールだったの?』ミッションが今ここに始動した。



 鼻が利く子供が異変に気づく。


「あれ……何だろこの匂い……?何か燃えてるような……?」


 その声を聞いた子供達がなんだなんだと集まって、やがて何かをしている父親たちの姿に気づく。


「父ちゃんなにやってんだ?」


「おう、マツか。見りゃ分かんだろ、火を起こしているのさ」


 おっさん達がやっているのはデカいBBQコンロに火をおこす作業だ。俺が用意した炭に手際よく着火していく。炭火を起こすのって普通にやると地味に手間がかかるんだよな。

 炭をキチンと並べ、着火剤や杉の葉なんかの燃えやすい物を使って火を付け、後は地道に風を送って火を安定させる必要がある。


 昔やったBBQが最悪だった。中々火がつかない中、辺りはどんどん暗くなっていって……生の食材を前にして鳴る腹を宥めるという拷問だった。


 しかし、このおっさんどもは普段から似たような事をやっているため、テキパキと手際よく作業している。


 また、別のオッサングループは肉や野菜をナイフで切り、鉄串にどんどん刺している。その手際もまた、普段狩りをしている連中には手慣れたものなので素晴らしい。


 子供達はそんなおっさん達……いや、父親の姿をキラキラした目で見ている。子供にせがまれ、炭を扇がせている者、ナイフの使い方を教える者、一緒に肉を焼く者、それぞれが自分の子供達と共に作業に没頭している。


 おっさんどもがキラキラしている……!まるでこの後浄化してしまうかのようだ!


「わあ、父さん!またすごいことやってるね!みんな父さんのおかげで楽しそうにしているよ!」


 パアアァァァ……


 うおっ!あぶねえ……浄化しかけたのは俺だった……。ほんとティーラはいい子だな……。


「よし、ティーラ!ルーちゃん達も呼んできな!俺たちも一緒にやろうぜ!」


「やったーー!」


 しっかりしているように見えてやっぱりまだまだ子供だな。他の家族を微笑ましそうに見つつも、何処か羨ましそうにしていたからな。


 当然俺らもやるにきまってるじゃんっ


 あちらこちらから肉を焼く香りと子供達の歓声が聞こえてくる……いや……おっさんたちの歓声もかなり聞こえる……こいつらどんだけ肉が好きなんだよ。


 おっさん達は俺と目が合うとニヤッと笑って親指を立てている。どうやらダディクール……と言われまくってご機嫌のようだな。


 まだまだ君達の株を上げるイベントは目白押しだからな!覚悟しておいて欲しい。


「ユウー、こうやって焼いて食べるお肉もおいしいね!」


「父上!私が焼いた肉を食べて下さい!」


「あー私のマサモ食べたの誰ー」


「ユウ!ちょっとビール出しなさいよ!」


「このタレも美味いのう」


「ユウ!ちょっと!ビール!はやく!約目でしょ!」


「お父さん、おいし?」


 うちの子達もご満悦で何よりだ。クロベエ一家もしっかりと肉塊を召し上がって揃って尻尾をブンブン振っている。あいつらは普段からつるんで狩りをしているからな。小春にとっちゃ両親の活躍は見慣れたものだろうな。


 しかし、子供達から焼いてもらう肉は美味いなあ。ビールもまた冷えててすっげえ美味い。


「あ!こら!一人で!ビール!飲まないで!よ!!!!」


 最初はクロベエと二人で食べた飯も今やこんなにも賑やかだ。あの時は鉄の串なんか無かったから木の串に刺して遠火でじっくり焼いて食べたんだよなあ。


「いたからね?そこに私もちゃっかり混じってたからね!ほら!あんたの仮想奥さん!綺麗な奥さんよー?ビールを!ねえ!ちょうだいよお……欲しいのお……ねえ……」


 塩が欲しくて岩塩を掘りに行ってさ、其れがまさか後のルーちゃんに繋がるなんてなあ。


「もう……我慢できないの……ねえ……おねがい……ユウ……」


「くそが!!!!変な声で妖しいおねだりすんな馬鹿!おっさん共が困った顔でこっち見てんだろうが!」


 ったく、この世界の思い出にも浸れるようになったんだなあってしみじみしてたらコレだよ……。


「あーはいはい!飲んで飲んで!飲んでいいけどその分午後はちゃんと働くんだぞ!」


「うんうん!うまい!うまい!聞いてる聞いてる!働く!うまいうまい!」


 ぜってえ飲んだくれて寝るやつだなコレは……。

 



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