第百四十六話 漁にテコをいれるぞ
本日は適当に別れてそれぞれ作業をする事にしました。
ウサ族の皆さんは昨日に引き続きプチ物産展を。
何処か縋るような目で見られましたが、昨日より人数が減るからと説得すると、やや目のハイライトが復活したので良しとしましょう。
ばかは子供達を引き連れて海を中心とした探索に。
昨日の件でまだ何か言いたそうな顔をして居ましたが、「お前が惰眠をむさぼっている間に見た海底はとても気持ちが良かったぞ」と軽く誘惑をすると、尻尾を振って出かけていったので良しとしましょう。
クロベエ達猫軍団は今日も付近の森を探索すると張り切っていたので、賢そうな魔物のスカウトと食えそうな野草の調査をお願いしておきました。
クロベエの顔から知性が感じられなかったため、調査に期待は出来ませんが良しとしましょう。
そして追加で召喚してもらった活きの良いモルモル五匹に依頼し、ダンジョンから集落付近の地底まで地下水路を引いて貰うことにしました。
集落付近の地底に地下貯水地を作り、そこを井戸代わりに使おうという魂胆ですが、まあなんとかなるんじゃ無いでしょうか。良しとしましょう。
そして我々、俺とマルリさんのお魚大好き連合ですが、気になることがあるので集落の連中から漁について聞くことにしました。
ではみなさま、張り切っていって見ましょう。
◇◆◇
というわけで、今日はどのように魚を捕っているのか調査をする事にした。
というのも、連中から差し入れてもらったり、交換でもらったりした魚たちはどれも小形で、大きくても40cm程度。
昨日海をうろついた際に海中の様子を見てみたが、集落周辺にもきちんと大型魚類は存在していたし、魚種も豊富だった。
そうなると集落の連中がどんな漁をして居るのか気になるわけで、一人は寂しいのでマルリさんを誘いやってきたわけです。
集落の海辺に行くと、鳥人とドラゴニュート共がだらだらとだべっていたので話を聞くことに。
「おーい、鳥の人、龍の人」
「む、その妙な呼び方はサクサクの人!」
「誰がサクサクの人か!お前らに聞きたいんだけど、魚ってどうやってとってるんだ?」
そう尋ねた俺を不思議そうな顔で見て、「どうやってもなにもなあ……」と首をかしげている。
「海中にデカい魚が居るのに、お前らがそれを獲っている様子が無いからさ、気になったんだよ」
それを聞いた鳥龍達は「これだから素人は」という顔で俺を見る。
なんだその顔は!なんだかちょっとムカついたので実際に漁を見せて貰うことにしました。
浜辺に行くというのでついて行くと、砂に埋まって涎を垂らす女神が落ちていましたが、まあどうでも良いことでしょう。俺に関わりの無いことなので。
写真だけ撮っておきます。
「じゃあ、獲ってくるからここで待ってろ」
ぶっきらぼうに言い放つ鳥のお姉ちゃん。その頼もしい顔に親指を立て、海に向う鳥や龍の背を見送ってしばし待機。
十分ほど経った頃、最初の一人が魚を握って帰ってきた。
それを皮切りに、次々と戻って来て、彼らはみな片手で魚を掴んで居るようだった。
浜辺に作った生け簀に魚を放してもらい、彼らから改めて話を聞く事に。
「ええと、これはもしかして……手でとったの?」
手掴みマン共は女神が俺を馬鹿にする時の顔をして「当たり前だろ?」と。
その顔が何だかカチンと来たので、無双する事にしました。
はー、全体的に雑な世界だからそうかも……って思ってたけどやっぱり手掴みか。
根魚じゃなくて中層を泳ぐ魚ばかり獲ってるのは逆にすげえというか、一周回ってアホやって思うが、よくまあ、それで数を獲れるよな……ほんとデタラメな世界だよ。
つーわけで、文明の光を容赦なく当ててやるぞ!
製作キットを立ち上げ、検索をかける。予想に反して空気を読まずにリールが存在したので、遠慮無く竿とセットで作った。
透明なラインは何かの材料が不足しているのか作れなかったので、そこは妥協した。
出来上がった竿とリールは2.9mのシーバスロッドみたいな感じで、チョイ投げにも使えそうだったため、片天秤の簡単な投げ釣りの仕掛けを作って装着する。
イソメ的な生物を探すのが怠かったので、岩場に行き貝をむしり取って中身を抜いて餌にした。
それを針につけて浜から沖に投げ、しばし待つ。
その様子を馬鹿でも見るような顔で見る集落の連中をガン無視し、しばし久々の釣りを堪能だ。
釣り人にとって憧れの釣り場、それは手つかずの楽園。
スレて居ないピュアなハートを持つかわいいかわいいお魚さん達を容赦なく騙していく。
この世界において釣りは恐らく存在しない。
であれば、入れ食いになる……っと
「そらきたあ!」
突然声を上げる俺にマルリさんがびっくりして尻餅をついているが、可愛いので良しとした。
グイグイとかなりのファイトだ。これは期待できる。
しばしの間おさかなさんとの対話を楽しみ、波の動きに合わせて砂浜に引きずり上げる。
「よっしゃあ!釣れたぞ!」
上がってきた魚を見た連中の顔と言ったら。
「な、なんだそれは?デカいな……」
「知らない魚……魚なのかこれは……?」
「見たこと無いぞ……?」
俺が釣り上げたのは所謂カレイ……ヒラメかも……だ。
こいつは泳いでいる時その姿を見つけるのに苦労をする。
薄い身体で海底に張り付いているというのもあるが、カメレオンのように砂に溶け込んでいるからだ。
釣り上げた獲物は50cm近い大物なのだが、これくらいのサイズでもじっとされていては見つけることが出来なかったのだろう。
こいつら間抜けそうだし。
「名前は……ミギヒラメって言うらしいぞ、ムカつく名前だな」
「ムカつく……?それはいいが、それは食えるのか?」
「ああ、めちゃくちゃ旨い……はずだ。もうちょい釣りを試してみるから試食は後にしよう」
仕掛けを投げ、当りを待ちながら心地よい浜風に目を細める。
いいですよね、釣り。
……風に乗ってウサ族の悲鳴が聞こえてくる……。
ああ、忘れてた……。
「……なあ、今日は俺がお前らに魚の捕り方を色々教えるからさ、もっと人数集めてきてくれ」
「そうだな!知らん魚を捕れるんだ、みんなも知りたいはずだ!おい、シエラ!ひとっ飛びしてきてくれよ」
「あいよ!サクサクの人!あたいが来るまで辞めちゃやだよ!」
「みんなに見せたいつってんだろ!この鳥頭!もっと色々見せてあげるから早く行ってあげて!」
このままではウサ族がまた干物になってしまうからな。
うちはブラック企業みたいな事はしないのだ。
たぶん……。
カサゴのような魚を釣り上げた所で満足したので講習会の用意を始めることにする。
暇そうなドラゴニュート共に餌になる貝の調達を依頼し、鳥のお姉ちゃん達には釣りのレクチャーをして講師役を増やした。
お姉ちゃん達がコツを掴んだ所でそのまま釣りを任せて俺は釣り具の量産に入る。
マルリさんもやりたがったので、量産した最初の一セットを預けた。
グルグル巻きになるお約束を期待したが、以外とまともに使えていてがっかり……。
取りあえず投げ釣りセットを三十セットくらい、仕掛けをその5倍くらい作った。
そして俺は……俺用に別の釣り具を作る。
餌釣りものどかで好きだが、ルアーはもっと好きだ。
ふふふ……昨日海中で見たぞ……奴の姿を……きっと釣れるはずだ……!
次回、マグロ、ご期待下さい!