第百四十三話 生贄召喚とラーメンと子供達
スーちゃんを連れた我々は水のダンジョン湖畔まで戻ってまいりました。
普段であれば、俺は集落に、パン達は転送門作成にとなるわけですが、今のあそこにゃゾンビが居るから俺もこちらで待機です。
とは言え作業を見ているのも暇なので、お昼ご飯でも作ることにした。
なんやかんやあったけど、まだお昼を少し過ぎたくらいだったからな。
ウサ族に作らせた鶏ガラスープがまだあるし、昼はラーメンにでもするか。
鍋に水をはってお湯を沸かす。
お湯が湧く間、スキレットを取り出して葉野菜を軽くソテーしボックスにしまっておく。
っと、チャーシューまだあったかな……あるある。
ウサ族に作らせたチャーシューっぽい何かはまだ十分在庫があるようだな。
ラーメンに置いて俺が無くてはならないと思うのはネギとチャーシューシナチクだ。
ナルトやノリはアレば嬉しいけど無くても別に困らない。
しかし、ネギ、チャーシュー、シナチク。
これらはないとちょっとがっかりする。
中でもネギとチャーシュー、これは外せない。
寂れたドライブインでオーダーしたラーメン480円。
チャーシューの代わりにうっすいハムが乗っていたラーメン480円。
気持ち程度のネギが浮かんでいたラーメン480円。
薄いスープに伸びた麺が泳いでいたラーメン480円。
俺が一生許すことがないだろうドライブイン。
チャーシューの代わりにハム、これはまあわからんでもない。
しかし、縁が赤くてうっすいハム、オメーはだめだ!
目玉焼きさんと仲良くしてハムエッグになりたまえ!!!
っと、いらん事思い出してたら鍋がグツグツ煮えたぎってしまった。
この状態のまま保温しといて、そろそろスープにも火を入れておこう。
スープに熱がまわりふんわりと鶏ガラスープの香りが洞窟内に漂い始める。
……ゾンビ共来ないよね?
麺の用意が出来た所でマルリさんが走ってきた。
「ユウ、ラーメンじゃな?ラーメンを作っているのじゃな?」
「そうだよマルリさん。お昼はラーメンだよ。ルーちゃん達は?」
「連中はあちら側に行ったが、間もなく戻ってくるはずじゃよ」
「そっかそっか、じゃあ先に食べて待ってよっか」
「わーい」
マルリさんの幼女化が止まることを知らない。
麺を茹で、鶏ガラスープと醤油を混ぜてスープを作る。
器に盛って、ネギ的なアレとチャーシュー、炒めた野菜を乗せる。
はー……筍はいずこ。
シナチクがないのは残念だが醤油ラーメンの完成だ。
「はい、どうぞ召し上がれ」
「あつい!あついのじゃ!」
「ふーふーして食べてね」
「ふー!ふー!」
なんだか猫が威嚇しているみたいだが面白いから黙って観察する。
ほんと、すっかりうちの子化というか、マスコット化してしまったが本当にこれでいいのだろうか。
いや、いい。これからもマルリさんはうちの子で居てもらおう。
等と残念な決意を固めていると子供達が帰ってきた。
「おかえりーって馬鹿は?」
まちがえた
「もとい、ぱんは?」
「ママはウサ族を選んでくるっていってたよ」
「なんでも菓子を作れるものを連れてくるとか」
「オトウそれはなにをしているー?」
報告の中に一人腹ペコが混じっているな。
「うし、アレの事は置いといてみんなもそこに座りな。ご飯できてるからさ」
「「わーい」」
ボックスから出しておいた食卓セットに子供達が座りラーメンを今か今かと待っている。
スーちゃんは食事を摂るのがはじめてなので、マルリさんの様子を不思議そうに見ていた。
ラーメンを仕上げ、子供達の前に置いてやる。
「スーちゃん、これはラーメンというものだよ。皆のマネをして食べてごらん」
「らーめん?」
ふーふーはふはふずるずると食べる皆の様子を暫く眺めていたが、何か理解したのかおずおずと木のフォークを持ってラーメンに挑み始めた。
「ふーふー……あち、あち……ずるずる……おいしい……」
「熱いからな、ゆっくり食べな」
「オトウは食べないの?」
「俺はアレが戻ってきてからな。先に食うとうるせーんだ」
「そっか、じゃあオネエ達と食べる」
幼女が4人ラーメンを啜る姿を眺めていると父親というか保父になったような気分になるな。
なんというか、ノリというか好みというかでダンジョンコア達を幼女にしているが少年タイプと言う手もあるんだよな。
他に居そうなダンジョンコアは風や土か。
ナーちゃんやスーちゃんを見ていると元素が性格に影響をしているという気配がないと言うか、水がおしとやかなお姉さんとか、火が苛烈な元気っ子とか、そういうイメージこそが漫画やラノベの刷り込みなのだろうと思う。
でも、そうは言っても風は吟遊詩人系の雰囲気で、土はドワーフ的な雰囲気がどことなくするから、なんとなく少年化に食指が伸びねえな……。
まあ、今考えても仕方ない。機会が来たら考えることにしよう。
子供達が食べ終わった丼を片付けていると賑やかな声が聞こえてきた。
「クッキー三銃士を連れてきたわよ」
「いや、今ラーメン食わしてたところだからそのネタはやめろ」
「よっす、どうも」
「お前が具の専門家だったか」
「じゃなくて!先に食べちゃったの?ずるい!」
「俺は食ってないよ。子供達待たせるの可愛そうだろうが。ああ、ウサ族もご苦労だったな。
飯まだか?一緒に食うか?」
連れてこられたウサ族は5人も居た。三銃士じゃねえのかよ……。
こいつらはあまり遠慮をしないので、食べます食べますと嬉しそうにしている。
しょうがないので7人分のラーメンを用意して大人軍団の昼食とした。
「ユウ様の料理はやはり美味しいですね。ズルズル我らウサ族料理人の神に相応しいズルリ」
「そらどうも。お前らも色々工夫して作り出してるだろ?ありがたいからどんどんやってくれな」
「もったいなきお言葉ズルズル」
食うかしゃべるかどっちかにしろい。
ウサ族に今後の予定を包み隠さず説明する。
ここで下ごしらえを済ませ、集落に向かうということ。
着いたらひたすらクッキーを焼いて集落の連中にクッキーを渡すということ。
「昨日は無料で振る舞ったが、今日は交換会にする。その説明は俺がするから、心配するな」
まだお振る舞いをしてもいい気もするが、今後ここも村化するにあたって大盤振る舞いを続けるのは良くはない。
本日からは物々交換に変え、時が来たら通貨での売買に切り替えるのだ。
「例の箱を置いとくから受け取ったものを入れたり、足りない材料を取り出したりしてくれ」
「はい、任せて下さい」
前に女神に作らせた設置型のアイテムボックス。
素材を気軽に出し入れするために貰ったものだったが、スマホの使い方に慣れてからあまり活躍しなくなっていた。
しかし、こういう屋台めいた用途とはとても相性が良い。
誰でも使うことが出来るため、ウサ族のように信用ができるものには好きに使わせているわけだ。
……というかこの世界で純粋な「悪意」という物は魔物と女神以外から感じたことがないな。
なんだか本当に変な世界だよなあ。