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幼き世界に調律を  作者: 未白ひつじ
第7章
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第百四十九話 ひもの

 集落で休憩していたウサ族達も呼び寄せ、皆で干物作りにチャレンジです。


 俺はこう見えても干物が作れる。それどころか新巻鮭だって作れるぞ!

 新巻鮭、それは苦行。しかしその先には美味しい未来が待っている!


 鮭みたいなのが網に入ってたからやろうと思えば出来なくはないが、この土地では無理だ。

 新巻鮭は晩秋から冬にかけて作るもの。あんなでかい魚を丸干しして熟成させるわけだから低温で乾燥した気候でなければ傷んでしまう。


 もしこの世界で作るとすればヒゲミミ村の入口あたりが良さそうだな。


 というわけで、今回はアジやサバ(の様な魔魚)の干物を作っていきます。


「じゃー、魚を捌くから見てろ!」


「サバクってなんだ!」


 そっからかよお……


 そう言えばこいつら原始的な石の包丁を使ってたな。

 面倒だが、一度道具を配ってしまうか。


 製作キットでわーっと大量生産した万能包丁を1家族1本配っていく。

 家族構成などまだわからないので適当だ。ここは住人の良心に期待するしか無い。


 まず、ウサ族を集めて干物用の捌き方を見せ、覚えさせた。所謂腹開きってやつだ。


 次に料理に自身があるものを中心に俺とウサ族5人の場所に分けて見学させ、それぞれに捌き方を教える。


 今度はそれらの住人の元にも他の住人を生かせて見学させる。


 それを繰り返して取り敢えず全員がぼんやりでも「捌く」というものがどういうものなのか理解してもらえたような気がした。


 ……まあ、何度か失敗しないと覚えるもんも覚えんって事で、こっからはノリで頑張ってもらうしか無いな。


「取り敢えず失敗を恐れず、わからなかったらわかってそうな顔をしてる奴から聞きながらがんばれ」


 無責任な声をかけ、干物作り体験会を進めていく。

 これが上手く行けば産業に繋がるんだ、がんばってくれな。


 さて、俺は次の用意をしておこう。


 でかい鍋を作り、中に海水をたっぷりと入れる。

 これを少々煮詰めて干物を漬ける塩水にするのだ。


「ナーちゃんちょっときて」


「いかがしました父上」


「この中の海水をグツグツと沸騰させてほしいんだ。量が半分くらいになったらおしまいね」


「わかり申した!」


 ナーちゃんが大鍋に手をかざすと間もなく湯気が立ち上り、やがてグツグツと煮え始めた。


 なんて便利な娘だろう。幼女IHっょぃ!


 ……さて、次に干し場だが……、実はこれに関してはクロベエ達が手柄を立てていた。


 昨夜眠れずクロベエのブラッシングをしていると、奴の尻尾に見慣れた葉っぱが刺さっているのに気付いた。

 固く、縁が鋭いその葉っぱは紛れもなく竹。


「でかしたクロベエ!今日何処に居たか事細やかに報告しろ!」


「ええ……そんな事言われても森だとしか……」


「それでもいいから!あ~!わかった、明日の朝一緒に行こう!飯の前に!早起きして!」


「ちょ、何そんなに興奮してるの?わかったから……尻尾の毛が抜けるってば!ユウ!」


 そんなやり取りを経て、今日の朝日が昇るか昇らないかの内にクロベエと共に森に入り無事竹林を発見。

 

 筍は面倒だったので探さなかったが、孟宗竹のように立派な竹を大量に素材として入手することが出来たというわけだ。


 その竹を素材にし、干物を干す台を作る。

 物干し台の様な形だが、細い竿を7段かけることが出来る物だ。


 それを大量に作り、波打ち際からやや離れた日陰に並べていく。直射日光が当たりすぎてもダメだからな魚の干物は。


 適当に20台ほど並べてみたが、余ったら余ったでいいし、足らなかったら足せばいいだろう。

 これが並ぶだけで漁村感はんぱねえな。


 ナーちゃんから火を止めたと報告があったので、鍋の水をたらいに小分けした。

 こうしておけば冷めやすいし、干物を漬ける際に直ぐ行動に移れるからな。


 一通り捌き終わる頃にはお湯が覚めていたので、そこに漬け込んで貰う。


「いいか、ここがポイントね。海水をグツグツ煮て半分くらいになった水がこれです。これにつけることに寄って味がつくし、傷みにくくなるんだ」


「へえ、海水にそんな力があったとはなあ」


「普段塩使ってたら気づきそうなもんだけどな」


「まあ面倒なことはあまり考えんし、わたしら」


 あの親あってこの子ありか。


 最も、子は親ほど馬鹿じゃないからな。言えば覚えるし、小さなヒントから俺の想像以上のことを産み出してくれている。


 ここの連中もそのうち海洋民族として進化していくに違いない。


 親は何をしているかと言えば、ウサ族に詰め寄ってマグロをさばかせようとしている。

 マグロは今夜のお楽しみ。くわせるわけにはいかねえ!


「こらこら、女神様よ、マグロに選ばれし女神様よ」


「ちょ、なによその称号」


「マグロに抱きついたまま水揚げされるとかレアですし」


「あれはなにかの間違いだから。でなによ」


「マグロは今夜の宴会で使うから、今は勘弁してくれよ」


「えーーーだって魚は全部干物にしちゃったじゃないの!お腹空いたのよ!お腹が!」


「じゃあ、自分で取ってきたら好きなだけ食っていいぞ。調理もしてやるよ」


「ほんと?」


「ああ、しかも手伝ってやるぞ。お前をロープに結ぶからさ、そのまま潜ってマグロを捕まえな」


「なるほど!私が掴んで!ユウが引く!ってやつね!」


「……まあ、だいたいそんな感じ!」


「よっしゃ!まかせて!」


 勢いよく海に飛び込む女神、その顔はにこやかで何処か神々しくもあった。女神だし。

 しかし女神(ばか)は忘れていた。自らの身体にロープを結ぶことを。

 


 まあ、暫く静かになるだろうしいいことにしよう。

 


「おーい、そろそろ干すぞー」


 住民を集めて魚の干し方を見せていく。

 エラに細い竹を通し簡単なやつだ。1本に付き10匹程度さして台に置く。


「これを繰り返して全部干してくれ。台が足りなくなったら言ってくれな」


 この作業はさほど難しくはない。

 

 大人も子供も難なく作業を進め、あっという間に終わらせてしまった。


「後は明日にはもう食えるようになってるが、2日くらいで食い切るようにした方が無難だな」


「生よりはもつが、それでも2日かあ」


 干物つっても、ガッツリ水分を飛ばすわけじゃないからそこまで保たないんだよな。

 気候も気候だしなあ。


「魚の保存場所については後で良いもん作ってやるから心配しなくていいよ。折角だし、今日はこのままここで親睦会と行こうじゃないか。俺も皆に話したいことがあるしね」



 皆でマグロをつつきながら今後の話をしようじゃないか。

 

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