第百三十九話 つごうのよいせかい
女神の話によると、浜辺にひっそりと口を開けた洞窟があり、その中がダンジョン化しているとのことだった。
「というか、直ぐ見つかったのよダンジョン」
「自分で作ったようなもんだろうから、身体が覚えていたとかそういう……?」
「違うわよ!折角の海じゃない?子供達と一緒に泳ごうと思ってさ、砂浜に向かったのよ。
でね、ご丁寧にも集落から砂浜まで板で作った道が続いてたのよ」
「へえ、ここの住人たちはなかなかやるじゃないの」
「ね。それでさ、その道は砂浜に着いてもまだ終わらなくてね。
ずっと辿ったら何があるんだろう?ってちょっと歩いてみたわけ」
「お前アレだよね、お祭りのパレードなんか見つけたらもうずっとついていっちゃって迷子になるタイプだよね」
「ば!そ!な!うぐ……そんなこと……ないもん!?」
「言葉に詰まった挙げ句疑問系かよ!まあいいや、続けてくれよ」
「もう!ええと……ああ、そうそう、でさあ、間もなく洞窟が見えてきてね?
ははあ、これはこれはと入ってみたんだけどね、結論から言えばそれはダンジョンだったんだけど、坂を下っていったらさあ、たっぷり水で満たされていてね、その水辺に何人か人が居たのよ」
「ヒゲミミ村の人達も採掘なんかで入ることがあるようだったが、ここの連中もか」
「整備までしてるじゃん?気になって聞いてみたわけよ。ユーは何しにダンジョンへって」
「うわあ……」
「当然、そこがダンジョンだって事は知らなかったんだけど、その人達は水を汲みに来たといってたわけ。
もーびっくりよねー。水のダンジョンなのはわかるわよ?でもさあ、海辺で淡水かよって」
「わかる」
でもお前がそれを言うとなんか釈然としねえ……。
「あの集落だと水の調達が面倒なんだってさ。そうよね、あの作りじゃ井戸なんて作れないもん」
「そうだろうな。それで近場のダンジョンで水をくんでるってわけか……なんとも豪快な」
「たまにいたずらされることがあるって言ってたから、念の為暫く大人しくするよう魔物共に言い聞かせてきたわ!」
「それはでかした。後で無害化するとはいえ、それまでなんかあったら嫌だもんな」
……と言う具合に思った通り、極々近所にダンジョンが存在し、今後の仕事がやりやすくなったなと胸を撫で下ろしたわけです。
さて、明日からどうしよう?
やるべきことはわかってるんだ。
代表への挨拶に、物産展に、村の説明……そして同意のもと、集落の整備と村化の用意。
だいたいそんな感じなんだけど、今日の惨状を思い出すにとてもじゃないが物産展はきつい。
ここはやはりヘルプを呼ぶしか無い……な。
明日は代表への挨拶だけして、取り敢えず先にあっちとこっちを結ぶ作業に入るか。
◇◆◇
おはようございます、ユウです。
いやあ、ご都合展開っていいですよね……。
昨日R18な顔を見せてくれたブレイクとハンナ、あの二人こそこの集落の若き代表だったのでした。
この集落はある程度の年齢に達したらさっさと隠居をして、後は若いもんに任せるというスタイル。
そしてその代表に選ばれるものは誰よりも魚を捕る技術に長けた者とされるそうだ。
つまりブレイクと話をつければ魚の件も片付くというわけで、朝の散歩中、ブレイクと遭遇し、昨日の騒動の謝罪と感謝をされた俺は既にミッションコンプリートという具合で朝からご機嫌なのである。
「詳しい説明はまた後でするけど、今後俺達と良い付き合いが出来れば嬉しく思うが構わないかい?」
ドラゴニュートのブレイクは何処かソワソワとしていたが、俺からの質問には快く頷いてくれた。
「ああ、勿論だ!昨日は皆ああは言ったが、肉だって俺達は獲るのが苦手だからな。
それにあの見慣れない草や実はとてもうまかった!あれらが手に入るのであればこちらから願いたい」
嬉しそうにそう語るブレイク氏、やはりどこか浮ついている。
ははあ……言葉には出さないが、きっとアレだな……。
周囲を確認、人気は無し。
……今ならいいか。
「ブレイク、ちょっとこちらに……」
「む……?なんだ?お前男なのだろう?それに俺にはハンナという妻が……」
「ちげえよばか!頬を染めるな!いいからこっちこい!」
気持ち悪いのを我慢して、ブレイクと身体を寄せ合う。
ボックスから手元にアレを取り出すとそっとブレイクに手渡す。
「……これは……まさか、この香りは……」
「し!他の連中に知れるとまた昨日の騒動が起こる。これは俺からお前への友好の印だ。
さあ、嗅ぎつけられる前にさっさと行け!」
「っく!礼を言うぞ!ええとお前……まあいい!後だ!」
シュバッと素早く駆けていくブレイク。
「そっか、まだ俺名乗れてなかったんだ……」
ブレイクが去り際に困った顔で言葉を探していた理由、それは俺の名前を思い出そうとしていたのだろう。
名乗ってないんだからしかたないわ。
さて、ダンジョンに行って用を足そうか、そう思った瞬間。
バサリ
背後で羽音が響き、背中に体重を感じた。
妙な柔らかさとぬくもりにしばし動揺するが、くんくんと嗅がれていることに気付いて慌てて身を離す。
「うわああ!!」
「む!こら!今昨日のアレを食べていたでしょう!私にも出しなさい!」
紫色の鳥人がくんくんと鼻を鳴らしながらにじり寄ってくる。
「何いってんだ!今日は無いよ!ほら!何も持ってない!」
素早く距離を詰めた鳥人は俺の全身を弄り、なにもないのを確認するとがっくり肩を落として去っていった。
……はあ、さっきの感触は強く心に刻みこむとして、さっさと転送門を作らないと暴動が起きるなこりゃ……。
「ユウーおなかすいたよー」
「父上ー!私も朝食を食べたいです!」
「何でも良いから早くつくるのじゃー!」
目覚めた子供達が朝食をねだりにやってきた。
もうそんな時間か、さて飯を食って女神を叩き起こしてダンジョンに向かうとするか。