第百七十五話 森のキャンプ場
昨夜の宴はひどかった。
酔った勢いでティーラとアーシュの紹介をしたまでは良かったが、その後男どもにもみくちゃにされ、有りもしない架空の「よるのおはなし」を根掘り葉掘り聞かれる羽目になった。
気づけば「性豪」の称号を授けられていたが、翌朝ほんのりそれを思い出した時は心から別の世界に転移したくなった……。
ロボットが居るファンタジー世界とかに飛んで女の子PTでハーレムしたいょ……
こんなだめな世界はもう嫌だょ……
ま、ティーラとアーシュがとても楽しそうにしていたから其れは良かったんだけどさ。
今までずっと頑張ってきた分、これからはこうやって息抜きをしてもらいたいね。
酔い覚ましを飲んで昨日の色々とさよならバイバイしていると、まだ朝だと言うのにガヤガヤと声が聞こえる。
なんだい、うるさいなと別荘の扉を開けば村人たちがドヤドヤと集まっていた。
あれ……?僕また何かやっちゃいました?
「あ!ユウさんだ!ユウさん!昨日言ってた遊び場に案内してよ!」
「明日連れてってやるって言ってたよね!早く!」
やいやいと騒いでいるのは子供達。セットで辛そうな顔をした大人達の姿も見えた。
ジワジワと記憶が戻ってくる。
『そうそう!新しい遊び場さ、正式に開放するから皆もどんどん遊んでくれよな!』
『場所がわからない?ウサ族区画の方にあるんだが……まあいいや、明日連れてくよ!』
『子供達だけでも良いけど、狩人のおっさんたち、子供にいいとこ見せるチャンスだぞ』
……なんか色々宣伝した気がするな。
作ったはいい物の、よそから人が来にくい以上あまり盛り上がらないと特に村では宣伝していなかったアスレチック付きのキャンプ場。
子供達が大人たちほど楽しめない大宴会の代わりに翌日子供達のためのイベントを開こうと宣言したのだった。
キャンプ場のお披露目を兼ねた一泊二日のお泊まり会、それをやろうと話したんだった……。
俺はどうも酔っ払うと調子に乗るふしがあるな。お酒は自重していかなければ。
◆◇◆
張られたロープを滑車がついた綱でワーッと行く例のアレや、巨大滑り台、登ったり降りたり飛んだり跳ねたり網登ったりくぐったりするアレとか、コレとかソレとか、所謂アスレチック!って感じの遊具たちで子供達がギャッギャと魔獣のような声を出し楽しんでいる。
ブランコや雲梯、登り棒と言った公園的な遊具もそれなりに人気で何よりだ。
保護者達はそんな子供達をぐったりと疲れた顔で眺めているが、彼らの出番はまだ先だから今はそうやって休んでいて欲しい。
管理棟に移動し、そこに詰めさせたウサ族、コールとパタに命じて俺が作ったキャンプ道具をどんどん棚に仕舞ってもらっている。流石に素材まで同じには出来ないが、それでもそれなりにまともな性能のテントや寝袋を作ることが出来た。
それに加えて調理器具や食器といったものもきちんと用意して収納してもらう。一気にドバドバとだし、後の管理をしばしの間ウサ族共に任せ、もう一つの用事を足しに移動する。
ぐるりと敷地内を探すと、うちのちびっこ達は仲良く並んでブランコを楽しんでいて、その様子をティーラがニコニコと眺めていた。
さらにその様子を少し離れたところからアーシュが嬉しそうに見ていて、ぱっと見る分には非常に和む空間ができあがっているのだが、よく見るとティーラの脇には未だ酔から醒めずに青い顔をしてだらりと寝ている女神が居るのだから和まない。
あまり人に見せられない表情をしていなければ、昼寝をする母に寄り添う娘という尊いシーンに見えなくもないのだがな。表情がなー
「ティーラ、ちょっと相談があるんだけどいいかな?」
俺が声を掛けると、パアっと花が咲いたかのように可憐な表情でこちらを振り向いた。
「父さん!楽しい場所を作ってくれてありがとう!それでどんなお話?」
くっ……!危うく浄化されるところだった……。土属性ではなく、聖属性のコアなのではないか?
「ティーラさ、種創造ってスキルを持ってるよね。それってどういうスキルなんだい」
自らのスキルに触れられたのが嬉しかったのか、目をキラキラとさせて語ってくれた。
やばいな……、俺本当に浄化されちゃうよ……。
「種創造は、元となる植物が無くても種を生み出すことが出来る豊穣スキルだよ。この能力で産み出した種は、成長が早く収穫量が倍増し、味もまたとても良いものになるみたい。
……ダンジョンでは使う機会がなかったので、試したことはないけどね……」
ダンジョンじゃな……そうだよな……。
「元となる植物が無くても出来るって話だけど、ティーラが知らない植物でも其れは可能なのかい」
「うーん、出来れば加工済みでも元となる植物の一部があればなんとか出来るよ。あと、成功率は下がるけど、父さんが私にしてくれたように絵を書いてくれればそれでも出来なくはないよ」
なるほどなあ。元となる植物も何もこの世界に無いものだからな……いや……、まてよ、あるぞ!
俺が欲しいのは言わずもがな「米」だ。この世界のどっかに原種が眠ってそうな気がするんだが、なんかもう面倒なのでティーラが出来るって言うならやってもらおうと思ったわけだ。
そしてその米、以前俺が我慢できなくて女神をパシらせてあっちから買ってきてもらったのがちょっと残っているのだ。
俺の「製造キット」でも種を作ることは出来るが、あくまでも其れは加工前の植物が無ければ不可能だ。一応試しては見たんだけど、流石に精米した米から種籾を作るのは無理だったのだ。
ボックスから米を取り出し、ティーラの手のひらに何粒かのせる。
「コレなんだけど、出来るかい?米という俺が住んでる異世界の穀物なんだけどさ」
しばらく手のひらで転がしたり、つまんだりと物珍しそうに米粒を弄っていたティーラだったが、出来ると確信したのか力強く頷いた。
「なるほど、ミーンの様な植物だね。これは殻を剥いて白くなるまで削り食べやすくした状態かあ。
うん、大丈夫出来るよ!種にも出来るし、そのまま植えて一気に育てることも出来るよ!」
「まじかよ凄えなティーラ!じゃあ、小袋に一つ渡すから、其れ全部種にしてくれ。俺は育成スペースを作るからさ」
開拓キットを立ち上げ、キャンプ場の裏手をちょっと開墾し、近くの小川から水を引いて小さめの田んぼを作る。ここは用が済んだら池にでもすればよかろう。
その近くに苗になるまで育てる畑を作り、ティーラの様子を見に行く……ってティーラ来てたわ。もう出来てたわ。
「はい、父さん。種だよ。そこの畑で育てるのかな?」
「ああ、そうだ。種まきは俺がやるからティーラは苗に鳴るまで育ててくれ」
スマホに畑を映し、範囲選択をして一気に種を蒔く。きちんといい具合に植えてくれるから楽だわい。
其れが終わるとティーラが畑に手をかざし、えいえいと可愛らしく動作をする。
それに合わせてニョッキニョキと発芽し、あっという間に苗にまで育つ。
この子のほうがよっぽど女神らしいな……。
今度はその苗を田んぼに植えていく。無論、これもスマホ頼りだ。子供達を呼んで田植え大会!ってのも考えたが、想像するだけで腰が爆発したから止した。
それは今後、村人に米を広める際に改めてやればよかろう。無論、その際俺は一切田んぼに入らない。
腰がいくつあっても足りないからな。
そして再度ティーラがえいえい♥とやると、稲たちもきゃっきゃ♥とスクスク育ってあっという間に黄金色に染まっていった。
ここまで来るといっきにぐっとくる。田んぼだ……お米だ……。
ちょいちょい女神が買ったのを食べていたけどこうしてみるとやっぱり感動するな……。
風を受け、サラサラと鳴る稲穂の音、光を浴びて黄金色に輝く稲穂……いつまでも見ていたくなる郷愁の景色……!
容赦なくツールで収穫し、結構な量のお米を手に入れることができた。郷愁なんて俺には毒だぜ!
ツールを弄る際にちらりと視界に入った時刻を見るにそろそろお昼か。
よし、昼は適当にBBQでもして盛り上げておくか!あいつら肉やっとけば元気になるからな!