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幼き世界に調律を  作者: 未白ひつじ
第7章
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百四十八話 いっちにーいっちにー

「よーし!縄をひけーい!」


 俺の掛け声に合わせ、二手に分かれた住人たちが綱を引いている。

 子供達や猫たちもそれに混じってえっちらおっちら綱引きだ。


 現在我々が何をしているかと言うと、地引網だ。

 袋状に作った大きな網を沖合まで運び、沈める。


 その後、両端に付いた縄を引くことにより水中の魚を根こそぎ頂こうという漁である。


 日本で俺が住んでいる街は所謂港町で、小学生の頃夏休みに浜辺でやったことがあった。

 当時の俺は地引網自体にはさほど興味がなく、待ち時間に泳げると言うのでそっち目当てで参加したものだが、実際地引網が始まってみれば楽しくて仕方がなく、やがて見えてくる大量の魚に胸を躍らせたものだ。


 住人たちはこの様な漁を知らないため、半信半疑で縄を引いているが、一緒に釣りをした連中は今度は何が起こるのかとワクワクしながら引いているようだ。


「そーれいっちにーいっちにー!」


「「いっちにー!いっちにー!」」


 俺の掛け声に取り敢えず合わせ引っ張っている。掛け声に合わせて引くことでなんだかテンションが上ってきたようで、皆にこやかに引っ張っているな。


「よし、そろそろ網が見えてくるぞー!もう一息だ!そーれ!」


「「いっちにー!いっちにー!」」


 暫く引いていると網が見えてきた。ここからが本番だ。


「よし、皆縄から手を離して海に向かえ!波打ち際で網を上げるぞ!」


 網に繋がる細めのロープを皆で引っ張るとやがて目が細かい網が見え始める。

 目当てはマグロなのでもう少し目が荒い網でもいいかなと思ったけど、せっかくだから大漁を味あわせたくて根こそぎいく目が細かいものにしたわけだ。


 そのおかげで中が見えないお楽しみ袋状態になっているわけだが、それが功を奏して賑わいは最高潮だ。


「中で何か動いてるぞ!」


「うおー!本当に魚が入ってるんだな!」


「でかいのも居るぞ……まあいくら魔魚とは言え陸じゃかわいいもんか」


 確かにでかそうなシルエットが見えるな。これは期待ができる。


 皆で協力して波を砂浜に引き上げる。かなり重い、これはいける!


 網を開いていくと、まず細かい魚と中型の魚が目に入る。アジのようなもの、サバのようなもの。これらが全部魔物だというのだから頭が悪い世界だ。


 この時点でもう住人たちは大喜び。ボックスから箱を出してそれにどんどん入れてもらう。

 そして大型魚の姿も混じり始める。ブリのようなもの、サケのようなもの、ヒラメのようなもの、小さいカジキみたいなもの……異世界だからというか、アレが作った世界だから当然なのだが、色々な物がデタラメに泳いでいることがよく分かる。


 そして、いよいよお出まし!


 巨大な尻尾が見えました!5mはあろうかという三日月型の立派な尻尾!

 網をずらせば見えてくる!ああ、旨そうなそのお腹!これは紛れもなくクロマグロ!……に良く似た魔魚。


 早く、早くその御尊顔を……!


 網をえっちらおっちらと取り分けて出ました!まあ!見て下さい!このだらしない寝顔!


 寝顔……。


 マグロの頭をしっかりと抱きしめてだらしなく眠るアレの姿。……何処の世界に水揚げされる女神がいんだよ……ここか。


「……ルーちゃん、やってくれ」


「うん……」


 流石のルーちゃんもこれにはがっかりである。

 悲しげな顔でアレの服にタコのような魔物をいくつか放り込んでいる。


 俺がやれと言ったわけじゃないぞ!やれとは言ったが、タコを入れると判断したのはルーちゃんだから!


 ぬらぬらとしたタコが触手で何をつまんだのかはわからぬが、アレは悩ましげな顔をして身震いをするとゆっくり目を開けた。


「ええ……なにここ……って、うわ!なんか!なにかいる!服!服の中!いやああああああ!!!」


 じたばたと暴れながら網から飛び出したアレはタコもろとも網を飛び出して砂浜で暴れている。


「……よし!では気を取り直して残りの魚もあげましょう!」


 あっけにとられていた住人たちだったが、マグロの姿でテンションが戻り、再び楽しげに魚を取り分けていく。


 漁の結果は上々過ぎるほどの大漁で、大小様々の大量の魚達と3匹のマグロ。

 そのうち一番の大物は馬鹿が抱きまくらにしていたものだったが、まあ見なかったことにしよう。


 しかし魔物の素材で作った網は強いな。カジキみたいなのが入ってたり、大マグロが入ってたりしたのに破れなかったぞ。


 住民たちも地引網を気に入ったようだから、網の作り方を伝授しないといけないな。

 ……まあ、何らかの道具が必要になるかも知れないが、その時はザックあたりと相談で……。


 大量の魚が入った箱を前に悦に入っていると、住人たちが気になる会話をしているのが耳に入る。


「しかし、こんだけの量取ったのははじめてだなあ」


「ああ、でもこれ、食いきれねえな。明日にはもう腐っちまうし何だか勿体無いな」


 今、腐っちまうって言いました?


「なあ、お前らいつも魚取ったらどうやって食ってるんだ?」


「んなもん焼いて食うに決まってるだろ。後はスープにするとかそんなもんだ」


 なるほど、なるほど干物をご存じない。


 幸い取れた魚の大半は干物向けの魚だ。ここはいっちょ干物教室といこうか!

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