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幼き世界に調律を  作者: 未白ひつじ
第7章
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第百四十七話 まぐろ

 鳥人やドラゴニュート達が投げ釣りに興じる中、俺は海を見つめ勝利を確信していた。


 バシャバシャと水面を叩きながら泳ぐ沢山の魚たち、ナブラだ。

 肉食性の魚類に追い立てられた小魚が水面を逃げ惑う様子をそう呼ぶが、逃げる魚のサイズがかなりでかい。


 40cm以上はあるであろう魚たちが必死になにかから逃げ惑っている。


 これは恐らくそれ以上のサイズ。

 

 女神が泳いでいる、そんなオチも想像したが奴は今も砂の中。

 これはアレでしょう、アレ!


 マグロ。


 厳密にはマグロのような魔魚とかそういうモンなんだろうけど、食っちまえば同じことだ。

 

 自分用に頑丈で使いやすいタックル《釣具一式》を作成し、大振りなメタルジグを結ぶ。

 メタルジグとはルアーの一種で、ずっしりと重いオモリのようなものだ。


 これを陸から沖合に投げ、ひたすらシャクリながら巻くことにより、逃げ惑う魚を演出して青物を狙うショアジギングはそれなりに好きな釣り方だ。


 とは言え、日本で住んでいる土地では陸からマグロを狙える様な場所ではないため、マグロ狙いは初となるが、魚がスレていないこの世界ならある程度いい加減にやっても騙されてくれることだろう。


 ナブラに向けて投げ、あまり沈めずにシャクってシャクってシャクってシャクる!

 

 ……出ないな。


 再度投げ、シャクってシャクってシャクって……疲れてきた……。


 ええい!3度目の正直!


 シャクってシャクってシャクて……はい乗ったあああああ!!!


 ずっしりとした衝撃に身体が持っていかれそうになる。

 ジージーとドラグ(リールに付いている糸が切れないように制御する装置)が鳴り、ラインがどんどん出ていく。


 暴れろ!暴れろ!暴れれば暴れるだけこちらが有利になる!


 ギリギリとロッドがしなり今にも折れそうに見えるが、魔鉄鋼繊維を編んで作られたこのロッドは強い。ラインも虫の魔物に出させた分泌物から作られた特別製なのでそう簡単には切れないぞ!


 気づけば俺の様子に気づいた住人たちが集まってきている。


「なにか様子がおかしいぞ!」

「ありゃあ大物だ!デカいのがかかってるぞ!」

「ユウ!逃がすでないぞ!ワシのご馳走じゃ!」


 へへ……観客が見てる前で……ヘマは出来ねえな!


 左へ右へ上に下に立体的に逃げ惑う獲物と一対一の真剣勝負。

 これだよこれ、これこそが釣りの醍醐味だ。


 かかっているのは恐らくマグロ、しかし釣り上がるまで何が出るかはわからない。

 

 ガチャのようなドキドキ感にリアルに伝わるこの高揚感!

 たまらないね!やっぱり釣りはいいなあああ!!


 やがて獲物は力を使い果たしたのか、抵抗が弱くなった。


 後は潮の流れを利用して陸に上げるのみ!


 竿を立て獲物を持ち上げ、リールを巻いてラインのたるみを取る。

 これを繰り返しとうとう魚影を目視で確認できた。


「で、でかいぞ!なんだありゃ!」

「すげえ……海にあんなのが居るのか……」


 でかい、たしかにでかい!

 まだ魚がもがいているのか、水が濁ってよく見えないが何か大きな物が確かに蠢いている。


 そして、ひときわ大きな波とともにとうとう其れが正体を現す!


「……うう……あれ……ユウ?酷いよ……」


 クロベエでした。


 ……。


 釣り上げたクロベエから事情を聞くと、海を見たいと小春からせがまれ3匹でやってきたのだという。

 岩場で遊んでいると、海から顔を出したルーちゃんに誘われ、そのまま海中へ。


「すごいね、すーちゃんの技。水が楽しいって思ったのはじめてだよ」


 スーちゃんの加護により水中適応を得た猫共は、スイスイと海中を泳ぎ回り魚たちを追い回したり食べたりしていたのだそうだ。


 あのナブラ、発生源はお前かよ!


「でさ、魚に飽きた頃、面白そうなおもちゃがひらひらしててさ、追いかけてたら尻尾に絡まって……」


「そのまま俺に釣り上げられてしまったと……はあ……」


 間もなく、クロベエを心配して猫達と子供達が海から上がってきた。

 

 事情を話すと微妙な顔をしていたが、俺は悪くないだろ!


 その後、暫くの間皆で釣りをして過ごし、集落に戻ってお昼ご飯を食べることにした。



 ウサ族はやや疲れた顔をしていたが、昨日よりはツヤが良い。

 いくらか住人の数を減らしてやったわけだから当然の話しだな。


 釣り上げた魚は焼いたり煮たり、揚げたり、刺し身にしたりと結局俺が調理に回る羽目にはなったが、クッキーおじさんの万倍マシである。


 この手の異世界に置いて、刺し身というのは受け入れられることが多くはないと思っていたが、ここの住人に対しては杞憂でありました。


 よく考えれば鳥人にドラゴニュート。どちらかと言えば獣人族に近い彼らは生食にそこまで抵抗が無いようで、普通に生で食うより美味いと評判が良かったくらいだ。


 特に醤油が気に入ったようで、魚の新たな扉が開けたと興奮している。


 しかし、マグロ……マグロが食べたい……。


 

 ……もう釣りに拘ってらんねえな。


 周囲にはアホみたいに集落の人達が集まって俺達の料理に舌鼓を打っている。人数は十分だ。


「おーい、みんな聞いてくれ!飯を食って一休みしたら浜辺に集合だ!もっともっと沢山魚を取るぞ!」



 1漁りひとかり行こうぜ!

 

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