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幼き世界に調律を  作者: 未白ひつじ
第7章
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第百五十七話 れいとうしつ

 冷凍女神をその辺に転がして冷凍庫の説明を始めます。


 ゴトリと硬い音を立ててどかされた女神を住民たちはチラリと見るが、特にそれに対してなにか言うこともなく、微塵も気にしてはいなかった。


 普通であれば人が凍っているというのは軽く大事になるのだが、この集落の人達は凍結という事象を知らないし、例え知っていたとしても「ああ、またユウさんの奥さんか」で済まされてしまうのだ。


「ユウさんの奥さんはちょっと変わった人である」というのは総ての村において共通している認識なのだ。


 ……事情があるにしろ、奴を奥さんと言われるのはちょっとアレなんだが。


 しかし、せっかくなので利用させていただこう。これ以上わかりやすい教材も無いからな。


「はい、この足元に転がってる魚、美味しいですよねマグロ。このマグロは今「凍っている」状態です。この状態の食べ物は非常に腐りにくく、このままの状態であれば1ヶ月は軽く持ちます」


「いっかげつ……ってなんだっけ」


「ほら、この間勉強会でやっただろ、朝を30回くらい迎える事だよ」


「ああー」


 日付の概念もじわじわと広がってるな。数や文字があるのに日付の概念が無かったとかほんと適当だよなあ……。まあそのおかげで暦の実装が楽だったんだけどさあ。


「で、こうやって暖かい所に出すとジワジワと「解凍」され、暫くすると元の状態になります。その状態では凍らせていない物と同様に痛むので注意が必要です」


 ここまで説明すると流石に女神の事が気になってきたらしい。


「で、この部屋に長いこと閉じ込められるとそこで転がってる馬鹿……パンの様になってしまいます。コイツは頑丈なのでこの程度では死にませんが、普通は死ぬので冷凍室を利用する際は必ず二人以上で組になり、片方が外で待機するようにしてくださいね」


「やっぱあの状態はまずいんだな」


「あれを使えば長生き出来るんじゃないかってちょっと思っちゃった」


「あの人の真似はしちゃダメだってことかあ」


 さり気にコールドスリープを思いついたやつが居るな。だめだぞ、まともな人は真似をすると死んじゃうからな。


「今日からもう使えるから、獲ってきた魚でその日食わない分は箱に入れてここに入れること。で、ここから出して食べる際には古い順番に出して食べること。腐りにくいだけであって、腐らないわけではないからな」


 とまあ、こんな具合に冷凍室の紹介は問題なく終わり、続いて砂糖工場の説明のため移動をした。


 砂糖工場は冷凍室からほど近い場所にある。将来的にはこの付近に魚の加工場を設け、交易用に色々作ってもらおうかなと思っている。干物や練り物を作る工場なんてものがあってもいいしね。


 ちなみに塩の工場はない。


 はじまりの村の連中は勿論、ヒゲミミ村の連中は岩塩を手に入れることにより、塩を得ていた。

 であれば、海にほど近いというか海の上に住んでいるここの住人は海水塩を使っているのではないかと思っていたのだが、塩が海水から作れるということを知らなかった。


 かといって岩塩の存在を知っているわけでもなかったわけだが、だからといって料理に塩が使われていないということもなかった。


 これにはこの世界のノリに慣れつつある俺も首をひねったわけだが、ハンナにそれとなく聞いてみたら一瞬で謎が解けた。


 謎は解けたが、俺の脳も溶け、半日くらい何もやる気が起きなくなってしまった。


「塩はどうやって手に入れているのだ」と、尋ねる俺に「塩?有る所から持ってくるんだよ」と答えるハンナ。岩塩がないのにどういうこっちゃと首を傾げていると「案内するから付いてこい」と。


 へいへいとついていった先は小さな小屋。入った瞬間に総てを悟ったけど其れは気のせいであってほしかった。


「ほら、これから塩をとるんだよ」


 そうハンナが言って指をさすのはツボ、壺である。


 遠い昔にご先祖様が海から拾って来たという塩が出る壺とのことだが、取れば取るだけ補充がされけして尽きることがないという。


 これは絶対アイツが海水を作るため海に投げ込んだやつだ。


 恐る恐る後から女神に聞いた所


「ああ、そんなのもあったわねえ。10年位ほっといたんだけど特に海水になる様子がなかったから存在を忘れてたわ。そっかー拾われてたかー」

 

 と、何故か感慨深そうに目を閉じていた。


 これには流石の俺もぐったりですよ。ほんと良くこんな愚かな奴が世界創造なんてしてくれやがったもんです。


 結果的に住人たちは楽に塩を得ることが出来るようになったわけだけど、その代り塩を作って文化レベルを上げるという大切な物を失ってしまったわけだ。


 ほんとひどい世界だ!



 砂糖工場は現在ウサ族が取り仕切っている。砂糖の甘い匂いにつられて名乗りを上げた鳥や龍共が名乗りを上げて何人か弟子について作り方を習っているため、時期に住人たちだけで回せるようになるだろう。


 辺りに漂う甘い香りにサクサクを思い出しソワソワし始めるものもいたが、特に暴動にはならなかったので助かった……。


 これで漁業と砂糖製造という産業が産まれた。後は海水浴場を作れば当分は立派に交易出来ると思う。

 ウサ族に習って海ならではの料理をどんどん開発してもらうのも大切だろうな。


 まだまだ足らないものはたくさんあるし、やることも多いけれどだいぶマシになってきたよな、この世界。


 ……しかし、最近のアイツはほんと良く寝ているよな。

 元々怠け癖が有るやつだとは思っていたけど、最近のはちょっと流石におかしく思う。


 いくらあの馬鹿でも海中や冷凍室で寝てしまうのはちょっとどうかしてると思うんだ……。


 心配なわけじゃあないけれど、後でちょっと話してみようかな……。

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