第百五十五話 ひろいもの
マルリさんを小脇に抱え、案内されるまま海に向うと明らかに何かが居た。
波打ち際でピチピチと切なげに尾を振る妙にでかくて長い何か。
近づかなくてもわかるぞ、ああ、アレが何か分るぞ。
竜の様なそれは図鑑によると「リバイアタン」と言う名前らしい。
あの野郎命名が面倒になって割とそのままつけやがったな。
「これこれ、君達。亀をいじめるのは辞めなさい」
「かめ?これかめっていうの?違うって言ってるよ」
「うん、リバイアタンだね。これどうしたの?」
「海で鬼ごっこしてたら混じってきたんだよ。そのうちお昼寝してたママを飲んじゃったから返してって言ったんだけど、言うこと聞かないからみんなで尻尾を引っ張ってここまで持ってきたの」
そうかあ、ママを飲んじゃったかあ。良い子と仲良くなったなあ。
「で、この子なんて言ってるんだ?」
「此奴は母上を返すので許して欲しいと言っています」
返さなくて良いんだけどな……。
あ、そうだ。良いこと考えた。
「なあ、すーちゃん。こいつのご主人様になってみないか」
「えー?めんどくさいー」
「いやいや、すーちゃんのダンジョンって神殿を護る強い魔獣が居なかったよね?こいつに護らせたらすーちゃん楽を出来るぞ」
「楽ー?そっかー、じゃあ手下にする-」
「るーちゃん、ちょっとこいつとお話し出来るようにしてくれ」
「はーい」
「んん、リバイアタンよ、俺はこの子達ダンジョンコアの創造主である」
「む、創造主?創造主とは神か。お主は偉いのか?」
「ああ、偉い。ちなみにお前が飲み込んでいるのは女神だが、俺はそいつより偉いし、女神は別にそのままでも良い」
「う……俺女神様を食ってしまったのか……いや、腹を破られても嫌なので出す……」
そのまま消化してしまえば良いのにと思ったが、腹を破られても……という下りが面白かったので許した。っていうか、何かにまみれてデロデロになってまで熟睡している女神が酷かったので百点を上げたい。
ムービーで撮りました。
「というわけでさ、お前水のダンジョンで門番やれよ」
「ええ……」
「今は暇だけど、そのうち人間達が沢山お前と戦いに来るぞ。お前も人間も死ぬことが無い特別な加護を与えてやるから好き勝手戦う事が出来るんだぜ」
「むう、それは良い暇つぶしになりそうだな」
「後から話が違うと言われるのは嫌だから先に行っておくけど、暫くはこねーからな。そのうちはあくまでそのうちだ。それまではダンジョン内で他の魔獣とじゃれあってたらいいさ」
「しかしな、それだけじゃな」
「どうもダンジョンに棲むと稀に特殊能力が芽生えたり、今より強くなったりするようだ。俺の知ってる魔獣で知能が以上に発達した奴も居るし、進化をして姿を変えた奴まで居るんだぞ」
「何、それは本当か。既に極めたと思っていたこの身体、小さきダンジョンコア達に良いようにされて悔しかったのだ。鍛えられるなら喜んでいく」
「まあ、コアは特別強いから仕方ないけどな……じゃあ、すーちゃんと契約して眷属になってやってくれ」
「うむ、すーちゃん様、よろしく頼むぞ」
「うんー、私の代わりよろしくね-」
女神がそしらぬ所で淡々と水のダンジョンが育ってしまった。
しかし、この女神この集落に来てから寝てばかり居るよな……。
バカンスだーって海が綺麗な島なんかに行ってずっと寝て過すタイプだなこいつ。
「っと、リバイアタンよ。後でダンジョンに移動させてやるけど、一つ注意して欲しい」
「む、なんだ」
「お前が暴れていいのはあくまでも湖底神殿周辺だけだからな。多少散歩するくらいなら良いけど、あんまり遠出はしないこと。それと、くれぐれも水際に近づいた人間を襲わないこと」
「うう、しょうがない約束しよう」
「破ったらタルットといううるさいのを沢山送り込むからな」
「む!タルットはやめてくれ!あいつらは面倒なのだ!」
……タルットをご存じ?もしかして海タルットという亜種もいるのかしら……。
うう、嫌だ嫌だ。嫌なことを聞いてしまった。
「う、うむ。そう思うのならくれぐれも間違いは起こさぬようにな。俺もあいつらは嫌だし」
「お主、名を聞いていなかったな」
「ああ、俺はユウ、ダンジョンコア達の父親で在り、タルットを憎む者だ」
「人間にも話が分る奴が居たとはな……お主と我は種を越えた友情を育めそうだぞ」
リバイアタンのでけえ手と握手を交わし、ひとまず海に戻してやった。
海面から顔を出し、手を振って去って行くリバイアタン。中々可愛い奴だ。
「しかし、君達あれはお手柄だよ。良くやったね」
子供達の頭を順番に撫でてやると嬉しそうに目を細める。ああ、いいね……。この平和な時間、いいね……。
「水のダンジョンの他にさ、ルーちゃんに「海のダンジョン」を作って欲しいと思うから、今のうちにお友達色々作っといてくれよな」
「はーい」
「みんなもルーちゃんのお手伝いお願いね」
「わかりました!」
「わかったー」
「のじゃ!」
マルリさんは俺と飯食ってて欲しいけど……まあいいか。てか「のじゃ!」て。
平和で穏やかに流れる時間を満喫していると、ぬるぬるねばねばした塊の中からうめき声が聞こえる。
「うう……なによこれ……うわあ、すっぱなまぐさい……」
何だかとても嫌な気分になったので集落に戻ることにしました。
今日はもう疲れたし、帰ってご飯のしたくでもしよう……。
明日から忙しくなる彼らのためにうまいもんでもこしらえてやらんとな。