第百五十一話 ちょいちょい気軽に帰る男、ユウ
というわけで、今日は俺単独で始まりの村に行くことになりました。
なんの用かってそりゃ可愛い可愛いシゲミチくんとザックくんをさらいに来たわけですよ。
これから忙しくなるあの集落に彼らが居ないと俺が身動きできなくなるからな。
張り切って働いて貰おうというわけです。
というわけで、水のダンジョンから塩のダンジョンに抜けたわけですが、予想外に賑わっていて驚いた。
あっちに旅立ってから2週間も経ってないと思うのだが、ダンジョンを目指す冒険者達でかなり賑わっている。
ギルドのリリィに話を聞いてみれば、魔石の需要が高まったのと、腕試しにやってくるヒゲミミの住民達で登録者数が一気に増えたとのことだった。
また、先日フロアマスターがあと一歩の所まで追い詰められたという話も聞いた。
ううむ、中々育ってきたじゃ無いか、冒険者共。だが、湿原を抜けると森があり、その先には冬の森だ……くくく……エクストラダンジョンへの道はまだ先だぞ……。
ルーちゃんの枠がまだ余ってたはずだから、海のダンジョンを作って貰うのも良いかもしれないな。水のダンジョンはあくまでも水中のダンジョンだけど、砂浜と海がある海のダンジョンってのが別にあっても良いだろう。
この間デカいカニやトド見たいのを見つけてたから他にも色々面白そうなのをスカウトできそうだしさ。
そういやルーちゃんのレベルを暫くチェックしてなかったな。後で見てみないとな……。
リリィをクッキーで労って別れた後はついでに交易場を見に行くことにした。
交易場もまたかなりの賑わいだ。
肉や野菜を求めるケモミミの人々、マサモ酒を求めるおっさん達……いや武器や唐辛子なんかもそれなりに売れてるんだけど酒屋の賑わいが半端ねえぞ。
酒屋は酒の販売の他、立ち飲み屋も兼ねているようでそれで余計に人が集まっているようだった。
その客の中で知った顔を見つけた。
「バーグじゃないか!久しぶり!」
「お!ユウか!いやほんと久々だな!元気だったか?」
知った顔といったが、正直未だに区別が付かん。「バーグ」って文字がひょこひょこ動いていたから分ったようなもんだ。
まあ、些細なことだろう。
「今また新しい村を作りに行っててな。今日はちょっと用事があって戻ってきたとこなんだ。
それでどうだい、ケモミミ村の様子は。あれから何か変わったことはあったか?」
「ケモミミ村じゃなくてヒゲミミ村だろうに……。まあいい。おかげさまでこっちから客が沢山来てくれてな、温泉や雪遊び場が大賑わいさ」
「おお、それは良かったな!俺も作った甲斐があるってもんだ」
「ほんとユウにゃ感謝しきれないよ。こうして昼間から肉を食いつつ酒をやれるのもお前のおかげさ」
バーグの話によればはじまりの村の連中がちょいちょい言っては良い具合にお金を落としてくれるそうだった。
その稼ぎをもって交易場で買い物をしたり、ついでにダンジョンに潜ったりと今までに無い楽しさに若返った気分だと言っていた。
海の集落も海水浴や海釣りで客を呼べそうだよなあ。そうなるとはじまりの村自体の魅力が薄いのが気になってくる。
そもそもあそこは転送門が無いからアクセスが悪いし、行きにくいと言う大きな問題があるんだよな。
女神を騙してなんとか……できねえかなあ。
流石にダンジョンコアの加護が無いところに転送門を置くのは何らかの問題がありそうだ。
ま、そのうち何か考えるか……。
って、一人で来ちゃったけどどうしよう……クロベエが居ねえとはじまりの村に行くの面倒くさいぞ……。
そうだ、久々にあれをやりましょう。
[件名]Re:Re:Re:Re:Re:Re:ログインボーナスについて
『美しい女神様、頭が気の毒な僕は何を思ったか一人で塩のダンジョンに来ちゃいました。
ぶっちゃけ足が無くて困っています。たすけてくだち!
お礼に秘伝の漁師料理を作りますので何卒』
送信、と。
久しくやってなかったから忘れてたけど、馬鹿とメールのやり取りが出来たんだよな。
あいつが入り浸るようになったからめっきり存在を忘れていたぜ……。
っと、返事来たはええな
[件名]一体何時のメールに返信してるのよ!
『手っ取り早く足をそこに送るわ。活用しなさい。
あと漁師料理、期待してるからね!マグロの用意しとくから!絶対よ!』
マグロの漁師料理……ね。師料理っつうか、親父がやってた雑な食い方しか浮かばんがあれはあれで旨いし、文句は言わせねえ。
と、顔を上げるとキョトンとしたクロベエが座り込んでいた。
「あれ、クロベエなんでここに」
「え?あれ?いや、ここどこ……小春は?ヒカリは……?今ごはんを……」
ああ、足ってそう言う……。いやまあ分ってたけどさ……。
「クロベエ、それもこれもあの駄女神って奴が悪いんだ。ごはんだったんだろ?ようし、俺も腹が減ったからまずはそこの店で肉でも食おうぜ……」
「ユウ……」
「クロベエ……」
「どうせユウが呼んだんでしょ、村に行く足としてさ。いいよ肉食えるなら」
バレてたか。