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第十五話 肉、それは愛


「ごめんごめん!驚かせちゃってたね!こいつは悪い魔獣じゃないよ!クロベエ、自己紹介しな」


 このままでは初めて会った人類に嫌われてしまう。連鎖的に集落総員敵対まであるわ。ここは必死に無害アピールをしていく!


「びっくりさせてごめんね? おれは クロベエだよ 猫の魔獣?なんだって」


 まだビクビクとしているので、クロベエの頭を撫でながら平気アピールする。


「ほらほら、フワフワだよお 少しくさいけど優しい生き物だよー 噛まないよー 乗れるよー」


 公園なんかで放たれている犬にビクついていると飼い主が「噛まないんで平気ですよお」とか言ってくるが、いくら無害アピールされたところで怖いものは怖いのだって常々思っている。そんな事は経験からわかっちゃいるけどこうするしかない。どんどん手のひらを返していくぞ。ダブスタ最高だぜ!


「ほら、クロベエ、ごろんしな」

 

 クロベエを横たわらせ寄りかかってフワフワの毛に埋もれながら誘惑を続ける。


「ほらー気持ちいいよー 少しくさいけどー」


「ゆう、それ何度も言うと さすがのおれも傷つく……」


「じゃあたまには水浴びしろよ」


「水は…… ぬれるからな…… でもかんがえておく……」


 などとやっていたら女の子がけらけらと笑っていた。どうやら平気アピールは成功したようだ。


「クロベエちゃんはおしゃべりができるんだね! お兄ちゃんと仲良しさんみたいだし、助けてくれたの信じるよ!」


 安心したのか、たどたどしかった口調がしっかりとしてきたな。と、未だしつこく飯を食っている女神をチラチラと見ている。どうやらお腹が空いてるようだな。とりあえず食べやすいスープでも出しておこうか。


 スマホから鍋を出すのを見て不思議そうな顔をしているので、しまったと思ったが、まあ相手は幼女先輩だ。なんとか誤魔化せるだろう……。


 俺が差し出したスープを特に何か疑うこともなく、素直に口にしてくれた。ちょっとうれしい。


「わあ、なにこれ……おいし……!」


 よほどお腹が空いていたのだろう。3杯おかわりした。よく食べよく笑う子はいい子だ!


 すっかり身も心も満たされたようで、先程より元気に笑うようになったので、どうしてあんなことになっていたのか事情を聞いてみることにした。


「所で、どうしてこんな森の中にひとりでいたんだい?」


 俺がそうたずねると、女の子は急に何かを思い出した顔をして話しはじめた。


「お母さんがね、病気になったの……だから薬草とね泉の水を汲みに来たの」


「君ひとりでかい?誰か大人の人はついてこなかったのかい?」


 女の子はキョトンとした顔で言う。


「どうして?自分の事は自分でやらやきゃ」


 なんと立派なお子様じゃ……。


「それに……この森は危ないからって今は誰も近づかないよ」


「危ない?」


「悪い魔獣が出るって。狩りができる人達が退治に行ったけど誰も帰ってこなかったの」


 そんな怖い魔獣がいる森に俺たちは居るのか……。


『さっき倒したじゃない』


 メールだ。そう言えば女神様なんていましたね。


「え?」


『ほら、ラウベーラよ。本来ならこの森には居ない筈なんだけど別の個体との争いに負けて元の生息地から逃げて来たんじゃないかな』


 迷惑な話だ。そういや近所でも本来居ないはずの猿が出る事があった。詳しい人の話ではボスの座を降ろされた猿が群れから追い出され彷徨ううちにたどり着いたのだろうという事だったが、同じ理屈ならラウベーラも元ボスであり、結構強い個体なのでは無いかと思う。


 スマホでワンパンだったが。


 ともあれ、どうやら退治出来たようなので安心だ。ならば大人たちにその事を伝えれば、以後安心してこの森に来られるようになることだろう。幸い証拠品はストレージに入れてある。それを見せればいくらなんでも信じてくれるだろ。


「よし!俺たちさ、集落に行って肉と野菜を変えてもらおうと思ってここまで来たんだよ。良かったら案内してくれないかな?薬になる素材もあるし、どうかな?」


「薬と…お肉!?そんなのあるの?すごいすごい!みせて!」


 みせてと言われて荷車が空なのを思い出した。


「ちょっとまっててね」


 と、少し離れた所に置いておいた荷車のところに行き、さも元から積んでありましたよと言わんばかりに肉やキノコなどを出して上から毛皮をかけた。


「クロベエ、きてくれ」


 クロベエに荷車を引かせ女の子のところに持っていき、毛皮をめくって中を見せると……。


「わあぁ!すごいすごい!大きい肉だ!すごいすごい!」


 と、すごいを連呼してぴょんぴょん跳ねていた。


 なんかもう、何度も『肉!凄い!』を繰り返して喜んでいる。この世界の人たちは女神の好みのせいで肉に特別な思い入れでもあるのかもしれない……。


『そ、そんなことはないからね!?』


 疑わしい話だ。俺は訝しんだ。




  ◇



 集落への道すがら女の子は名前を教えてくれた。


「あたしね、リットっていうの」


「おう、ありがと。俺達も改めて自己紹介をしよう。俺はユウでこっちがクロベエだ、よろしくね」


 リットはクロベエにまたがりご機嫌だ。


 あれだけ怖がっていたのにフワフワの魅力には勝てなかったようですっかり慣れてしまったようだ。


「うふふ、クロベエちゃん、ふわふわ」


 クロベエに乗る幼女先輩に癒やされていると森を抜けるのはあっという間だ。薄暗い森を抜けると、眩いばかりの日差しと青空が目に入り、遠くに煙が上がっているのが見えた。おお、アレこそが集落に違いない。


 それから草原を30分も歩くと、集落を囲む木製の壁が見え、その入り口には見張り番らしい男が立っていた。


「おーい帰ったよーう」


 リットが声を上げるとこちらに気づいた見張りがびっくりした様子で集落に走って行った。

 

 間もなく戻ってきた見張りは武装した男達を連れていて、入り口を塞ぐ様に立ちはだかる。


「な、何者だ!リット!な、なんだそのお前が乗っている魔獣は!」


「クロベエだよー ふわふわで怖くないよー!」

 

「クロベエですよー ムートさんー この子ふわふわですよー」


「うわあ!なんだあれ!喋ったぞ!」


「ゆうですよー お肉をもってきましたー」


「なんだあいつ!喋るぞ!?」


 そりゃ喋るよ!?人間だよ?へこむよ?


「おい!待て!今あいつ肉っていったぞ!」


「肉だ!」「肉?」「マジかよ…肉?」「肉を持ってきた……だと!?」


 肉で盛り上がり始めた……。


 ねえ、パンちゃんさん……やはり貴方の子達は……


『わ、わたしはかんけいないわよ!』


 肉が効いたのか、リットちゃんの言葉が通じたのか……いや、肉だろうな。兎に角、男達の緊張は和らぎ取り囲まれたままではあるが集落の中に入れることになった。


 ……取り囲んでるのはきっと、防犯上の理由ではなく、肉のためなんだと思う。

 

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