第百六十六話 我が村にも何か欲しい!!
シゲミチ君に何を頼まれていたか忘れちゃったので、直々に村役場に行って話を聞くことにした。
「困ってることだって?あるぞあるぞ!俺の仕事量がまずな!」
キンタは無視をしてシゲミチ君と向き合う。
「ええと……非常に言いにくいし、困っていると言うほどではないのですが……」
と、多少言いにくそうにしながらもシゲミチ君がおねだりをしてきた。
「ヒゲミミ村には温泉と雪遊び場、マリーノ村には海水浴場がありますよね。でもこの村には何もない!ダンジョンは言ってしまえばユウさん村の目玉みたいな物ですし、そうなるとこの村ほんとなんもねえなあって……寂しくなっちゃって……」
ユウさん村かよ。ちょっと面白かったからつっこまなかったけど、そうかやっぱなあ……ここなんもねえもんなあ……。
強いて言えばアホほど広がっている畑が綺麗と言えば綺麗なんだけど、それって別に遊ぶ場所じゃないからな。この世界の人々にはまだ「綺麗な場所を見て綺麗ねーと感動して満足する」という余裕がない。面白いか美味いか為になるか、そのどれかが満たされない限りは満足することはないし、来ようとも思わないだろう。
交易場があるわけだから、この村まで観光客が来なくとも外貨を稼ぐことは出来るが、それでもやっぱり村に人が来た方がいいものな。ここにもっと人が来れば宿屋も出来るし、酒屋も賑わう。
今でもヒゲミミ村から来てる人がちょっと居るが、文化交流と考えればもっと人が来るようにした方が良いかあ。
つってもなあ、くっそしょうも無い女神の泉()があるくらいで何も……。
そうか、なんも無いこの村でも森はアホほど周りにある。
一つばっかし潰してしまったが、まだ村からほど近いところに小さな森がいくつも残っている。
どういうわけだかこの村は植物周りにやたら強いんだよな……ダンジョン有るんじゃねえか?
ナイナイ。
というわけで、シゲミチ君の手を引き、追いすがるキンタを蹴り飛ばして俺達は森にやってきました。
村から徒歩15分、めっちゃ近い森で魔獣も出ない安全な所だ。
つまり言ってしまえば狩りには使えず放置されてる場所で在り、何をやっても怒られない場所だ。
「シゲミチ君よ、ここに遊ぶ場所を作ろうと思うんだよ」
「ええ、こんな場所にですか?」
「ああ、大人も子供も遊べる場所だ。まあ、この村の連中にはあまり面白くないかもしれんが、余所から来た連中にはたまらない、そう言う場所を今からさっさと作っちまうわ」
「いや……流石にそれはユウさんでも無理でしょ……」
「何を言う、俺なら……あっ設計図……無理だわ」
というわけで、流石に設計図がないと無理なので、さしあたって上下水道要因としてモルモルを連れてくるようシゲミチ君にお願いした。わざわざ連れてきた意味が無かったな。
まず、森に入る道を開拓ツールで切り開き、内側をくり抜くように綺麗にする。
森に囲まれた大きな広場、そんな具合に仕上げた。全て平坦にするのではなく、場所によって高低差をつけ、地形に変化をつけておいた。
地面もガッチリ固めてしまうのではなく、なるべく自然のママ残してある。草木を刈って歩きやすくしてあるくらいだ。
何時ものように作業用の簡易ハウスを取り出して、中で製図作業に入る。と言っても今回は新規に大きな建物を設計するわけではないから仕事は早いぞ。
スマホを開き、結構いい年になった今でも愛して止まないあいつらをイメージ検索し、図面に起こしていく。
一通り書き終わったので、製作キットを使って作りつつ、そのまま広場に設置していく。大物でも作る際に設置場所を指定してやれば基礎を含めてきっちり設置されるのだから楽でしょうがない。
あれから5時間が経っただろうか。広場があらかた出来上がって一人で遊び始めたところでようやくシゲミチ君がモルモル達を連れて戻ってきた。
「……ユウさんなにやってるんすか……」
「何って……シゲミチ君がおせーから……もう終わっちゃって一人で試してたんだよ……」
「キンタさんに掴まっちゃったんですよ……で、これは一体……」
「ふうーはははは!見て驚け聞いて驚け遊んで驚け!これぞユウさんが大好きで大好きで仕方が無いアスレチックだ!」
そう、特に何もないこの土地でもそれなりに作れてしまうアスレチック!
これぞ俺が愛して止まないアスレチックだ!
滑車にぶら下がって移動するアレ!落ちないようにぴょんぴょん跳ぶアレ!縄で作った荒い網を登ったり、丸太で出来た滑り台を滑ったりするアレ!
そんな奴をいくつか設置したアスレチックコーナー!
そしてそれに併設するオートキャンプ場!狩人達はぼろ切れでキャンプの真似事をしては居るが、他の村でそれは一般的ではない。であれば、自然の中俺謹製の「ちゃんとしたテント」に入り「ちゃんとした寝袋」にくるまって寝るのはちょっとしたレジャーになり得るのではなかろうか。
勿論、俺謹製のBBQセットも忘れちゃいけない。テントや寝袋と共に借りることが出来るそれを使ってお手軽キャンプというわけだ。無論、それらを借りたり、食材や飲み物を買う施設も忘れては居ないぞ。
ちゃーんと雪遊び場のを使い回した立派なロッジを建ててある。無論、詰めるのはウサ族です。
「はえー……凄い……凄いですよ!これ!うちの村の人達だってこれなら楽しめると思いますよ。狩人達が家族にドヤ顔出来る良い機会ですもの」
なるほど……そう言う考え方もあるか……。
シゲミチ君に凄い凄いと言われ得意になっていたが、シゲミチ君の顔が急に曇った。
「あ……でも……だめだあこれ……結局うちの連中くらいしか楽しめないや……」
「ええ……なんでさ。他の村ではこれって一般的じゃないし、そもそも森の時点で珍しいぞ」
「それは……そうなんですが……その……。交易場からわざわざここまで歩いてきて……外で寝たいかなって……」
「それは……わかんねえけど……俺なら嫌だな……。途中のブンブンで満足しちゃう可能性がデカい……」
「ですよねえ……」
ぐぬぬ……これはちょっと女神様に相談する案件だな……。